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第21話
来たる、グランピングの日。
早朝にリュックを背負って玄関のドアを開けようとすると、母が「気を付けてね」と少し不安そうに言った。
母は最初、僕が泊りがけでグランピングに行くことに反対していた。
それで太陽に相談したところ、僕の家に太陽が来て母を説得してくれた。
「絶対に統和を危険な目に合わせないです」と。
それでも母は渋っていたけれど、僕がどうしてもトイレに行きたくて離席して戻ってきたら、いつのまにか承諾してくれた。
「お母さんになんて言ったの?」と訊いたけれど、母にも太陽にも笑ってごまかされた。
あんなに心配性の母を説得するなんて、一体どんな手を使ったのだろうと未だに不思議だ。
「絶対に太陽くんのそばを離れちゃだめよ?」
そう言われて、僕は笑顔で頷く。
「ありがとう。行ってきます」
秋の早朝の空気は少し冷たくて、僕は少し肩をすくめた。
防寒対策はしたつもりだけど、山は地上より少し寒いって聞くし、ちょっと不安になってきた。
「おはよう」
そう声を掛けられ、顔を上げると太陽が立っていて、反射的に「お、おはよう」と返した。
今日は早朝に出発だから、お迎えに来なくていいよと言っていた。
その困惑が表情に出てしまったのか、太陽が「ごめんね」と眉を下げた。
「今日が楽しみで早く目が覚めたから、来ちゃった。
迷惑だったかな?」
そう訊かれて、僕は首を横に振る。
「迷惑なんかじゃないよ!
ただ…、また太陽くんに負担掛けちゃったんじゃないかなって」
「負担なんて思わないよ!
俺が早く会いたくて来ただけだから」
そう微笑む太陽に、顔が熱くなる。
でも、舞い上がったらダメだ。
太陽は僕に気を使わせないために言っているだけだから。
僕はこっそり深呼吸をして「ありがとう」と言って背の高い彼を見上げようとする。
太陽の顔を見る前に、彼に頭をぐしゃぐしゃと撫で回された。
「え、わっ、何!?」
特段、ヘアセットとかはしていないけれど、ぐしゃぐしゃにされるのは勘弁だ。
太陽の手を止めようともがいていると、その手を取って太陽が歩き出した。
「ほら、遅刻しちゃうから行くよ」
「え?ええ??」
ずんずん歩く太陽に慌てて着いて行く。
切り替えの早さに驚いてしまい、着いて行くのに必死だった。
少しすると歩調は緩めてくれたが、「太陽くん」と呼んでも返事はあるけど振り向いてはくれなかった。
僕、なんかしたのかな…、やっぱ迎えにくるの嫌だったのかな。
と、悩んでいると太陽が「怒ってないから。ちょっとキュートアグレッションが置きそうだっただけ。統和は1つも悪くないから」と言われた。
キュー…、アグレ…?何??
何かの病気か発作なら危ないんじゃ…、と思い、後で調べようと思ったけれどあまり優秀じゃない僕の海馬はその単語をすっかり忘れてしまった。
太陽に手を引かれて集合場所の駅のターミナルに着くと、時間ギリギリだったためほとんどのメンバーが集まっていた。
古谷先輩に受付してもらい、会費を払って僕たちはバスに乗り込んだ。
2人で来たから、隣同士に座ることが出来て良かった。
バスに乗るのなんて、小学校の修学旅行ぶりだな(Ω専用の中学・高校は修学旅行がない)…、なんて思ってワクワクしていた。
が…、走り始めて数分、僕は体の異変に気付いた。
なんか…、気持ち悪いかも…
道路の凹凸に合わせて起こる揺れ、密閉されているからか車内は酸素が薄く感じ、普段聞き慣れない人たちの話し声が耳に刺さる。
少しでも良くなるように、僕は耳を塞いで目を閉じた。
「統和?どうしたの?酔っちゃった?」
太陽が僕にそっと話しかける。
「た、多分…。
バスで酔ったことは無いはずなんだけど…」
僕がそう答えると、太陽が鞄から錠剤を出した。
「山道だから、もしかしたらあり得るかもと思って持ってきたんだ。
何錠かあるから統和に上げる。酔い止め」
申し訳ないと思いつつ、吐いたりしたらそれこそ最悪なので有難く受け取って飲んだ。
「太陽くん、ありがとう」
「ううん。よくなるといいね」
錠剤を服用し、目を瞑って耐えていると、太陽が背中を摩ってくれた。
「あ…、なんか、太陽くんの匂いを嗅いでるとマシになるかも」
そう言った途端、彼の手がピタリと止まった。
あ、やばい。
気持ち悪いこと言っちゃったかも…
慌てて「ごめん」と言うと、僕の頭にパサリと何かを掛けられた。
目を開けて確認すると、それはカーディガンのような羽織る物だった。
「それ、貸してあげる」
少しだけそっけない声が降ってきて、ちょっと凹む。
「ごめんね…、汚さないように気を付ける」
「別に統和なら汚してもいいけど…、でも、さっきみたいなこと、あまり他のαに言わない方がいいと思う」
「太陽くん以外には言ったことないけど…」
そもそも、彼以外に仲がいいαなんていないし。
「今後もそうして?」
「う、うん?」
それから少しして、薬が効いてきたのか少し気分が楽になった。
それと引き換えに…、散々太陽のフェロモンを嗅いだ僕は、下が兆し始めていた。
やばい。
友達のカーディガンの匂いを嗅いで勃たせてるなんてバレたら死んでしまう!
焦った僕は持ってきたかばんを太ももに置いて、その上に前かがみに体を預けて誤魔化すことにした。
少々苦しいけれど仕方がない。
「統和、かばん邪魔じゃない?
上のラックに置こうか?」
と訊かれ、僕は彼の服で顔を隠したまま「ううん!かばんを枕にするから大丈夫」と慌てて答えた。
すぐに「そう?」と引き下がってくれたのでホッとする。
現地に着くころには治まっててほしい…
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