26 / 31

番外:夕闇の路地にて・後編

「シュウ殿!」 「?」 「牛の煮込みは美味しかったですきゃ?」 「ああ旨かった。イチハは本当に料理が上手になった」 酔いがまわったせいが、褒め言葉ひとつで天にも昇りそうな気分になる。 「ふふふ…。うれしい。でも、もうひとつあるんです」 「なんだ?デザートか?」 「そう。トロトロのデザートでしゅ」 ぐぐっとシュウ殿に顔を寄せる。自分でも酔ってるな…と自覚はしているが止まらない。 「イチハ、なんだか面白い酔い方をしているな」 笑うシュウ殿にぷぅとむくれて見せる。 「食べないの?いらない?…いいっ!おれがたべるから」 そう言ってシュウ殿の腕を強引に引いて椅子から立たせた。 「ああ、いや、もらうよ。イチハ」 「ダメ!おれが食べるのですから」 そのままシュウ殿をグイグイとベッドまで押しやり、強引に寝かせた。 そして仰向けのシュウ殿の腹の上にまたがる。 「シュウ殿はダメでしゅ。おれが、いっぱいでトロトロになっても、シュウ殿は動いたらダメ。おれがするの。だから、シュウどのがおれのデザート」 「私がデザートなのに、イチハがトロトロになるのか?」 「それは…だって、シュウどののが入ったら…おれ『シュウどの大好き』っておもっちゃうから…しょうがない」 「ふっ…それは…しょうがないな」 ふて腐れたように言う俺の首をかき抱いてシュウ殿が口づける。 俺はそのまま広くたくましい胸に倒れ込んだ。 またがっていたはずなのにあっさり転がされ、腰を撫でられながら深く口づけられる。 「ふあ…んんん…む……」 口内をくすぐるような舌での愛撫を与えられ、すぐにノックアウトだ。 「あ…シュウどの…おねがい。もう早く欲しい……」 さっきまで、俺がする…なんて言っていたのにあっさりねだっている。 「どうした?酔ってるとはいえ今日は随分積極的だ」 服も脱がずに欲しいとすがる俺の着衣を巧みに剥がしてゆく。 そして自らもするりと服を脱いだ。 「だって…シュウどのがカッコいいから。シュウどのは、おれのこと大切にしてくれてて、かっこよくって、だから、ちゃんとおれのだよって、言わないと誰かにとられたらいやだし、それで…あれ? わかんなくなった…けど…とにかく、全部おれのものだから…早くつながりたい」 困ったような顔でシュウ殿が俺の脇腹を撫で上げた。 期待にゾクリと震え、滑らかな筋肉がついた腰に足を絡める。 俺のヤル気に押されるように、大きな手が後ろを丹念にほぐし始めた。 「ひ…ぁあん!」 しっかりソコが緩んできた頃、シュウ殿が俺の手を取って後ろをほぐす自らの手に重ねた。 そしてたくましい指二本が穴を広げ、俺の中指をツプンと押し込んだ。 あ……自分の指で敏感な粘膜をかき混ぜているところをシュウ殿に見られるなんて……。 恥ずかしくてたまらない。 なのに俺の指はシュウ殿の指と絡まり、淫らにぬめる穴をあさって広げる。 クチュクチュリ……指がうごめき穴の中から湿った音が立っていた。 恥ずかしさと興奮で頭に血がのぼっていく。 こんな時にちょっとでも前に刺激をくわえられたら、あっけなく精を漏らしてイってしまいそうだ。 羞恥で体が熱い。そして、壊れそうなほど心臓がドキドキしている。 「すごく気持ちよさそうだ」 「い…いいっけど、やだっやだ!このままイキたくなっちゃう。やだ。おしまい」 「そう言っているわりに、随分熱心に指を動かしてるな」 シュウ殿によって香油を足されると、中の指の動きも滑らかになり、音もジュプジュプと大きくなった。 浅ましく欲張りな俺の恥部が快感に喘いでいる。 あ……も……イクっ……。 ハッとして指を引き抜く。 本当にイってしまいそうだった。 一人だけ乱れて……恥ずかしい……。 しかも、こんなときに少し酔いがさめてきてしまった。 いやこんな状態だと、酔ってようがいまいが関係ない。 あとは愛しい人に翻弄されて、溶かされてしまうだけだ。 大きな手で体を撫でられる。 それにビクビクと反応しながらも腰をすり付け、シュウ殿の欲望をねだる。 「はやく…これじゃ…おれ一人でイっちゃう!おねがい。おねがいだからっ」 欲しがりな俺の頭をひとつ撫でると、その手が足を掴んで大きく割り開いた。 「まるで、だだっ子みたいだな」 むき出しにされたその場所に、たくましい高ぶりが添えられる。 俺は期待だけで、もう決壊寸前だ。 先端がぐっと押し込まれる感触にわなないた。 