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第13話
ときは今より二年前。
リヴェラの父であるヴァイス・ヴァン・アズカヴァル国王陛下が崩御した後のことだった。
アズカヴァル国全体が深い悲しみに包まれ、盛大な国葬が執り行われたその日のうちに古株の重臣たちによるクーデターが起こった。
それは青天の霹靂だった。いわば寝耳に水の状態だった。
リヴェラはそのとき十六歳になったばかりだった。
こんな子供がこれからの国の行く末を担うのかと、絶望した彼らは一様に結託する。
偉大なる王だったヴァイス・ヴァン・アズカヴァルの嫡子ではあるが、王としての器に足りないリヴェラを国王に据えることを断固として反対した。
派閥によって真っ二つに分かれた_______古参の重臣、リヴェラ率いる王立騎士団のそれぞれが城の中の半分づつの敷地を陣取り、籠城して対決することになる。
突然のサバイバルゲームが始まった。
しかも葬儀・告別式に参列した直後。喪に服している期間中に、だ。
反乱を企てた一派をすべて捕らえれば、この騒動をなかったこととして収めることが出来るが、逆にこちらが捕まれば彼らの要求が遂行されることになる。
どーしてくれるんだよ!と心の底から怒りが湧き出す。
目まぐるしい状況の変化。諸々の諸事情が絡み、泣いている暇などない。
どうしていいのか感情の整理が追いつかない。
どこに怒りをぶつけていいのか分からない状態で抗争期間がはじまってゆくのだった。
「うわーめんどくせー」
「こいつらアホなのかー」
割を食うのはまだ若い臣下たち。彼らのブーイングはすさまじかった。
「ただでさえ、クソ忙しい時期なのに!!」
「まったく、余計な仕事を増やしてくれたモンだよ!!」
王族たる者は元々忙しい人種なのだ。(その周囲の人間も)
日々政務や公務に明け暮れ、ただでさえ激務なのに内乱など起こされた日にはどうなるのか火を見るよりも明らかだ。
「くそー。一刻も早く滞っていた政務、溜まっていた書類も片付けなくてはならないのに」
この期間。誰も代わりにやってくれないそれらの業務が怒涛の勢いで溜まっていく。
想像しただけでも恐ろしくて絶望的になる。
葬儀の直後ということで全員黒い喪服姿のまま激動のスケジュールが敢行されて、戦ってゆく異様な光景だったが
「喪に服している期間だから抗争期間中も喪服で過ごすんでしょうか?俺らも奴らも」
「どーでもいい。激しくどーでもいい」
騎士団員のひとりが問うと、リヴェラがぶちキレる。
「同じ服を何日も着続けるのも不潔だし、着心地も悪いだろう。もし耐えきれなかったら、構わず脱いで他の色の服を着ろ。俺が許す」
ということで、ヴァイス国王を悼む気持ちはあるものの、騎士団員は喪服だと戦いにくいという理由で翌日にはリベラとライラ、サフ、グロウ以外の全員喪服を脱いでいた。
「向こうはこっちを殺す気マンマンで、こっちは下手に動いて奴らを傷つければ確実に評判が悪くなる。年寄り連中を虐待したとかで。くっそー、不公平だと思わないか?」
「民衆には云いたい放題云わせておけばいいだろう」
とライラが云うのだが、「そういうわけにはいかない」とリヴェラは頑として云い張る。
「いいか、危害は加えるな。ひとり残らず生け捕りにしろ」
若者サイドは武力しか持たず、年寄りサイドは知力しか持たない。
何て対照的なチームなんだろう。
自分たちの抗争に巻き込んではいけないので、あらかじめ厨房に入っている料理人や侍従や侍女も王城に関わるすべての人間を追い払っているので、城の中は閑散として静かになっていた。
彼らにはひと月ほど暇を与えてある。その期間内に必ず決着をつけなければならない。
陽が落ちると、廻廊に燭台やランプ等の灯りもなく、本当に真っ暗になる。
初日の夜である。
談話室に残されていたアフタヌーンティーの残骸をかき集めて空腹を満たす。
急なことで食料や料理の用意などができなかったからだ。
貴族の奥方たちが控室代わりにお喋りをしてつまんでいた余り物である。
