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第8話
遊馬と合流して、僕が休んでいた間の書類を受け取る。
ヒート休暇の申請をすれば、授業の映像データを送ってもらえる。
だから、そこまで授業についていけなくなることはないんだけど、どうしても紙で配られた資料は誰かから見せてもらうしかない。
遊馬と僕は、互いの休暇中は資料を相手の分も受け取ることにしていた。
僕たちのヒート期間が被ってなくて良かった。
一通り、書類の説明を終えた遊馬が「で、どうだったの」と訊いてきた。
「え?何が?」
僕は思い当たる節がなく、聞き返した。
「え~、とぼけないでよ~!
今回のヒートは園田くんと過ごしたんでしょ?」
思いがけない言葉に僕は「はぁ!!?」と大きい声を出してしまった。
授業中じゃなくて良かったけれど、僕の声は教室中に響き渡り、その場にいた人にジロジロと見られた。
「あ、すみません」と僕は小声で謝り、遊馬の肩を小突く。
「太陽くんと過ごすわけないでしょ!
番でもないのに」
と僕が睨むと、遊馬は肩をすくめた。
「今時、番どころか付き合っていなくても体くらい重ねるでしょ。
それがヒート期間ならなおさら」
そ、そういうものだろうか?
でも、万が一、彼が僕なんかの項を噛んでしまったら…?
僕みたいな可愛くもないΩの面倒を見なくてはならなくなる。
それは太陽に申し訳ない。
「とにかく、僕と太陽くんはただの友達だよ。
それに、どうやら校内のΩ全員と会う予定らしいんだよね。
太陽くんも番を探してるのかな?」
と僕が言うと、遊馬は「え、なにそれ?どういうこと?」と訊かれる。
それで僕は、さっき太陽の先輩から聞いた話を遊馬にした。
「はぁ?それが本当なら、園田くんってなんか最低」
遊馬が顔を歪める。
「そうかな…?」
βの先輩と出会う前までの遊馬と何も変わらないような気もするけど…
僕の表情で言いたいことを察したのか
「僕は校内のα全員と知り合いたいだなんて思ってなかったもん!
僕を大切にしてくれる誰かと出会いたかっただけ!
そんな無作為に全αを食い散らかそうなんて思ってなかった!」
と遊馬は憤慨して言った。
「そっか」
遊馬の言う通りのような気もしてきた。
でも、僕は太陽がどんな恋愛をしようと口出しする権利はない。
僕はただの友達だし…
その瞬間、なんだか胸がチクリとした。
僕は太陽の恋人にはなれない。
当たり前の事なのに、それを再認識すると苦しい。
僕なんかじゃ釣り合わないことは理解していたはずなのに。
授業を受けて、空きコマに遊馬とカフェテリアで駄弁っていると、「君たちΩ?」と声を掛けられた。
僕は知らない男性2人に声を掛けられてどうしていいか分からずあたふたしていたが、遊馬は「そうですけど」と返事をした。
「へぇ~、うちの大学にもいるんだ。
君可愛いね、男だけど全然いける」
と、遊馬の隣に勝手に座り、肩を組んだ。
遊馬は露骨に顔を歪めて「僕彼氏いるんでそういうの要りません」と手を振り払う。
その男はしつこく食い下がろうとしたが、僕の隣に座った男が「彼氏持ちは相手が上位αだと面倒だからやめとけ」と制した。
「で、君は?フリー?」とその男が僕の顔を覗き込む。
「え、えっと…、Ωじゃないです…」
と嘘をつこうとしたが、「嘘つき。さっきからすげぇ良い匂い振り撒いてるよ」と指摘されて口を噤む。
太陽に「匂いに気を付けろ」と言われたばかりだった。
「えー、そいつ地味じゃね?
俺、ビジュならこっちがいいんだけど」
と未だに遊馬に絡んでいる男が文句を言うが
「上位αの怖さ知ってんだろ。
それに、こいつはこいつですげぇ良い匂いするから顔なんか気になんねぇよ」
と言って肩を組んできたその男は、僕の項 に顔を寄せた。
スンスンと嗅いだ後に温かく湿ったなにかにそこを撫でられた。
「ひっ!?」
反射的に声が出る。
舐められた!?
項はΩの急所だ。
そんなとこを舐められて平気でいられるはずがない。
「ちょっと!!合意もなく項に触るなんて最低!!」
と向かいから遊馬が注意するけど、男は「拒否もしてないよね」と余裕たっぷりに答えた。
怖い…、のに、男から発せられるαのフェロモンのせいで完全に拒否しきれない。
まだヒートが完全に終わってなくて、今このαに噛まれたら…、番が成立することもあり得る?
そう考えると恐怖で体が震えた。
「統和から手を放せ!!少しでも触ったら通報するから!!」
と、遊馬が反対の席から吠えるが、あっちはあっちで別の男が動きを封じているから抵抗が出来ない。
どうしよう…、と焦っていると「おい」と声を掛けられる。
「なんだよ、今取り込みちゅ…」
と文句を言いかけた男が「ひっ!?」と言い、立ち上がる。
僕たちに声をかけてきたのは太陽だった。
「俺の連れに何か用?」
言葉は強くないものの、圧が凄い。
僕に言ったわけではないのに、その威圧感で僕の体は震えた。
「おい、マジでこいつの彼氏、上位αじゃねえか」
「うるさい、早く行くぞ」
そう言って彼らは逃げるようにカフェテリアを後にした。
「ちょっと!僕の彼氏はもっと優しげで素敵な人だってば!」と、遊馬が走り去る男たちの背に言ったが、多分聞こえていない。
「あ、ありがとう」と僕が言うと、太陽は溜息を吐いた。
助かった…、けど、そんなに嫌々だったなら放っといてくれてもいいのに…
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