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第18話

14時まで古谷先輩と太陽と談笑して待っていると、ポツポツと人がやってきた。 そのたびに、僕と太陽は自己紹介をした。 挨拶を終えた先輩方は「ぜひ入会して~」と言った後、部屋の隅で正座させられているリーダーを見てぎょっとしていた。 古谷先輩からの言いつけで、草間さんは僕に近づかないよう、机から遠い部屋の隅で正座させられていた。 「何してるんですか?」と言う問いかけに、毎度律儀に「折檻中」と草間さんは答えている。 ちゃんと謝れるし、反省もしているし、根は良い人なのだろう。 それぞれ談笑していると、古谷先輩が「そろそろ14時だからフィールドワーク行こうか」と声を上げた。 先輩方がぞろぞろと外に出て行くのに一番後ろから太陽と着いていく。 先頭は草間さん。 そして、僕らの横に古谷先輩が来た。 「大体いつもの近場でのフィールドワークはこんな感じ。 一応、会員はもっといるんけど、飲み会だけくる奴とグランピングとか登山だけくる奴もいるんだ」 と説明してくれた。 かなり緩い同好会のようで、僕としては参加しやすい。 河川敷に着き、先頭の草間さんが「じゃあ、あとは自由行動で」と行って、自ら草むらに突き進んでいった。 僕はポカンとしていたが、いつものことのようで、先輩方は思い思いにその辺に座って談笑したり、散歩を継続したりしている。 その中でも草むらで何やら作業をしている草間さんが気になり、眺めていると古谷先輩が僕の横に立った。 「あの人ね、理学部でも結構優秀な人なんだよ。 ちょっと変だけど、生き物にすごく興味があるだけなの。 だから、今井くんに嫌がらせをしたわけじゃないんだ」 そう言われて、僕は「いえ、もう気にしてませんから!悪意がないのはこの短時間でだいぶ伝わりました」と伝えた。 「そっか。ありがとう」 古谷先輩はそう言って、遠くに見える草間さんを眩しそうに眺める。 「好きなんですか?」と、思わず声が漏れた。 「え、ええ!!?わ、分かる!?」と、古谷先輩は大げさに驚いている。 っていうか、僕が気づいたくらいだから、サークル内ではもう知られていそうだ。 「は、はい。結構わかりやすかったです」 不躾かな、と思いつつも言ってしまったものは仕方がないので開き直ることにした。 「はぁ…、よく言われるんだよねぇ。 そんなにわかりやすいんだ、私。 本人はさっぱり気づかないのにね」と、先輩は物憂げに微笑む。 そうしてしばらく草間さんを眺めていると「統和」と言われ、目を覆われた。 「えっ!?なに?太陽くん!?」 目を塞がれている手を引き離そうと、手首を掴むけれどビクともしない。 「せっかく2人で来たんだから一緒に散歩しよう」と提案され、 「それは良いけれど、目が見えないってば!」とじたばたする。 「ふふっ。 2人は付き合ってるの?」 その言葉が聞こえたとたん、視界が開けた。 太陽が驚いているらしい。 僕は”噂は厄介”という遊馬の言葉を思い出し、必死に「違います!!付き合ってませんから!!」と否定した。 「幼馴染なんで、兄弟とか家族とかそういう感じです!」 「そうなの?」と、先輩が僕と太陽の顔を見比べる。 太陽は背後にいるので顔は見えないけれど、僕は力いっぱい頷いた。 先輩は意味深な笑みを浮かべ、「なるほどね」と言った。 どういうことか訊こうかと思ったけれど、遠くから「おーい!千草ぁ!!」と呼ぶ声がした。 草間さんが何かをぶんぶんと振り回している。 「はいはい」と、先輩はめんどくさそうな声で答えるが、顔は嬉しそう。 恋してるって素敵だな、なんてちょっと羨ましかった。 草間さんの方へ小走りでかけていく古谷先輩。 「千草!これ、チョウトンボのヤゴかもしれない!」 どうやら要件は色気がないようだけれど。 「こんなとこにいるわけないでしょ~?」 と答える古谷先輩。 うん、お似合いなのかもしれない。 そんな風に先輩を眺めていると、「早く行こう」とちょっと怒った感じで手を引かれた。 「あ、ごめん」 すっかり先輩たちに見入っていた僕は、太陽の存在を忘れていた。 申し訳ないことをしたと思うけれど、どうしてこんなに不機嫌そうなんだろう… 太陽に腕を引かれるまま、その辺を散策する。 あまり歩いたことのない場所だから新鮮で、彼を怒らせていることを忘れて「あ!パン屋さんだって!今度行ってみたいね!」とか「あれなんだろう?怪しいカレー屋さん?今度行こう?」なんてペラペラと話しかけてしまった。 しまった、と思ったけれど、彼は「そうだね、今度行こうか」と嬉しそうに答えるのでホッとした。 もう怒ってないのかな…? 夏が終わりかけ、秋に差し掛かっている。 僕はその辺に生えていたぱさぱさの猫じゃらしを1本手折って、揺らしながら歩く。 「ずっと先輩見てたね」と太陽に話しかけられる。 古谷先輩が草間さんを好きなことは、一応言わない方がいいだろう。 そう思って、「うん。古谷先輩がまぶしくて」と濁した。 「ふーん。ああいう感じがタイプなの?」 そう訊かれて、僕はポカンとする。 女性をタイプかどうかという視点で見たことが無かった。 でも、もし、僕が古谷先輩に気があると誤解されたら色々と不味い。 「ち、違う!っていったら失礼だけど… なんか眩しくて羨ましいなって思っただけだよ! あ、それで言うと僕からしたら太陽くんも眩しいけれど」 僕がそう言うと、彼は「眩しい?俺が?」と驚いている。 自覚ないんだ、と僕も驚かされた。 「そうだよ!だから、本当に先輩とのことは勘違いしないでね!」 と念を押すと「うん、分かった」と太陽が微笑む。 本当に眩しくて、僕は思わず目を細めて彼を見る。 「なに?」と太陽が言ったところで、古谷先輩が「フィールドワーク終わり!!」と遠くで叫んでいる。 「戻ろう?」と、今度は逆に僕が太陽を引っ張る。 っていうか、なんで僕たちは手を繋いでいるんだろう?と思ったけれど、今さら離すのも変だし、それになんだか離したくなかったからそのままにした。

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