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少将と共に店を出る。 そこから歩いてすぐの落ち着いた店の前にシュウ殿と女性の姿があった。 母と言っていたが、とてもそうは見えない。 年齢を超越した美しさを感じさせる人だった。 先に親子だと聞いていなければ、腕を組む二人の姿に確実に誤解をして落ち込んでいただろう。 顔立ちは確かに似ていて、特に切れ長で優しげな目は三人ともそっくりだ。 そしてシュウ殿は、いつもの武人風とは違う貴公子然とした装い。 スタンドカラーで深い青と明るい青の二色使いの上着に、落ち着いた色合いの金糸の刺繍がさりげなくあしらわれている。 ……これは…。 かっこ良すぎて目眩がしそうだ。 コウガラン少将に飲まされた酒が一気にまわって来た気がする。 足にきた……。 思わずふらついて少将の腕につかまる。 そのときシュウ殿が俺たちに気付いた。 ……軽く顔をしかめたような気がする。 見て見ぬ振りをしようとするシュウ殿に少将が声をかけた。 「シュウラン。あなたに会いたいという人を連れて来たよ」 シュウ殿の方へと押し出されるが、心の準備が出来ていなかった俺はつい少将の後ろに隠れてしまった。 「イチハ。何をしている。会いたかったんだろう?」 そう笑って押し出そうとするので、また俺は後ろに隠れようとする。 「どうした?……顔が真っ赤だな。最後の酒がまわったか?」 それもある…。けど、シュウ殿が格好良すぎて近寄れない。 ……そう、俺は本来好きな人には近寄れないドヘタレだ。 「イチハ?本当にどうした?」 そう聞いてくる少将の耳元に寄り小さな声で言う。 「むりです…。あんな…かっこよすぎてちかよれません……」 情けない声を出す俺に、少将は麗美な風情が台無しになるくらいの大笑いを始めてしまった。 「ははっ!ほんとうに…あなたは。…シュウラン!イチハはかなり酔ってしまっているようだ。送って行ってくれないか」 そう言って俺の肩をつかむと、強引にシュウ殿の前に引き出してしまった。 そこまでされてもシュウ殿を直視できない。そして目をそらした先には美しい女性。 俺はハッとして、片膝を落として胸に手をあてる淑女への礼を取った。 「はじめまして。おふたりのおははうえだとうかがっております。おれ…わ、わたしはチハしょうかいのイチハともうします」 「あら、初めまして。ふふ…可愛らしい方ね。二人とはどういうお知り合いなのかしら?」 お母上は華のほころぶような笑顔を向けてくれる。 「コウガランしょうしょうとはしごとで…いえ、しごとをとおしてなかよくさせていただいております。シュウろのとは……」 思わず言いよどむ。 熱烈言い寄ってる最中です……。 さすがにそんなことは言えない。 俺は助けを求めるように少将を見た。 「私とは仕事、シュウランとは個人的に親しく……だな」 「あら!そうなの?あら!あらあら!まぁ!それならお邪魔しちゃ悪いわね?シュウランこちらの方を送って差し上げなさい。私はコウガランと帰るから心配ないわ」 意味ありげな口ぶりの少将に、お母上ははしゃいだような声をあげた。 そしてシュウ殿を俺に押しつけると少将の腕を取った。 ……やっぱり貴族というのは俺みたいな庶民とはかなり感覚が違うらしい。 お母上はなぜこんなに嬉しそうなのか。……よくわからない。 けど、なんだか恥ずかしい。 軽く足にきていたのに押しやられ、シュウ殿の胸ぶつかってさらに頭がぐるぐるとしてきた。 コウガラン少将とシュウ殿がなにか話しかけてきているようだが、全く頭に入って来ない。 気がつくと馬車の中でシュウ殿にもたれかかっており、さらに気付くと商会事務所の横にある自宅への階段でしゃがみ込んでいた。 三段登ってもう登れないとシュウ殿にだだをこねている。 何やってるんだろうと自分で思うが、完全に酔いがまわっていて冷静な自分はどこか遠い。 シュウ殿が待たせているであろう馬車を気にしている。 俺は階段を四つん這いで後退し、馬車に駆け寄って何かを言った。 自分でも何を言ったかよくわからない。けれど馬車はシュウ殿を残して去っていた。 その場にしゃがみ込んだ俺をシュウ殿がため息をつきつつ抱き上げた。 抱き上げられた感触、鍵はどこだと言うやりとり、二階のソファへ寝かせられ、ここは違うとまただだをこね、三階の寝室まで運んでもらう……。 こんな記憶も断片的だ。 今、どういう状態なのだろう。 視界いっぱいにシュウ殿の顔がある。 