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好きになれないだけです

 ……あ。  そういえば……禁忌魔法ですね……? 「あの魔術陣はどこから手に入れたのだ」 「ここでのことは他言無用でお願いしたはずです」  このくらいで引き下がってくれるとも思えないけど……。 「他言はしない。私はケイトの持つ謎に惹かれているだけだ」 「でしたら謎は謎のままが魅力的ではないでしょうか?」 「つれない事を言うな。君の秘密を……私だけに明かしてくれないか?」 「それは残念です。俺の秘密は全部ディアリンドが知っているので、ルド様だけに明かせるものはないですね」 「……なぜそう私に当たりが強いのだ? 私が何か怒らせるようなことをしただろうか?」 「ルド様はディアリンドが悲しむことをなさるので、好きになれないだけです」  俺の言葉にリヴァルド陛下は、ガーンとショックを受けたのが目に見えるほどの狼狽ぶりを見せた。 「好きに……なれない……? この私を……?」  そんなに不思議そうに言われると、俺まで不思議になっちゃうな……。  この人って性格的には味方より敵の方が多そうなんだけど、違うの……?  意外と本人は、皆に愛されてるつもりで生きてたの……? 「よし、終わったよ。手筈通りに……いや、圭斗の指示に沿ってくれ」  ああ、父さんの息が荒いな。  父さんの魔力はあとどのくらいあるんだろう。 「リン、連れてって」  俺の言葉にリンは「はい」と答えて俺を抱き上げると柱の元へ走った。  治癒を回す俺の隣で、リンが鑑定結果を報告する。 「時間停止状態です。それと、手の腱が複数個所切断されています」  ああ、この人は魔法が使えないようにされていたのか……。  掌に並ぶ傷痕は完全にふさがっているけれど、そう古い傷には見えないな。  俺は反射的にリストに並ぶ損傷個所を治そうとしかけてから、術を解いた。  この人は俺達と何の接点もない。  敵か味方かも互いに分からない状態だ。  ここに詰め込まれていたという事は、おそらく味方側の考えの人なんだろうけど、それでも、いきなり強力な魔法を向けられてしまってはこちらに損害が出る可能性が高い。  私兵の人達に視線を投げて、俺は言う。 「この人は強力な魔法を使う可能性が高いです。魔法技師への対処ができる方はいらっしゃいますか?」 「はい」と数名の手が上がる。 「では俺が時間停止を解いたら、すぐに彼の拘束をお願いします。なるべく手荒にならないようにしてくださいね」  返事をもらって、俺は二度目の時間停止解除を行った。  二度目はすっかり手も慣れて、つっかえることなく陣を描けた。  ふぅ。と息を吐いて「できました」と告げると、私兵達が手早く男を引きずり出して両手を後ろに組ませて拘束する。  床に押し付けられてしまったその人の前に、俺はしゃがみこんだ。 「ぅ……」  小さな呻きを漏らした男に、俺は身構える。  すぐに障壁が張れるようにしつつ様子を見ていると、後ろからセリクが駆け戻ってきた。 「思い出しましたっ、ケイ様、その方はドリュトリー様ではないでしょうかっ!?」  ドリュトリーさん……?  聞いたことない名前だな。 「ああ、随分前にたしかそんな名前の大魔法技師がいたな……?」  リヴァルド陛下が呟くと、後ろから補佐官が詳細を伝える。 「765年前に失踪したワープゲート研究の権威です。失踪当時は50代後半だったと伝えられています」  前からちょっと思ってたけど、リヴァルド陛下の補佐官さん凄すぎない?  インターネットにでも繋がってるのかな? 検索して答えてるの? ってくらいに、年数とか数字に強すぎない?  50代後半に見えるドリュトリーさん(仮)がゆっくりと目を開く。  宝石のような綺麗な黄緑色には、見覚えがあった。  セリクの瞳の色と一緒だ……。  ハッと男が現状を把握する。  その瞬間、魔力が大きく動いた。  俺が障壁を出すのと同時に、リンが俺の身体を抱えて後方へと跳ぶ。  ゴウッッと唸りを上げたのは竜巻のような鋭い風だった。  男の背や首を押さえていたはずの私兵は全員吹き飛んでしまっている。  マズイ!  