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第8話

父であるマールテンが妹たちに以前、我が国リゼルハイド建国の成り立ちを伝えた。 「そもそも爺さんと曾爺さんが神官だったそうだ。親子揃って有能な人物で村の教会の司祭から王宮付きの司祭にまで上り詰めて、めきめき頭角をあらわして王が位を退き成り代わったとか」 「こわっ!何でたかだか村の坊主が国の王になるのよ。異例の出世すぎて引くわ!」 「裏でよっぽどあくどいことをしていたからに決まっているよね!」 「王や臣下からの信頼も篤く、とりたてて人望があった、人徳のおかげだと云われている」 妹たちの非難をよそに、マールテンはふたりの功績をなごやかに讃えた。 「えー、絶対騙し討ちだよ!」 「ある日、王が自分から「やめる」って退いて、サクッと任せるなんてないから!」 「えー血なまぐさい_____________________」 「聞きたくなかった_____________________」 妹たちは非難轟々だ。 「国を表から支えるのが王の役目。裏から支えるのが神官の役目。それをふたつ同時に行ったらより強固なものになると考えて、兼任することにしたんだそうだ」 「なんて強欲な______________________」 神職は裏から政治的に支配できるツールでもあったのだ。人々を懐柔していきながらじっくりと浸食してゆき、意のままに操る。そうやって我が一族は繁栄していった。 昔、昔と昔話のように聞かされた一族のルーツだったが、聞いているだけで怖くなってくる。 ここに至るまでに凄惨な歴史があるはずなのに、文献や伝承では全部塗り替えられて美化して伝わっているのだから、きっと。 そんなあるときのこと、妹たちに縁談の話が舞い込む。 聞かされたのはシファが私室として移り棲んでいるこの地下室に集まっているときだ。 シファとアーシャ、サーシャー、コーシャ、ターシャの妹四人は呑気に正座してお茶を呑み、お菓子をつまんでいた。 お茶請けはやわらかい酒饅頭と甘納豆だった。いちいちセンスが年寄り臭いチョイスだ。 事のあらましはこうだった。 「アズカヴァル国のリヴェラ王がそなたたちのひとりを妃に迎えたいと申しておる」 わざわざここに赴いたマールテンの口から直々に伝えられる。公務の直後に立ち寄ったとみれる正装した格好。恰幅のいい体系に王冠、マントを纏い、なかなか貫禄がある風情だ。 「これを機に我が国と同盟を結びたいそうだ」 「ふーん」 至って普通の反応。緊張感のない場面だ。 リヴェラ・ライト・アズカヴァル。あの戦場で無敵だったと伝えられるヴァイス国王の嫡男。 覚悟はしていたけれど、年頃になった妹たちにもついにこのときがやってきたのかと、シファは実感する。 「私たちよりひとつ年下なんだよね」 妹たちは十九歳でリヴェラ王はひとつ年下の十八歳だ。年齢的な釣り合いではちょうどいい。 シファは二十六歳なので、リヴェラよりも八歳年上になる。 「どんな子だっけー?」 「えー、かわいい顔した子だって云っていたよ」 侍女たちが口をそろえてそう云っていたという。 リヴェラが王太子だった頃、妹たちと会ったことがあったかどうか定かではない。 肖像画のひとつくらいはこの城の者なら一度ぐらいは眼にしたことはあるだろう。 「えー、どうする?」 「私たちの中から誰かひとりなんでしょう?」 一国の姫という自分たちの立場をわきまえていて受け入れているからなのか。 特に嫌がっている素振りもなく、ごく自然にジャンケンして決めようとする。 さっきの饅頭のときもそうだけど、何でもジャンケンで決めるんだなと微笑ましく思いつつも、慌てて「あっ、待って、俺が行く!」とシファが挙手する。 「えっ、兄様が!?」 「いいの?よその国に嫁いだら王様になれないんじゃないの?」 妹たちが騒然とする。 「王位継承は辞退するよ。……俺の代わりに、妹たちを据えるといい。妹たちは文武両道で有能だから問題ないかと思う。どうだろうか」 シファが父王を見遣りながらそう窺うと、こにこしなからマールテンが答える。 「王になるには男子でなくてはならないとか、長子でなくてはならないとか、そういう決まりはないよ」 「なんて(ゆる)い」 あっさり決まった。シファが抜けるとなると跡目は妹たちの誰かになる。 四人の中で誰が王になるか決めるとき、またジャンケンで決めることになるだろうか。それとも別の方法で決めることになるのだろうか。それはそのときになってみないと分からない。 「えーめずらしくないー男子で輿入れって」 いくら男子同士で結婚も出産もできるとはいえ、実際同性でそうするのは稀だ。 シファがそうするには理由がある。 「前々からいいなって思っていたんだ。彼のことが」 「え、どのくらい前から?」 「十年前からかな」 「えー、十年前から目をつけてたってことは、まだ八歳だった子に良からぬ感情を寄せてたってこと!?」 「ロリコン!?」 「いや、男の子の場合はショタコンって云うんだよ!!」 「なにそれ、おにショタね!!それだと、ぐっと犯罪臭があがる言葉だけど!!」 姫である妹たちがなぜショタコンやおにショタという言葉を知っているのだろうか。 その辺の疑問は置いといて。わーわー波紋を広げ、盛り上がる。 「待って。今まで何の素振りも見せず、何事もないように振舞って周囲を欺いてたってこと!?」 「サイコパスだよ!!」 「大変!うちに変態がいるよ!!」 「異常者って、普段社会に溶け込んでいて、ああいう振る舞いなんだね」 「普段はソツなくこなしていて、好きな人に対してしかそうならないっていう……」 「アレなんだねー」と妙なことで感心していた。(何がアレなんだろう?) 「うちって仲良し家族だと思っていたのに!じゃあ私たちのこと好きじゃないってこと!?」 ショックを受ける妹のひとりに、別の妹のひとりが熟考して導き出す。 「たぶん、だけど。兄様の中で身内ゾーンとお前なんか興味ないゾーンに分かれるんだよ。友達とか家族は身内ゾーンで、あとはその他大勢のどうでもいい奴らってことなんだよ」 「どうでもいい奴らって云われんのヒドくない?モブって云われるよりもヒドいよ」 「私たちは身内ゾーンだし、ああもう、どうでもいいよ。で。特別な執着する人物に出会って覚醒したってことなんだよ」 ああ、こわいねー。とぎゃあぎゃあ騒ぎ出す。 「執着ってどういう意味?」 妹のひとりの疑問にシファは答える。 「アーシャ達は食べることがとにかく好きで、限定のスイーツを食べられないと嫌だろ。それと同じことだよ」 ____________多分違う。大きく違う。絶対。 う……ん、と妹たちは納得したような、しないような顔をした。 と、これまでの回想に浸りつつ、シファはアズカヴァルの城の庭園で銀色の鳥の形をした遣いの聖獣を飛ばして、あたり一帯を偵察した。 悠然と飛行して鳥が戻って来てシファの指に止まると、銀色の軌跡を残し、そのまますっと溶け出すように姿を消した。 「ご苦労さま」 報告によれば、やっぱりそうだ。昨日森に入ったときにも思ったことだが、極端に精霊の数が少ない。 先王・ヴァイス国王の時代はもっと多かっただろう。 国力が低下し、人々の元気がなく、活気がなくなれば自然と精霊の数も減ってくる。 気が澱んでくると、棲みにくい環境になる。 それに森の奥深くに不穏な影を感じる。もしかして、それにも関係している? 「一度、大々的にあたりを清め、浄化する必要がありそうだな。これは」

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