眉根が寄っているような……けれど、それより目元のほくろの色っぽさにクラリとなった。 「……素朴なイチハ殿と手慣れた小悪魔のイチハ殿、どちらがあなたの本当の顔なのですか」 シュウ殿の声が遠い。 「おれのかおは……これれすヨ」 ぼんやりとしたままシュウ殿の手に頬をすりつける。 「……おれのかお…アクマみたいれすか?……いまはよっぱらって、まっかっか。ほんとはもうちょっとマシなんれす」 ハァ……と、ため息が聞こえた。 それなのに顔と頭を優しくなでてくれる。 ……やっぱりシュウ殿は優しい。 俺のことをあんなに避けていたのに、酔っ払いの俺を押し付けられて、放っておけず生真面目に部屋まで送り届けてくれた。 酔っ払いに乗じて甘える俺を振りほどくこともしない。 だからといって、俺に何かするわけでもなく……。 組み伏せて……くれていいのに。 ……このまま抱いてくれたらいいのに。 出来ることならこのままずっと一緒に……。 パッとスイッチが切り替わるように意識がクリアになった時には、ベッドに座り込んでいて、帰ると言っているシュウ殿の首にがっちり腕をまわし『絶対帰さない』などと我がままを言っていた。 ハッと気づいてシュウ殿の首に絡めた腕の力をゆるめる。 俺は……またとんでも無いことをしでかしてしまった。 俺の様子が変わったことにシュウ殿も気付いたようだ。 「少し酔いがさめましたか?」 シュウ殿の首元で小さく頷く。 「では、もう大丈夫ですね?私は帰りますので腕を離してください」 説き伏せるように言われた。 「……ダメです。お伝えしなければならないことがあります」 「こんな状態では話など無理です。後日改めて……」 「後日なんて……またシュウ殿は俺に会ってくださらなくなる!コウガラン少将に聞いたのです。シュウ殿が俺のことをどう誤解しているのか。少将が調べてくださいます。そしたら誤解もとけるはずです」 シュウ殿がぴくりと反応をし、ゆっくりと俺の顔をみつめる。 「調べるとは……何を?」 「俺、知らなかった。俺に変な噂があるなんて思ってもみなかったんです。少将はきっとシュウ殿は俺に何人も恋人やそんな関係の人がいるって勘違いしてるはずだから、身辺調査してくれるって。そんなのいないってわかったら避けたりしないはずだからって。俺…ほんとに…シュウ殿だけです」 俺の言葉にシュウ殿は重い沈黙を返すだけだ。 「嘘じゃない。俺が好きなのはシュウ殿だけ。俺がこんなふうにするのはあなた以外いない」 「………」 シュウ殿の戸惑いが肌から伝わってくる。 「シュウ殿が王都を離れるまでには結果が出ます。だから約束してください。少将が調べてくれた内容を確認して、俺が言ったことが嘘じゃないってわかったら…会いに来て……」 シュウ殿は何を思っているのか。ただ、切なげに俺を見つめる。 「シュウどの!ヤクソクしてくださるまではなしませんよ」 ぷっと頬を膨らませて睨みつける。 まったく迫力は無いが、酔っている俺にはこれが精一杯だ。 「……わかりました。約束します」 「ゼッタイですヨ?」 「ええ。必ず」 その言葉を確認して俺はそっと腕を離した。 「あ、やっぱり…まだれす」 「なにか?」 「はい。キスしてくらさい。ヤクソクのキスれす」 『ん』と唇を突き出す。 シュウ殿はかなり迷っていたが、俺のほほをそっとたくましい指でなぞると、ゆっくりと優しく口づけてくれた。 離れた唇に今度は俺から口づける。 そして二度三度とどちらからともなく触れるだけのキスをした。 「シュウどの…。あなたにあえて……おれはすごく、すごく、シアワセれす」 帰ろうとするシュウ殿を送ろうと足を踏み出すが、すぐにふらついてしまう。 鍵をかけ置いておくからと、シュウ殿にベッドへ寝かされ、その後ろ姿を見送った。 ◇ シュウ殿は枕元に水まで用意してくれていた。 感謝しつつ、それを一気に飲む。 酔っているためか、どうにも身体が熱い。 服を脱いでまたベッドへ潜り込んだ。 シーツが素肌にすれる感触に、あの深淵の森でのシュウ殿の指を思い出してしまっていた。 けれど時間が経てばそんな感触も次第に薄れてしまう。 シュウ殿の温もりを忘れたくない……。 思い出を補強するように、自分の指が身体を滑っていく。 「は…っん…シュウ殿……」 生々しく蘇ってくる、自分を抱く力強い腕。 そして、胸の中で嗅いだシュウ殿の香り。あの時の濃密な雄の薫香は甘く俺の欲を満たし、思考をとろけさせた。 その香りが、つい今しがたまでこの部屋にあったシュウ殿の温もりとともに蘇り、俺を包んでくれるようだ。 