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第22話

僕が太ももに置いたかばんに突っ伏していると、太陽がそっと僕の背中を撫でてくれる。 そこからじんわりと温かいものが溢れだしているみたいで心地いい。 それに浸っていると「園田く~ん」と通路を挟んで隣の席の女の子たちが太陽に声を掛けた。 僕は窓際に座っていて、太陽が通路側だった。 「窓側の人、寝ちゃったの?」 「うん。いや、ちょっと酔っちゃっただけだよ」 「じゃあさ、うちらと話そうよ」 「えーっと…」 反射的に嫌だ、と思ってしまった。 そしてそんな醜い自分の心に嫌気がさす。 勝手に車酔いしてうずくまって、楽しませてあげられてない分際で… 「ごめんね。俺が統和のこと看たいから、こっちのことは気にしないで2人で話してて」 と、太陽がやんわりと断る。 それにホッとしている自分が少し嫌になった。 「え、でも…、太陽くんが退屈になるでしょ?」 「ちょっとくらい話しても大丈夫だと思うよ!」 と、彼女たちが食い下がる。 彼女たちが言っていることはその通りだ。 内心しょんぼりしていると、太陽が溜息を吐いた。 「あのさ、余計なお世話って言ってるの分からない?」 冷えた声が隣から聞こえてきて、僕は困惑した。 こんな突き放すような言い方をする太陽を見たことがない。 彼女たちも「え?」と困惑している。 「気にかけてくれたのはありがとう。 でも俺は統和と楽しむから」 先ほどよりは柔らかい口調だけれども、絶対に折れないという意志を感じる言い方だった。 「ご、ごめんね」 彼女たちは困惑しながらそう言ったきり、話しかけてこなかった。 再度、僕の背中や頭を撫でる手が再開する。 なんだか、自分を好きだと言っているように聞こえて、心臓がバクバクした。 でも、太陽は義理堅いから…、僕のお母さんと約束した”そばを離れない”ことを守っているだけなんだ。 嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちとで、頭の中は大忙しだった。 それでも、顔を覆ってジッとしていると眠くなるもので、僕は浅い眠りを繰り返した。 いつ意識が浮上しても、太陽の手は変わらず僕を撫でていた。 それにホッとしてまた微睡む、そんな幸せな時間だった。 手が疲れるんじゃ…、と不安になったけれど、ずるい僕は止めてほしくなくて何も言わなかった。 揺すられて目を覚ます。 短い眠りの後特有の、脳が霞みがかったようなもったりとした怠さを感じつつ ゆっくりと上体を起こすと、顔にかかっているカーディガンを剥がれた。 「着いたよ。体調は大丈夫?」 太陽が僕の顔を覗き込んでいた。 一瞬、ぼーっと彼の顔を眺めた後、グランピングに行くためにバスに揺られていたことを思い出した。 「もう着いたの!?」と立ち上がり、「ずっと寝ててごめんね」と謝った。 きっと太陽はつまらなかったに違いない。 「謝らなくていいよ。 統和が元気になったならよかった。 外に出よう?空気が美味しいらしいよ」 そう言われて、僕たちはバスを降りる。 皆は既に降り終わっていたようで、外でそれぞれが談笑していた。 バスを降り息を吸うと、本当に空気が美味しかった。 「じゃあ、コテージまでちょっと歩くから、着いてきてねー!」 と、古谷先輩が元気よく言って歩き始める。 皆はわいわい言いながらそれに着いて行く。 僕も太陽も、行列の1番後ろを歩き始めた。 太陽が何度断っても「俺が統和の荷物を持つ」と言って譲らないので、お礼を言って手渡した。 自由になった手を太陽が握ってきた。 荷物を2つ片手で持ったうえで、手を繋ごうとするので「繋がなくてもはぐれたりしないよ!」と言ったが、「俺が繋ぎたい」と言ってくるので諦めた。 昨日雨が降ったのか、地面は少しぬかるんでいて、気を抜くと滑って転んでしまいそうだった。 転ばないようにとぎゅっと両手で太陽の手を握ると、彼は「滑っても支えてあげるから安心して」と笑った。 荷物を持ったうえで、僕自身まで支えさせるなんてわけにはいかない! 僕は地面を凝視して慎重に歩いた。 ふいに目に留まった大きな雑草。 絶対に自分の生活圏には生えてないくらい大きく、緑が活き活きとして生命力を感じる。 更によく見ると、鮮やかな黄緑の……、めちゃくちゃデカい芋虫が乗っていた。 「うわぁ!?」 手を伸ばしかけていた手を慌てて引っ込める。 「統和!?どうした?」 隣から太陽に声を掛けられ、僕は慌てて「ごめん」と謝った。 「あそこにすっごくでかい芋虫がいて、びっくりしちゃっただけ」と呼吸を整えながら説明する。 僕の指の先を見た太陽は「本当だ。めちゃくちゃでっかい」と驚いている。 騒ぎを聞きつけた草間さんがやってきて、デカい芋虫に瞳を輝かせながら指でつまむ。 「これは何の幼虫なんだろうな?スズメガか? ジフ会で持ち帰って飼育してみるか?」 なんて言うので「自然に返しましょう」と僕は直視しないようにして止めた。 「うーん…、それもそうだな」と言って草間さんが草の上に戻したのでほっと息を吐いた。

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