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第7話

ヒートが落ち着いてきて、明日あたりから授業に出ようかなと思ったところで、携帯の存在を思い出す。 流石に電池が切れたようで、画面は真っ暗だった。 充電器に繋ぐと沢山通知が来ていて、主に遊馬と太陽からだった。 遊馬からは授業に関することと、先輩とのノロケの話だった。 太陽からは毎日 『おはよう、大丈夫?』 『おはよう。今日も辛い?平気?』など心配するメッセージが来ていた。 何か送って、送信を取り消した日もある。 こんなに心配してくれたのに、返信もしてなくて申し訳ないなと思った。 最後は今朝の『返信できないくらい大変なの!?生きてる?死んでない?大丈夫!?』だった。 こんなに焦っている太陽を見たことがない。 僕は、申し訳ないけれどくすっとしてしまった。 太陽の周りにはあまりΩがいなかったのかな。 ヒートに個人差はあるけれど、Ωの学校で見た限り、皆こんなもんだったと思う。 『返信できなくてごめんね。 変なメッセージ送っちゃいそうで電源切ってた』 と返す。 すぐに既読がついて 『生きててよかった!もう大丈夫?』と返事が来る。 太陽はいつも即既読・即レスだ。 まめだなぁと感心してしまう。 『うん。明日からは授業に出るよ』 『本当に?心配だから、迎えに行く。 明日は何限目から?』 そう訊かれて、僕はうーんとベッドに突っ伏した。 そんなの悪い。 でも…、会いたい自分もいる。 『2限目からだけど、太陽くんの時間が合わなかったら無理しないで』 するとすぐに『OK。じゃあ〇時頃家の前まで行く』と返事が来た。 別に恋人ってわけでもないのに…、と考えたところでその文字を頭から抹消する。 そんな風に考えることすら気持ち悪いって! 太陽は皆に優しいんだから、そうやっていいように受け取るのは止めよう。 僕達は友達なんだから。 それに、もし太陽の恋愛対象が男のΩだったとして、相手は遊馬みたいに小さくて可愛い子だろう。 僕はほんの少し線が細いだけのβに見える。 翌朝。 目が覚めるとさらに頭はすっきりしていて、予定通り授業は受けられそうだと安心する。 母は心配しつつも「何かあったら私やお父さんに必ず連絡するのよ?」と、渋々送り出してくれた。 軽く身支度を整えて外に出ると、すでに太陽が玄関先に立っていた。 ヒート中、想像の中で色々と使用させてもらったため、気まずい。 そんな僕の内心を知らぬであろう彼が「おはよう。久しぶり」と爽やかに笑いかけてくる。 あまりに爽やか好青年だったため、うだうだとしたものが吹き飛び、僕も「おはよう。来てくれてありがとう」と応じることが出来た。 「本当にもう大丈夫?」と訊かれ「うん。すっかり本調子」と答えたが、太陽が僕の目の前に立って顔を覗き込んでくる。 顔が良すぎて直視できないし、恥ずかしくて顔が熱くなる。 視線に耐えていると、すーっと顔が近づいてくる。 えっ!?なに!?キ、キスとか!!? 僕はどぎまぎしながらも、目は開けていられず、ぎゅっと瞼を閉じて落ちてくるであろう唇を受け止めようとした。 …が、彼の顔は僕の顔を素通りして、首筋に降りてきた。 すんすんと匂いを嗅がれる。 顔を離した彼は「んー…、でもちょっとフェロモンの香りがするし。あまり1人にならないほうが良いかも」と言った。 僕はバクバクの心臓を押さえながら「え、に、匂い?匂いね!気を付ける!!」と大きな声で返すと「早く行こう!」と先立って歩き始めた。 び、びっくりした… 太陽は心配してくれただけなのに、自分の自意識過剰さが恥ずかしすぎる!!! 真っ赤な顔を見られるのが嫌で、僕は絶対に太陽より前を歩くようにして学校へ向かった。 構内に入り、別れるところで「俺も同じ学部が良かったな」と太陽に言われた。 けれど、僕からしたら同じ大学ってだけで奇跡だからそんな我儘は言えない。 肯定も否定もできずに突っ立っていると 「あれー?園田じゃん」 と誰かに声を掛けられた。 太陽がこっそり「同じ学部の先輩」と教えてくれた。 もう先輩と交流があるんだ~と感心する。 「園田、最近飲み会来ないじゃん! あんなに大学内のΩ全員と知り合いたいとか言ってたのに~」 太陽にそんな野心があったなんて…、と驚く。 「ちょっと、人聞き悪いこと言わないでくださいよ」 「Ωも希少なんだからチャンス逃がすなよな」 先輩はそう言って太陽の肩を叩く。 そこでようやく僕に気付いたのか「あれ?見ない顔だね。1年生?」と声を掛けられた。 僕は頷いて「〇△学科です。初めまして」と会釈する。 「ふーん。君はβ?まさかΩ?」と視線を這わされる。 あまり自分のバース性を言いたくなくて言い淀んでいると、太陽が間に入り僕を背中に隠した。 「そういうの、あんま訊かない方がいいっすよ」と言う。 背中しか見えないから、どんな表情をしているか分からない。 「もしかして…、見つけた? 何だよ~、早く言えよな」と先輩は笑う。 「まあ、また紹介してほしくなったら言って。 αがいるって言うとΩの集まりが良いからさ」 「…」 「睨むなよ、冗談じゃん!じゃあな!」 と、慌ただしく先輩は走り去った。 あんな風に他学年と気兼ねなく話せる2人が羨ましかった。 「ごめん、統和。 先輩が言ったことは気にしなくていいから」 太陽に謝られて首を傾げる。 「何の話か全然分からなかったから気にしてないよ」 「そっか。じゃあ、授業終わったらまた会おう」 「うん」 そう約束して、僕は授業棟へ向かった。

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