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数日後、俺は深淵の森を訪れていた。
ジントウイ殿にティールームに案内される。
俺は、シュウ殿を呼んでくれるというジントウイ殿を引き止めた。
「俺が会いに来たと知ると、シュウ殿はまた避けようとするかもしれません。不意打ちで対面することは出来ないでしょうか?」
「なるほど、そういう事でしたらお任せください。イチハ様はシュウ様のお部屋でお待ちを。シュウ様にはコウガラン様より、いそぎの荷が届いたとお伝えします」
「ジントウイ殿、ご協力感謝します」
「シュウ様が戻ってくるにはまだ少しお時間があります。馬での移動でお疲れでしょう。湯でも使って汗を流されてはいかがですか?」
そう言われて急に自分の汗の臭いが気になってきた。
「では、ありがたくそうさせていただきます」
ジントウイ殿がゆったりとした微笑みを見せる。
「シュウ様は一度そばに置いた方は非常に大切にされます。ですから、もう心が離れることの無いように……」
……。
あれ?なんだジントウイ殿の意味ありげな表情……。
ジントウイ殿に案内され湯を浴び、シュウ殿の部屋で待つ。
さりげなくバスローブを用意されたり、ベッドの上で待つように言われたが、それはお断りして、ミンさんが手早く洗って乾かしてくれた自分のシャツを着て、ソファに座った。
自分に正直になるんだって、勢いこんでここまでやってきたけど……。
正直、緊張する……。
ストレスが……。
視界の端に大きめなクッション。
いや、ダメだ。
あのストレス解消法は一度しくじっている。
とりあえず叫ばずに埋まるだけ……。
ぼすっ……。
はぁ……イイ。
……。
……………。
はっ!
寝てた!
はっっっっっ!
み、見てる!
ソファに横になってる俺をシュウ殿が目を丸くして見てる……。
「イチハ殿……なぜここに」
…恥ずかしい…。
「あの……イチハ殿」
こういう場合は……。
「なぜじゃありません!」
逆ギレします……。…シュウ殿ごめんなさい。
でも、シュウ殿の心に強く訴えかけるには、このくらいの方がいいかもしれない。
「お約束したはずです。会いに来てくださると。俺は少将の調査結果は見ていませんが、自分の潔白はわかっています。俺にはシュウ殿だけ。なのに…俺のことをもてあそんだんですか?」
「それは……」
「それとも会いに来てくださると約束したとき、俺が酔っていたから無かったことに出来ると思っていましたか?」
「いえ……決してそのようなことは」
「でしたらなぜ……」
シュウ殿をちょっとだけ睨む。
余裕ぶった顔を心がけてはいるが、心臓はバクバクだ。
「私はイチハ殿に酷いことをしてしまいました。
あなたが私を遊びの相手として選んだと思い込み、あなたが私に向けてくれた好意を信じなかった。
そして、少し冷静になるべきだと、あなたを避けた。
人に避けられる寂しさを、私は良く知っている。なのに……。
やっぱり、 あなたはそんな人じゃないのではないか。些細な言葉の端に惑わされず、私の目に映る純粋なあなたを信じよう。そう思い直して謝罪をしようと思った。
けれど……事務所で他の男に肩を抱かれるあなたを見て、もうわからなくなってしまった。
こんなふがいない私にイチハ殿のそばにいる資格はない」
ゆっくりと発せられたその言葉に、すごくシュウ殿らしさがつまってる気がした。
誠実さを良しとし、譲れない倫理観を守りたいと思う……。
けど……。
過去ではなくこれからを、俺とシュウ殿の心を見つめて欲しい。
だから、俺はあえて少しキツめの言葉を選んだ。
「……俺に酷いことをしたという自覚があるのに…。俺を捨てるのですか?
俺の側に居る資格の有無なんて……俺以外の誰が決められるんです?
それに、俺が知りたいのは資格の有無じゃない。
シュウ殿は俺のこと、どう思っていますか?
