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【1.Encounter】悪夢…side レキ
暗い空、響く雷鳴と激しい雨。
思い出したくないのに繰り返す悪夢。
あの日を境に全ての歯車が狂った。
『気持ち悪い』
ただショックだった。
『お前、Ωだったのか』
冷たい目で見られ、言葉に詰まる。
『レキが誘ってきたんだ』
突然の発情 に為 す術 もなく。
『抑制剤も飲まないで誘惑された』
αとΩ。一瞬で崩れる。
『騙しやがって』
頭から離れない台詞 。
『なんで俺が男なんかと』
お前の事、友達として好きだったのに……
すぐに抑制剤を飲んでいれば──
後悔しても時間は戻らない。
* * *
目を開けると、そこは自分の部屋だった。
また同じ夢……
雨の音が聞こえ、カーテンを開ける。
梅雨は嫌いだ。この時期になると嫌でも思い出す。
憂鬱 な気分で起き上がると、リビングが何やら騒がしい。
「ソナタ、早く早く! 映画の制作発表、始まっちゃう」
「零 士 様、黒髪だ!」
「次は教習所の先生役なのね。こんな素敵な人が隣にいたら、緊張して運転できないわよ」
「新しいCM見た?」
「チョコレートの?」
ソナ兄と母さんの声だ。ほっとして、リビングのドアを開ける。
「おはよう! レキ。オムライス食べる?」
三つ上の兄は塾講師。結婚間近、同棲中の彼氏がいる。
「おはよ。また芸能人にキャーキャー言ってんの?」
テレビに目を向けると、黒髪の男が爽やかに笑っていた。
ソナ兄と母さんはミーハーで『零士様』の大ファンである。ドラマの中で笑顔や涙を見せ、時に愛を囁く。所詮、作り物。俺には到底理解できない。
胡散くさ……αのくせに、にこにこしやがって。あいつ等 と同じα。それだけで憎しみが込み上げてくる。
「αは偉そうだから嫌い」
そう言うと──
「零士様は違うわ! 完全無欠完璧、神々しいオーラを放ってるけど、謙虚で努力家な人なの。キラキラの笑顔と甘い眼 差 し。目が合うと失神しちゃうファン続出なんだから」
物凄い勢いで否定してから、母さんが熱く語る。
なんかの宗教かよ。重症信者だな。
「零士様はαだけどファンにも優しいんだよ。芸能活動しながら学生の時は常に首席。演技ではありとあらゆる賞を取って──」
「いただきまーす」
ソナ兄も無視してオムライスを口に運んだ。
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