俺は……コレを待ってたんだ。 内壁を広げなじませるようにゆっくりとシュウ殿が動いた。 「ん…ぁは…………う…んぁんっ!!…ん…ぁ」 頭がぼーっとする。 まだなじませる動きだけなのに、当たり前のように中でイってしまった俺をシュウ殿が優しく見下ろしている。 胸がぎゅっとなった。 「すき……」 漏れ出た言葉を、唇で吸い取ってくれる。 ちゅ…。軽く触れあった唇に痺れるような快感が走った。 「私も…大好きだ」 幸せに頬が緩む。 ぎゅっとしがみつく。 このまま繋がった部分から解け合ってしまえたらいいのに。 「うごいて?」 自分を欲望のままむさぼるシュウ殿を見たい。 まあ、大体シュウ殿が激しく求めてくれている時は、俺は完全に頭が飛んでしまっているため、その姿を記憶にほとんど残せないんだけど。 頬や首筋にキスを散らしながら、シュウ殿はたくましいモノでゆっくりと敏感な内壁をなぞる。 「ん…はぁ……」 体をすり付けながら、自らも腰をうねらせた。 「あっっ!んあぁ…ううっん!」 中だけじゃなく、首から鎖骨にかけてゾロリと這わされる舌にもイカされてしまいそうだ。 勝手に背中が反って、逃げたいのに身体を押し付ける格好になる。 もう一つ、スイッチが入ったら……。 そしてそのスイッチを、シュウ殿が押した。 「あぅふぅんん!…ああっ!んぁっ…やだっ!おれっすぐだからっっ!」 「すぐ…何だ?」 「やっっ…わかってるくせにっ!こんなでっ…あっ!イクッ!むねっあぅんん!イっちゃうっ!」 鎖骨を甘噛みしながら、乳首を指でクニクニと円を描くように転がされる。 乳首を愛撫されると、突き抜けるような快感が全身に走り、たとえ触れていなくても俺のモノははち切れんばかりに喜びを示してしまう。 「どっちでイキたい?」 「んん…わかんな…っっ!ああっっあっ!もう…んっく!」 返事をしている間に、体を引きつらせながら軽く脳イキしていた。 「あぁっん!あうっまた…イくっっ!ふぁ…ん、おねがいっ。ヒドくしてもいいから…動いて。シュウどののでイキたい」 「酷くはしないよ。じっくり優しく引き出してやるから。いつイッてるのかすらわからなくなるくらい飛んでしまうといい」 じっくりと快感を引き出されると、いつまでもその波が引かなくて、身じろぎしただけでもイキそうになるくらいイキっぱなしになってしまう。 「あ…や、おればっかりヤダって……」 「そんなことないよ。イチハに包まれて、私だって我を忘れるくらいに気持ちがいい」 敏感な粘膜への剛直による優しい刺激と、ピンピンと弾けるような胸への刺激、そして心が溶け出すような大きな手での愛撫でじっくりと、確実に俺の快感を高めていく。 けれど、一番俺を狂わせるのは低く少し掠れた声だ。 「…イチハ……」 そっと大きな手が俺の前髪をかき分ける。 俺はポーっとなってシュウ殿を見つめた。 シュウ殿も俺を見つめている。 目の下の艶っぽいほくろが大好きだ。 細められた目が、俺を愛おしいと言ってくれている……。 「ああ…んん………」 甘い時間。 ゆっくりじっくりと引き出される快感は深くて強い。 しっとり汗ばんだ脇腹を手でなぞられただけで、ゾクゾクと快感が伝い、耐えきれず身悶えた。 「ん…はぁ…しゅうどの……」 「ああ」 シュウ殿に言われた通り、優しい快感に溺れ流され、頭が飛びかけている。 深く俺と繋がるシュウ殿の引き締まった頬に両手をそえた。 「おれ…はぁ…ん…おれ…。しゅうどのが好きで…ん…。このまま、だんだん…はぁっ…穏やかに恋から……『あい』にかわるのかなって」 「ん……」 「けど…んん…ぁはあ…。きょう、しごとのかおしてるシュウどのの顔みたらっっ…はぁ…あんっっ……」 「……。見たら?」 「ん…んあっ…ああ!あう…イイっ…うぁ…んっ!」 「イチハ?」 シュウ殿は動きを止めてくれたが、俺の穴のフチがビクビクと震え、自らシュウ殿のモノを締め付け快感が襲ってくる。 「はぁっ…ん…シュウどのがぁ…かっこよすぎるから…はぁっ…おれ…んっ…ぁ…おれ、またしゅうどのに恋してしまった…あぁ…んっっ!?」 急にグイっと深く押し込まれた。 そして、強く抱きしめられる。 「はあ……そんな可愛いことを言って。歯止めが利かなくなって、抱き潰してしまったらと、心配になる」 そう言いながら俺の腰を抱き上げて強く律動し始めた。 けど、こんなにねっとりと重い快感が体に溜まってしまった状態で激しく中を擦りたてられるのは、かなり……マズい。 