俺はあなたに何度避けられても、あなたを諦めきれなかった」
本当はこんな責めるような言い方をしてしまったら不快に思われるんじゃないかって不安になる。
でも、俺とちゃんと向き合って欲しいから……。
俺は刻むように言葉を重ねた。
「俺は…
あなたの側に居たい。
あなたに受け入れられたい。
あなたの心が……欲しい」
シュウ殿の手が俺の肩に添えられる。
「……イチハ殿。私などに…なぜそこまで……」
「好きだから…。それ以外に何がありますか?
シュウ殿の真面目なところ。強いところ。優しいところ。誠実なところ。
そんなところを知るたびあなたを大好きになった。
……でも今、シュウ殿の真面目なところが少しだけ……嫌いです。
だって、そのせいで『けじめ』などといって俺のことを受け入れてくれないのでしょう?」
震える声でそう言うと、シュウ殿は一瞬まぶしそうな目で俺を見た。
静かなその目に、俺の心は映っているだろうか。
シュウ殿の大きな手が俺のほほを撫でる。
「イチハ殿…申し訳ない。
私はまた、間違えるところでした。
私の勝手な正義感より、そしてくだらない『けじめ』なんかより、
大切なのは……あなただ」
その感情を示すようにシュウ殿の瞳が揺れた。
「私も、イチハ殿、あなたが好きです」
俺の目を見つめて、はっきりと言う。
『好き』という言葉が俺の心にゆっくりとしみ込み、満たされていく。
そしてシュウ殿は少し震える手で、俺をぎゅっと力強く抱きしめた。
抱きしめられる俺の体もかすかに震えている。
「森であなたの姿を見かけてから、ずっと気になっていました」
「……森で?」
「ええ、この近くに逗留なさっていたでしょう?」
隠れて見ていたつもりだったが、この森を熟知しているシュウ殿には気付かれていたらしい。
「こんなところに珍しいと思った。でも、噂に聞いていた『冒険者たちを支援する好事家』という、まさにその人だと知って納得しました」
「………」
「気さくで飾らない人柄も私にはまぶしかった。あなたのような人とともに過ごせたら、素敵だろうと…。それに……」
「それに?」
「あ…いや……」
「なんですか?おっしゃってください」
「その…。素朴な印象なのに、ふとした時にとても……その…色っぽくて……」
そう言われてパッと顔が赤らんだ。
ぴくりとこわばる身体も、強く打つ心臓も、抱きしめられていては隠しようが無い。
「……」
恥ずかしいけれど、でも嬉しくて、シュウ殿の身体に額をすり付ける。
シュウ殿が背中を優しく撫でてくれた。
見上げれば、俺を見つめるシュウ殿の優しい目。
「イチハ殿、私はあなたの事となると、余計なことを気にしてすぐに選択を間違ってしまう。そんな私で大丈夫ですか?」
そう言うシュウ殿に思わず微笑む。
「間違いに気付いたら改めればいい。俺は、あなたが俺を受け入れてくれるなら、それだけで幸せです」
シュウ殿にも笑顔が浮かんだ。
二人で微笑みを交わし、そのままくちびるを寄せあう。
激しくはない。けれど、静かに心と心の絡み合うようなキス。
一旦離れ、互いの想いを確認するように視線を絡ませあっては、また唇を寄せる。
ふれるたびに心が甘く痺れていく。
「シュウどの…おれ…しあわせです……」
すぐにぼーっとなってしまう。
「また…そんな顔をして。誘っているのですか?」
そう聞かれてもよくわからない。
「さそって…も…だめじゃないですよね?だっておれは…しゅうどののものです」
途端にぎゅっと強く抱きしめられる。
その強さにちょっとだけ頭がはっきりする。
「あ…俺……」
なんてことを口走ったのか…!
