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第20話

「統和くんはなんでこの同好会に参加したの?」と、歩きながら萩原(はぎわら)さんに訊かれる。 「僕も…、友達に誘われて、フィールドワークの体験入部をしたんです。 それが楽しかったので入会しました」 「へぇ~。俺もフィールドワークの体験してから決めればよかったなぁ。 あんな虫だらけの草むらに行くって知ってたら入らなかった」 心底うんざりした様な顔をする萩原さんに、僕は思わず笑った。 「特に草間っていう先輩がさ、」 と萩原さんが言いかけたところで、「かまきりだ!!」と先頭から声が聞こえた。 そちらに目を向けると、数m先で小さな緑色を掴んだ草間さんが得意げな顔をしている。 どうやら見せびらかしているらしい。 「うげぇ、最悪」 少しずつこちらに近づいてきているカマキリ(草間さん)から逃げるように僕の後ろに回り込む。 ついに僕たちの方まで来た草間さんが「萩原、かまきりだぞ!」と近づくが、萩原さんは完全に僕を盾にして「こっちに来ないで!」と叫んでいる。 僕の存在に気付いた草間さんが、逆に「…、今井」と距離を取った。 あの1件以来、絶対に”今井統和に近づかない”という誓約書を書かされた草間さんは、何故か僕が近づくと逃げるようになってしまった。 確かに太陽以外のα接触されるのは怖いけれど、避けられたら避けられたでまあまあ傷つく。 「萩原!今井を盾にするとは卑怯だぞ!」 と草間さんは吠えるが、僕が弱点だと気づいた萩原さんは「なんかよく分からないけれど助かった」と、僕の肩を掴んでどんどん草間さんに近づける。 草間さんは逆に後退を始めた。 草間さんが下がってくれるから良いけれど、僕もカマキリは割と苦手だ。 今も、草間さんに捕まれながらも鋭いカマを振りかざして威嚇していて怖い。 ジリジリ下がっていた草間さんが、「卑怯者!」と叫びながら古谷先輩の方に走り戻っていった。 「た、助かった~」と、萩原さんが僕に抱き着いて溜息を吐く。 彼の額には脂汗が滲んでいて、相当嫌だったんだろうなと可哀想に思った。 すると、いつの間にか太陽が僕のすぐ横に立っていた。 「統和に触らないでください」 「いててて…」 どうやら、僕に回された腕を掴んで握り締めているようだ。 「ちょ、太陽くん!先輩に乱暴はダメだよ!」 と僕は慌てる。 萩原さんの腕が離れて、太陽が僕を背中側に隠した。 「統和に触らないでください」 「えっ、ええっと…、それは申し訳ないと思ってるけど…」 と、萩原さんは困惑している。 後ろから、太陽を追って来たであろう女の子が「園田くん」と声をかける。 「ごめん。俺、統和と行くから」 そう言って太陽は僕の手を引くと、ずんずんと前の方に進んでいく。 どうしよう、萩原さんも女の子も絶対困惑している… 「た、太陽くん?」 名前を呼んでみるけれど、太陽の歩みは止まらない。 あっという間に先頭集団に着くと、カマキリを持つ草間さんに付き合ってあげている古谷先輩に「すみません。俺、具合悪いんで帰ります」と声をかけて、集団から逸れて別の道に入った。 「太陽くん?体調悪いの? どこかカフェとかで休む?」 と心配になって声を掛けた。 ピタリと足を止めた太陽が顔を歪めて僕を見る。 その迫力に、僕は怯んだ。 「統和はもっと危機感を持ったほうがいいと思うよ」 何のことか分からず、「危機感?」と繰り返した。 「Ωなんだから、あんな風に抱き着かれたまま抵抗しなかったら、どんなことされるか分かったもんじゃない」 その言葉で、萩原さんのことを言われているのだと気づいた。 「萩原さんは、本当に虫が苦手なだけで、僕に危害を加えようとしてたわけじゃないよ! すっごく脂汗掻いてたし」 そう弁明したけれど、 「もし悪意のある人だったら? 統和、逃げられるの?」 と遮られた。 さっきまですごく楽しくお散歩をしていたのに、なんでこんなに怒られなきゃいけないのか… 「太陽くんが先に女の子の方に行ったのに…」 そう口をついて出てしまった。 まるで、太陽が悪いみたいな言い方になってしまった。 僕は慌てて「ごめん!違う!太陽くんは悪くないから」と言ったけれど、彼はショックを受けた顔をしていた。 どうしよう、太陽を傷つけてしまった。 「ごめんね、俺が上手く立ち回れなくて」と、太陽が暗い声で呟く。 「違うよ!本当に太陽くんは悪くないから! 僕、もっと気を付ける!だから…」 「もう二度と統和のそばを離れないから。 グランピングの時も、絶対に統和を1人にしない」 そう言った彼は、一転して満面の笑みを浮かべていた。 「え、い、いや…」 どうしよう、また僕の我儘で彼を縛り付けてしまった… でも、なぜか太陽は笑っている…? なんと返して良いか分からず、「いや」とか「ええと…」と繰り返していると、 「統和はさ、俺が”皆に優しい太陽くん”じゃなくなっても、嫌いにならない?」 と問われた。 皆に優しくない太陽が想像できない。 けれど、 「どんな太陽くんでも嫌いになることはない…、と思うよ」 と伝えると「そっか」とにっこり笑った。 質問の真意は分からないけれど、さきほどまでの不機嫌は一転して笑顔となったのでまあいっかと自分を納得させた。 「こないだフィールドワークで見つけたカフェに行ってコーヒーでも飲んでから帰ろうか」 と提案され、僕は喜んで頷いた。 サークルのメンバーには申し訳ないけれど、久々に2人きりで過ごせるのが楽しみだった。

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