ケーキスタンドや銀のトレイに盛られていたのは、胡瓜 と卵のサンドイッチ、スコーンにクッキー、マフィン、ケーキ。マカロンなど。
軽食ではない。結構がっつりした食事だ。
昼食と夕食までの間が長く、かつ昼食をたくさん摂ることに貴婦人は、はしたないと見なされるせいで、このような習慣が生まれた。
なので、思ったよりもボリュームがあって腹に溜まる。
小腹が空いたどころではなく、腹ごしらえという言葉がぴったりだ。
「いいモン食ってんな」
「下手したらディナーよりも量が多いかもしれん」
表では楚々とした態度をとりながらも、こんなにガッついたものを毎日食べていたのかと思うと、これから女に対する見方が変わるな。そう漏らしながら各々、食事を摂ることにする。
「ご婦人たちの食べ残しがあって助かった」
リヴェラは一口大のサンドイッチを口にする。
放置されてパサパサになったサンドイッチは中の具の水分が抜けて水っぽくなっている。
だが贅沢は云ってられない。
あるだけでもマシだし、つぎに食糧があるとは限らないので、もぐもぐ咀嚼する。
「しっかし、このスコーン、ゴツすぎて口の中の水分全部持って行かれんな」
「水で流し込め。喉に詰まる」
「モサモサする食い物って嫌いだわ。さっきから何度水を飲んだか知れない」
横に添えてあるジャムやクロテッドクリームを無視して大ぶりの大きさのものを手掴みでガッといく。優雅さの欠片もない、マナーもへったくれもない。
貴族出身の者も多数いるが、戦いの現場では行儀作法などないに等しい。ゴツイ男たちが洒落た食べ物をガツガツ食っている光景は異常なものがあった。
「これ、マカロンって云うのか。やたら甘いし、砂糖の塊を食ってるようなモンだな」
小さいマカロンを大きい武骨な手に取りながら、見慣れないお菓子に戸惑う。
さらに表面のアイシング細工にもケチをつけはじめる。
「砂糖の塊の上に砂糖で模様が描かれている。なんてイカレた喰いもんなんだろうか」
「ほとんどの物が甘すぎて、激甘だな。女子はいつもこんなものを食べているのか。女って本当よく分からんよなぁ」
「紅茶といっしょに食べるのが正解みたいだ」
「紅茶なんてあるわけないだろ、贅沢云うなよー」
この会話を当のご婦人たちが聞いていたとしたら、じゃあ文句を云うくらいなら食べなきゃいいのにと、激怒されることになるだろう。
夜の帳が落ち、すっかり暗闇に支配された城内は閑散として静かすぎるくらいだ。
かすかな物音がやけに大きく響き渡る。
これが遠征だと野外で天幕を張り、雨風をしのぎ、寒さもありつつ虫などと戦わないといけないのだが、城の中なのでまだ屋根もあるし壁もある。
マシな方ではあるが、どうも腑に落ちない。
今夜は大広間で雑魚寝だ。
団員たちは簡易式の寝袋に入ってからも好き勝手にぼやく。
「あーあ。今頃は家に帰って、もっといいモン食ってただろうなー」
「云うな、云うなよ、そんなこと」
「あー俺。ビーフストロガノフやローストビーフが食べたかったなー」
「俺はチキンの香草焼きとスペアリブがいいなー」
「よせ、腹が減るからやめろ」
あり合わせにしてはまだ豪勢な夕食だったが、翌朝すぐに食料が底を尽きる。
食べ盛りの青年ばかりの猛者たちの集まりだから当然と云えば当然のことだが。
「くそー、昨日町へ買い出しに行かせた奴らがまだ戻ってこない!」
「あいつら逃げたな。それか裏切ったか。もしかして向こう側に寝返ったとか」
「それはないだろう、いくら何でも」
「いや、どうだか分からないぞ。いくらだって買収できる」
「仲間を信じろよ。そうだ、道に迷っているかもしれんぞ。予想外のトラブルに巻き込まれているかもしれないだろ」
「あいつら、ドジだからなー。ちくしょー、人選ミスったか」
「う~ん。食料は尽きたし、あいつらも戻ってこない」
「買い出しの食料はアテにできなくなったな。どうする?」
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