恥ずかしさに思わずシュウ殿の胸を押して身を離そうとするが、ぐいっと抱き上げられ、そのままベッドへ寝かされてしまった。
顔の横で両手の指を絡ませあって手をつなぎ、覆いかぶさるようにキスをされる。
軽くかかるシュウ殿の身体の重みにドキドキと心臓が跳ねた。
深く口づけられると、それだけでまた頭が真っ白になっていく。
「んぁ……っ」
差し込まれる舌に翻弄される。
「ぅんっ。しゅうどの…ぁはあ」
「あまり可愛らしい反応を見せないでください。堪らなくなってしまう」
顔を撫でられる。その手に顔をすり付けキスをする。
「もう…イチハ殿聞いてらっしゃいますか?」
シュウ殿が困ったように笑って聞いてくる。
聞こえてはいるけど…自分じゃよくわからない。
それに、シュウ殿と話をするまでに色々考えすぎた。
もう、何も考えたくない。
シュウ殿にも、余計な考えなんかすべて振り払って、ただ心のままに俺を愛してほしい。
本能のままにシュウ殿の首にすがりついて身体に足を絡める。
その肌に触れたくて、シャツの間から手を差し込んだ。
あったかい。
早く素肌で抱き合いたい。
シュウ殿が服を脱がせてくれる。
俺もシュウ殿が脱ぐのを手伝おうとするが、ほとんど邪魔になっていたかもしれない……。
身体を絡ませながら、ほほ、耳、首元…と唇を這わされる。
「ふっ…ふあっ…あぁっ。ん……」
その一つ一つに恥ずかしいくらいに反応してしまう。
ずっと会えずに我慢していた分、期待が高まってしまっている。
ちょっと触れられただけで信じられないくらい感じてしまって恥ずかしい。
シュウ殿は俺がどこで反応するのかすっかり把握してしまったようだ。
「ああっ!こんなっ……ぁあ、せなかっダメっ」
つっと肌にシュウ殿が指を走らせるだけで、俺の身体は情けないくらいに跳ねる。
本当に、俺、感じすぎだ!
恥ずかしい。
もう頭が飛びかけてる。
「やっ。っく!はぁっっ!はぁっ!もうっ……はぅん!もう、くしょぐしょになっちゃうからぁっ!」
じっくりと首もとに舌を這わされ、身体を撫でられ、今度は胸を口に含まれる。
舌で乳首を転がされると、もう堪らなくなってシュウ殿の太ももに俺の期待の印をぐっしょりとすり付けてしまっていた。
服を脱がされてまだ十分も経っていないのに、狙いすましたような手技にもう俺は滅茶苦茶だ。
「ぁっっあああ!ふぁあん!もう…もうイイです!」
「何がです?」
このどうにもならないくらい反応しすぎる状態を見てわかっているくせに、シュウ殿は俺の乳首をいじるのも、肋骨にそって舌を這わすのもやめようとしてくれない。
「ぁうん!んぁあっ!このままだと…おわるまえに…おれ…しんじゃう!」
シュウ殿がふっと笑った。
「じゃあ、もうやめてしまいますか?」
「やぁあっ!やです!やだ…っ。ちがうっ。してっっ。しゅうどの!してっ!」
「どうして欲しいのですか?イチハ殿」
「ああっだからっっ!あぁっ!やめてっっ」
「やめますか?」
「ああ…っもう、やだ!いじわるダメれすっ!わかってるくせに…きらいっ!きらいですっ!」
俺は悶 えすぎて大混乱だ。
「すみません。嫌いになられるのは困ります」
ぱっと手を放し、ハァハァと荒い息を繰り返す俺の背を優しく摩った。
シュウ殿は俺が落ち着くのを待ってくれたが…できればあまり待って欲しくはなかった。
今の痴態が思い出されてどうにも気恥ずかしい。
思わず胸にすり寄って顔を隠す。
「もうよろしいですか?」
「もう…よろしいです…。ので…」
「ので…?」
「……察してください」
またシュウ殿がふっと笑った。
「私なりに察してみますので、違ったら言ってください」
そう言うと、緩やかに俺の全身を愛撫していった。
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