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第2話
「抑制剤持った?」
高校まで毎朝そう確認してくれた母が、未だに訊いてくる。
「お母さん、僕もう大学生だよ。
ちゃんと持ってるってば」
「でも、今日から共学なのよ?
αだってうじゃうじゃいるの。
統和が傷つくのは見たくないわ」
と母が眉を下げる。
僕がΩだと分かった時、母に泣いて謝られた。
僕は母を泣かせないために、絶対にヒートトラップなんて起こさない。
そう心に決めている。
「僕だって知りもしないαと番うのなんて嫌だよ。
ちゃんと自衛してるから大丈夫」
「そうしてね。
あ、来週は定期健診なんだから、私が言わなくてもちゃんと病院に行くのよ」
「分かってる。予約も取ってるよ」
僕たちΩは突発的なヒートを起こさないため、抑制剤の効きはいいかとか量が丁度いいかなどの定期健診を受けなくてはならない。
そういうところも、やっぱり厄介な性だなと思う。
「そう。さすが統和ね。
じゃあ、気を付けて行ってくるのよ」
「うん。いってきます」
そう言って僕は家を出る。
念願だった国公立の大学に合格し、1人暮らしでも始めようかと思ったけれど、父も母も心配してまた着いてきてくれた。
そんな両親を鬱陶しいだなんて思えない。
ヒートの時は、本当に一歩も動けないので、いてくれたらむしろ心強くてありがたい。
とはいえ…、いつかはちゃんと自立しなきゃいけないんだろうと頭では思っている。
その大学は父と母の母校と言うこともあり、僕は中学の頃から入学したいと思っていた。
あの時はβだと思っていたし、ずっと地元にいる気だったし、地元で名の知れた国公立大だなんて両親も安心だろうから。
太陽にもそんな風に言った気がする。
彼も「ふーん。統和が行くなら俺もそこかな」なんて言っていたような…
でもまあ、彼なら今頃は難関大とか有名私立とか通っているのだろう。
友達、できるかな…
同じΩの子がいるといいな。
Ωの結託 は凄い。
同じ性ってだけで仲間意識が湧くからすぐ友達になれる。
万が一、急にヒートが来てもΩなら影響されずに助けられるし。
大学に通い始め、同じ学部に1人だけΩの子がいるのを見つけて思わず話しかけた。
彼もずっと同志がいないかと探し回っていたらしい。
あっという間に意気投合して僕たちは友達になった。
井上遊馬 というのが彼の名前で、僕は関東のΩ専門高だったけれど、彼はずっと北の高校に通っていたらしい。
僕と違って、彼のご両親は息子がΩであることを認められず、遠くに飛ばされたのだと言っていた。
縁も切れているから何をしているかも分からない、と。
こういうΩの子はまだまだざらにいるだろう。
Ωへの差別は完全には抜けきっていないのだ。
お互いの学校のあるある話なんかで盛り上がったり、遊馬は恋多きΩなので恋バナを聞いたりもした。
全く違う境遇で育った同性だからこそ、話は尽きなかった。
いい出会いがあってよかったと心から思った。
ある日、遊馬から「合コン行かない?」と声を掛けられた。
「合コン?」
馴染みのない言葉に僕は首を傾げる。
それって、男女がする飲み会みたいなものだよね?
Ωが参加していいんだろうか。
「そう!Ωとαの合コン!
まあβもいるけれど」
「でもさ、僕たちまだ18歳だし、飲めないじゃん。
ちょっと早くない?」
僕がそう言うと、遊馬は「何言ってるのぉ!」と目を見開いた。
「僕たちΩが生きていくには、女性以上に結婚が必須なんだよ!
ヒートがあるせいでまともな職に就けないんだから、誰かに娶 って養ってもらうしかないの!
若いうちに伴侶見つけておかないと!
それに、20歳から本気を出したって遅いよ。
今のうちに場数踏んでおかなきゃ!」
と力説された。
遊馬の言うことは一理ある。
遊馬は、高校生の頃から親元を離れて一切頼らずに生活しているからか、達観したところがある。
恋多きではあるけれども、それも未来を見据えてのことだ。
大学だって、国公立なのは学費を浮かせるためだし、親からの手切れ金と高校からバイトを続けてコツコツ溜めた貯金を駆使して生活している。
それが可哀想で何度か僕の家に招き、夕食を食べてもらっている。
母は「息子が増えたみたいで嬉しい」と言って喜んでいる。
遊馬に「同情されてるみたいで嫌?」と訊いたところ、「全然。同情でも、貰える施しは全部受け取るよ!統和んちのご飯美味しいから嬉しい」と言ってくれたので、気兼ねなく誘っている。
遊馬の逞しさに、僕はいつだって尊敬してしまう。
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