身体を滑る自らの手が、だんだんとあの時の快感を思い出させていく。 「ん…シュウどの……んっ……はぁ……」 触れるほどにシュウ殿の手の感触が蘇る。 考えられないくらい積極的に自分の快感を探っていた。 ……シュウ殿の手は、もっとゴツゴツとして…。 ぎゅっと目をつむって、シュウ殿に与えられた快感を再現していく。 乳首をやんわりとねじり上げる。 拙い動きでも、シュウ殿にされていた時の事を思い出すだけで腰が揺れた。 大きな手には……剣術でできた固いタコがあって……。 「ん…ん…ん。ああっ」 両方を一度につまみ、ねじり、身体をのけぞらせる。 熱い身体がシーツにこすれて、シュウ殿に抱き込まれているような気分になった。 自分の手以外の微かな感触に、さらにもどかしい快感が生まれていく。 「しゅうどの…んぁ…もっと……」 頭の中に居るのは優しく微笑みながらも、意地悪くじらして俺の様子をうかがう愛しい人。 乳首をいじりながら、自分のモノにふれるとそこは期待に濡れていた。 「んく……。もう…こんなっ…して……ぁぁあ!」 でも、あまりさわるとまたすぐにイってしまう。 先端のヌメリを指に絡めては自分の後ろへと塗り付けた。 ここは自分でふれたことがない。 だからこの指をシュウ殿のものだと思い込むのは簡単だ。 「は…は…ぅ」 穴のまわりをくるりと撫でただけで腰がびくりと跳ねるほど気持ちがいい。 自分の指じゃない。ふれているのは頭の中のシュウ殿だ。 さらなる期待に息がつまる。 「………」 一瞬だけ迷う。 …こんな……はしたないこと…。 けれど、押し広げるようにフチを撫でれば、そんな迷いはあっさりと吹き飛んだ。 「んふぅ……!」 指先をめり込ませ、なじませるようにくるりとまわす。 ココに何かが入ったのは、あの時一度きりだ。 ずいぶん日も経ち、ココはすっかりそれ以前の状態に戻ってしまっている。 でも……物足りない。 「んはぁ…しゅうどの…。おねがいです…もっと……」 …じらさないで……。 ゆっくりと奥まで指を差し込む。 自然と腰も丸まっていった。 指の根元まで含んだ。 キツい……。あまり余裕はない。 でも、シュウ殿の指はこんなじゃない。もっと太くてがっちりしていて……。 「くうっ……」 ためらい無く二本目を入れる。あの時は香油があったからもっと楽だった。 でも…キツいくらいの方が……。 「ああ…入ってる…んん。はぁ……」 痛いくらいなのに甘いため息が出る。 自分の意志とは関係なく、シュウ殿の指使いを再現するように指が暴れだした。 「んくっ…くぅっっ……ふぅっっ…ん」 シュウ殿は優しかったが、俺の指では少し乱雑なくらいじゃないとあの感触は再現できない。 「ふくぅ……」 気付くと反対の手の指を噛んでいた。 その指に舌を這わす。 「ふむぅう…んん。…はぁ…しゅうろの…。はあぁ…すき…すきですっ…ぁあん」 信じられないくらい胸がドキドキしている。 いつも自分の身体にふれるときはただの性処理で、こんなに我を忘れて乱れてしまうなんて初めてのことだった。 「んぁっ…!」 次第に後ろで快感を拾い始めた。 「ぁあっ…そこ…だめ……」 そういいながながらも指は執拗に、内壁の快感を生み出す箇所をこすり続ける。 だって、ダメだって言っても、シュウ殿は俺を気持ちよくしてしまうから……。 「あぁ…うそ…ダメじゃないです…きもちいいの…シュウ殿…いいです!ああ!イイ!」 指の動きが丁寧になる。 だって…今、俺はシュウ殿に……。 時々シーツに前をこすりつけながら頭を振り、完全に快感に飲まれてしまった。 「ああっ…もう!ほんとにホントにダメです!あっ!…ンァっ…イクッ!イっちゃう!シュウどのっっ!」 ビクンビクンと激しく腰が揺れる。 …もう……出る…。けどその直前に強烈な快感が来た。 「あっなんで!んあっ!うぁん……。イ…ク……」 強い快感に誘発され、手の中にどくどくと快感の証が放出される。 「はぁっ…はぁっ…はぁっ…。ぁ…さっきの……」 一人で信じられないほど乱れてしまった。 少し中で…イッた…気がする。 感じる必要のないはずの罪悪感が薄い膜のように心を覆う。 けれどそれ以上に、シュウ殿に愛された記憶に心が満たされていた。 そして次に会った時には、シュウ殿がまたあの甘やかな夜を再現してくれるのではないかという期待も揺らめく。 俺はけだるいまま無意識で水を飲んで、深い眠りに落ちていった。

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