そう思った途端、空から降りそそいだ風の槍が竜巻を切り裂いた。  セリクの風魔法だ。  男が驚愕に目を見開いて、それでも両手を前に出す。  ああ、指がほとんど動いていないのに、必死で手を開こうとしている。 「捕らえろ」  リヴァルド陛下の声と共に、男は四角く区切られたグレーの空間に閉じ込められた。  えっと、これって空間魔法?  遮音みたいなやつ……? 「なんだこれは!」  中の男の声は多少くぐもっているが聞こえるな。  これなら会話ができるだろうか。  男はいくつかの魔法を中から放っているが、四角い空間はビクともしていない。  それどころか、中で魔法が渦巻いて大変なことになっている。 「うをわぉぉぉぉぉぁぁぁっ」  風にもみくちゃにされた男がなんとか風を収めて肩で息をする。 「なんだこれは! すごいな!!」  いや待って、この人閉じ込められてるのに、なんか瞳を輝かせているんだけど……? 「これって空間魔法なんですか!?」 「魔法の妨害は内側のみなのかい!?」  待って?  セリクと父さんも同じテンションでリヴァルド陛下の補佐官さんに食いついてきてるんだけど?  中の人までも「これは張っている間中魔力を消費しているのか?」と尋ねてるんだけど?  ドンドンッと内側から叩くのは分かるけど、父さんが外側から叩いてみてるのおかしいからね!?  リヴァルド陛下の補佐官さんが困惑の眼差しをリヴァルド陛下に向けてるけど、当のリヴァルド陛下は「これはどうしたらいいんだ」みたいな視線を俺に向けてきてるんだけど?  えっ、これ俺がなんとかするとこなの!?  俺は背筋を伸ばして大きな声ではっきり伝える。 「皆さん一回落ち着いてくださいね。私は圭斗、聖女です。そちらは魔法技師さんとお見受けしますが、お名前をうかがっても構いませんか?」 「おお、聖女様でいらっしゃいましたか。道理で左様にお美しいのですね。私はドリュトリーと申します。仰る通りのしがない魔法技師です」 「あああやっぱりドリュトリー様でしたかっ! 僕はセリクと申しますっ。ご著書のワープ理論を拝読いたしましたっ! とても素晴らしかったですっ!」 「あれを理解してくれたのか!? 君のような若い人にそう言ってもらえるなんて、光栄だよ!」 「ほう、ワープ理論とは心惹かれるタイトルじゃないか、私もぜひ拝読したいものだね」 「魔研所の資料室にあるので、ミノル様でしたら閲覧願いを出せばご覧いただけると思いますよ」  盛り上がる研究者達に、俺は仕方なく両手をパンッと叩き合わせて注目を促す。 「はい、そのお話は後からにしましょうね。ドリュトリーさん、私達には貴方を害するつもりはありません。お話をきかせていただきたいのですが、拘束を解いても構いませんか?」 「解いてもらった後に、また見せてもらう事はできるだろうか?」  尋ね返されて、俺はリヴァルド陛下と補佐官さんを見る。  陛下はクククと小さく肩を揺らしながら頷いた。  なんだか楽しそうな顔してるなぁ。 「はい、可能なようです。ドリュトリーさん、我々に攻撃をしないとお約束いただけますか?」 「ええ、お約束しましょう。こちらこそ、咄嗟とはいえ状況も把握できぬままに魔法を使い、聖女様方にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」  うん、これなら大丈夫そうかな?  リヴァルド陛下に視線を送る。 「解いてよし」と言うリヴァルド陛下の声に応えるように、グレーの四角い空間は地面に溶けるように消えた。 「おお!」 「なるほど!」 「そういうことですか!」  ……どういうことなの?  とりあえず、3人の研究者達は消えたグレーの四角い空間の話で盛り上がっているので、俺はひとまず先にリヴァルド陛下の方へお礼に行く。 「ルド様、補佐官さん、先程はありがとうございました。とても助かりました」  リヴァルド陛下は満足そうにニヤリと笑うと「ああ、その言葉が聞きたかった」と言った。 「あの、補佐官さんのお名前をお伺いしてもいいですか?」 「ああ、こいつはマークレーという。私の片腕だ」

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