26 / 31

第26話

翌朝、やけに暑くて目を覚ますと僕の体に誰かが腕を回していた。 一瞬パニックになりかけるが、グランピングに来ていたことを思い出し、匂いから後ろで僕を抱きしめている人が太陽だと気づく。 え、えっと…、どういう状況? 同室の誰かのいびきや寝息も聞こえる。 大騒ぎするのは悪いかと思い、そっと太陽を起こそうと身を捩った。 が、強い力で抱きしめられ、僕は動きを封じられてしまう。 「と…、わ」 という太陽の声が聞こえ、思わず身を強張らせる。 僕の名前…、呼んだ? 次の瞬間、(うなじ)に生暖かい感触がして僕は思わず「ひっ」と声を漏らして、全身を縮こまらせた。 時折、リップ音を立てて吸いながら、彼の舌が僕の項を撫でる。 Ωにとって項は急所であり、性感帯でもある。 僕は必死に口を手で塞いで声を我慢した。 な、なんで太陽が僕の項を…? 寝ぼけてる? そうだとしたらとてつもなく寝穢(いぎたな)い。 2人部屋だったら大声でも出して太陽を起こすのに…、他に先輩たちもいる。 (しばら)く耐えていると、舐めていたのが強く吸ったり、軽く噛んだりする動きに変わった。 それに合わせて、僕の息も上がる。 これ以上されたら、ヒートになってしまう。 そんなヤバさを感じて、力の入らない体でなんとか抵抗する。 が、やっぱり力の差は歴然で、まったく止めることが出来ない。 次第に彼の腕が、僕の服の中に侵入し、体を(まさぐ)り始めた。 本当にこれ以上はヤバイ!発情してしまう! その時、奇跡的にその手が僕の顔までやってきたので、思いっきり噛んだ。 「いてっ」と声を発し、彼の動きが止まった。 僕は力の入らない、息も絶え絶えの体に鞭を打って、太陽の方に振り返る。 「項、噛んじゃ…、ダメ…」 途切れ途切れだけど、何とか口に出した。 彼は呆然と僕の顔を凝視している。 まだ寝ぼけているのかと思って、「太陽…、くん?」と声をかける。 と、彼は「は…」と息を漏らしたかと思ったら、鼻から大量の鮮血を噴き出した。 「えっ!?ええええ!!!?血!!!? 太陽くん、大丈夫!!?」 せっかく静かに彼を起こしたはずが、僕の大騒ぎのせいで同室の先輩たちが起き上がった。 「なんだなんだ」とこちらに来て、太陽の鼻血を見て、皆大騒ぎをする。 僕は慌ててティッシュを掴んで彼の鼻に当てる。 「太陽くん、鼻摘まんで」 彼は言われるがままに止血のポーズをとる。 その間にタオルなんかで噴き出た血を片付ける。 騒ぎを聞きつけた女性の先輩もやってきて、氷嚢だ濡れたタオルだと、色々手伝ってくれた。 今日は午前中だけグランピング施設近くの雑木林を散策予定で、その後はバスで帰るというスケジュールだった。 念のため安静にしておく、と言う太陽とともに僕も施設内でゆっくりすることにした。 「統和、楽しみにしてたのに本当にごめん」 鼻にティッシュを詰めて、まだ氷嚢を頭に当てている太陽が言う。 「ううん。実は虫があんまり得意じゃないから大丈夫。 それに、来年もあるし」 と答えると、彼はうめき声をあげる。 「昨日からずっとダサいところ見せてる」 「そう?太陽くんはずっとかっこいいよ?」 これは本心だ。 かっこ悪いと思ったことなんて一度もない。 「ずっと間違えてるし」 そう呟いた声に、僕の声が詰まる。 「昨日も言ってたけど…、間違えたって、誰と?」 意を決してそう言った。 太陽はポカンとした顔で僕を見ている。 「誰と…って?」 本当に分からないという顔で彼が訊くので 「だから、間違えたって言ってるけどさ、僕と誰を間違えたのかなって話」 と意を決して言い切った。 ちょっとムッとした様な言い方になったのは許してほしい。 2度も間違えるなんて酷いもん。 「いや、誰とって言うか…、その、順番っていうか、段階っていうか…」 思わぬ答えに僕は「順番?」と鸚鵡返しした。

ともだちにシェアしよう!