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第17話
がらりとドアが開いて、今度は男の人が入ってきた。
「誰?」
「誰?じゃなくて挨拶でしょ!」と古谷先輩が、不躾な視線を送る男の人を睨む。
「い、いえ、あの、こんにちは!
1年生の今井統和です!」と、僕は慌てて立ち上がってお辞儀をした。
「園田です」と太陽も座ったまま頭を下げた。
「どうも。3年の草間。なに?入会すんの?」
答えようかと思ったけれど、草間さんは古谷先輩の方を向いていたので口を噤んだ。
「ううん。今日は見学。
っていうか、自己紹介端折りすぎでしょ。
園田くん、今井くん、この人がうちのリーダーです」
古谷先輩の思わぬ一言に、僕は草間さんを凝視した。
だって、どう見ても古谷先輩の方がリーダーっぽいもん…
その草間さんが、ジロジロと僕の顔を見る。
知り合いとかだっけ?
それとも、僕、なんかしちゃったっけ?
草間さんは細身で猫背ではあるけれど、背は太陽くらい高くて骨格はしっかりしている。
つり目でシュッとした顔は綺麗なんだろうけれど、真っ黒なクマで目が落ち窪んでいて顔色がめちゃくちゃ悪いので、まるで死神に睨まれている気分だ。
慣れない視線にだらだらと冷や汗をかいていると、すっと、僕と草間さんの間に太陽が立つ。
「別に手ぇ出したりしねぇよ」
草間さんはめんどくさそうにそう言うと、僕たちの横を通り過ぎようとする。
すれ違いざま、僕は彼に肩を掴まれた。
強い力で引っ張られ、僕は踏ん張りがきかず、思わず草間さんの腕に包み込まれているような形になってしまった。
細いが力強い腕の中は不思議な香りがする。
なんだろう…、なんか変わった植物のような…
と思った瞬間、自分の中からぶわっと何かが出る感覚がした。
「ふむ。やはり、Ωか。
αのフェロモンに反応して匂いが濃くなったな。
それにしても…、この香りは…」
ブツブツと草間さんが呟いているが、僕はそれどころじゃない。
変。
何か体の奥が変…
すると、今度は後ろから伸びてきた手に引っ張られ、僕は太陽に抱きしめられていた。
いつもの彼の体温や香りに、気持ちが落ち着く。
ホッとしていると、「草間ァァァァ!!!」という叫び声とともに古谷先輩が飛んできて、草間さんをぶん殴った。
細身の彼は吹き飛んで壁に激突した。
「いてぇ…」と倒れ込んだまま呻いている。
「うちの同好会はセクハラ厳禁!!!
うちじゃなくても、αがΩに抱き着くなんて言語道断!!
本当に最低!!!!」
と、古谷先輩が草間さんを罵っている。
「統和、大丈夫?
ヒート起きそうになってたよね?」
僕を抱きしめたままの太陽が、僕の背中を摩りながら訊く。
むしろその手がくすぐったくて変な気分になりそうではあったけれど、「うん、大丈夫。太陽くんの匂い嗅いでたら落ち着いてきた」と答える。
と、何故か腕の力が強まった気がした。
「ほんっとうにごめんね、今井くん。
体は何の問題もない?大丈夫?」
と心配そうな古谷先輩の声が聞こえて、「大丈夫です」と腕の中から答えた。
「ごめんねぇ…、どうか、入会の件は今日の見学が終わるまで検討してほしい。
ジフ会に1年生が全然いなくてさぁ…」
と、悲しそうに古谷先輩にお願いされたら「帰ります」とは言い出せなかった。
それに、僕としては急に抱き着かれて驚いたけれど、怖いことをされたわけじゃないし。
「悪いな、1年。
お前から珍しいフェロモンの匂いがしたからつい気になって。
大抵のΩは花やバニラのような甘ったるい匂いがするんだが、お前からはまるでジャコウのような香りがしてな…
時にお前、ジャコウってなんだか知ってるか?
ジャコウジカからとれる希少な匂いで、自然界で動物からとれる香りと言うのは本当に希少で…」
と、腫れた左頬のせいで若干もごもごしている草間さんがつらつらと喋っているところに
「次は右頬を腫らすぞ」と古谷先輩が脅したため、そこで打ち切りになった。
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