ひと突きで壊れたおもちゃのように体が暴れ、狂ってしまいそうだ。 「あひっっ!!あっっ!うああ!おれ…もう…どうしたらいい?ああん!もう…あたまへんなのに…もうううっ!」 「はあっ…イチハ…。そのままおかしくなってしまい、私だけ見ていればいい」 「ああんん…!そんなあぁっっ!あひぃ!おかしくならなくても…しゅうどのしかみえないのにっっ」 「………そうだな。イチハの見え方が少しおかしいのは……なんとなく気付いていた」 「……へ?」 「なんでもない」 「なに?…んぁっっはん!ああっしゅうどのっっっっああ!」 「私も、あなただけだ。イチハ」 シュウ殿の言葉で俺の頭は完全に飛んだ。 いつもは無理をしないよう気づかってくれるシュウ殿が、久しぶりに我を忘れるほどに俺を求めてくれる。 快感に喘ぎ、一つになれる幸せに溺れる。 ずっとこのままで……いや、そしたら冗談ではなく死んでしまうかもしれない。 けど、もうしばらくはこんな風に求められる喜びを味わっていたい。 ◇ 不審者によるかどわかしが解決したという話はすぐに広まった。 「お前が無事で良かった」 心底安心したように言うレフに苛立つ。 無事も何も、若く軟弱な男がターゲットならそもそも俺が狙われるはずがない。 余計な気をまわす暇などなくなるよう、レフとは無関係の事業のサポートを言いつけたやった。 今日は数日ぶりにシュウ殿と広場で待ち合わせだ。 けど、そこで待つシュウ殿の姿に俺は驚いた。 なぜか警備隊の制服を着ていたのだ。 シュウ殿は警備局。 警備隊ではない。 「その格好…なにかあった……?」 不思議そうに聞く俺にシュウ殿は何でもないように微笑む。 「これからはこちらに帰るときはこの格好をすることにした。警備隊が歩いているのだと思われれば、少しでも街の治安に役立てるだろう?」 なんで警備隊?という違和感はあるが、この前のような事件を未然に防ごうという使命感みたいなものだろうか。 他人(ひと)のために心を砕くシュウ殿らしい気もする。 それに何より制服姿がカッコいいし。 「さあ、いこうか」 やっぱりシュウ殿は半歩後ろを歩く。 「俺、その格好のときは、後ろを歩かれるの……少しイヤだ」 「どうしてだ?」 「なんだか、不審人物として警戒されてるみたいだ」 「そうか?護衛されてるみたいに見えないか?」 「……シュウ殿は護衛じゃない。俺の……。これじゃ二人で歩いてるのに手もつなげない」 すっと横に並んでシュウ殿が俺の顔を覗き込んだ。 「手をつなぎたいのか?」 「……そりゃ…でも、制服じゃダメだろ?」 「まぁ、たしかに。だが……」 ふむ。と何かを考えるように、建物の間に覗く空を見上げる。 「そうだな。今日はダメだが、明日からは制服をやめて手をつなごう。きっとそれでいい」 「えっっ!? …いいの?え?治安が…とか言ってたのに」 「まあ…実際に私が暴漢を見かけたのなら全力で制圧するから問題ない。要は『不審者』がいなければいいということだ」 「……?まあ…たしかに?そうは言っても出る時は出るだろう?」 「それは、これからも警備隊に頑張ってもらうさ」 なんだかよくわからないが、明日からは手をつないで歩けるらしい。 そう思うと、こうやって警備隊の制服を着たカッコいいシュウ殿と歩けるのも貴重な体験だという気がする。 「なんでシュウ殿は、何を着てもカッコいいんだろう」 そう言う俺を意外そうにシュウ殿が見つめる。 「いや…そんな事はないと思うが……」 「俺が着たら、こんな制服絶対似合わない」 「……いや…それはそれで」 「じゃあ、あとで着てみせようか?きっと変だ」 シュウ殿が堪えきれないといったように笑い出す。 「じゃあ、着てもらおう約束だ」 「だから絶対変だって。そもそもサイズが合わない」 「それがいいんだ。……きっとすごく可愛い」 密やかなシュウ殿の口ぶりに、ドキンと心臓が跳ねた。 俺は何かそんな……変なことを言ったんだろうか? 「か…かわいいわけない。可愛いとか…おかしい。警備隊の制服なのに」 「ああ、それは着て見せてもらってから判断しよう。楽しみだ」 なぜだか艶っぽい表情を浮かべるシュウ殿に、俺はドキドキがとまらなくなってしまった。 早く帰りたいような、帰りたくないような……。 なんだか今日は、この前とはちょっと違う熱い夜になりそうな気がする。 《終》

ともだちにシェアしよう!