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第14話

これからの先行きに不安を覚える。 腕組しつつ騎士団員たちがああだこうだと云いながら考え込んでいると、リヴェラが割り込んできて命令する。 「厨房エリアが年寄り連中に占拠されている。_____________パンを盗んでこい」 「え、年寄りから食い物を奪っていいのか?」とライラが口を挟む。 「じじい供は食料がなくなったらすぐに降伏するだろう。好都合だろう」 団員たちの顔にいちように緊張感が走る。 アズカヴァルの王子であるリヴェラからの勅令である。 絶対遂行しなければならないのだが、それを聞いて騎士団員の大半は思った。 厨房を占拠している時点で奴らが降伏するつもりなど毛頭ない気がする……と。 後ほど、騎士団員たちはリヴェラの命令通り厨房の奇襲に挑んで成功する。 猿山に乗り込むようなものだった。 群れになってギャーギャ奇声を発しながら反抗的な態度を見せて、体力的にも精神的にもドッと疲れた。 そして、戦利品が入っているとされる麻袋の中身を見て愕然とする。 苦労して略奪したにもかかわらず、思ったより食料が少なかったからだ。 運んだ時点で重さで分かるだろうと思われがちだが、芋の半分以上が石ころにすり替えられていた。 「うわぁぁぁナメんなよ!!」 「おさえろ、おさえろ」 「てめぇ、止めんな!!これが落ち着いてられると思うか!!」 逆ギレか。頭に血が上って暴れる団員が羽交い絞めにされて連れて行かれる。 よっぽどコケにされたことが頭にきたのだろう。 「想定内だ。奴らも悪知恵が働く」 「敵に食料を奪われることを予期して、おおかた別の場所に移したんだろう」 「こんなこったろうと思った」 口々にこんな仕打ちをしたじじい……重臣たちへの文句が絶えなかったが 「まぁいい。手に入れた食料だけでいいから腹を満たそうぜ」 リヴェラは気にせず、食事にありついた。 あいにく所望していたパンは手に入らなかったけれど、充分に腹の足しになりそうな量の食料が確保できた。 ただ芋を炙って塩や調味料で味をつけただけの簡素で豪快な料理。 火の通り具合はイマイチだが、なかなか旨かった。 しばらくして、買い出しに行った連中も無事戻ってきたのだった。 他の団員たちに遅かった云々の苦情を聞かされながら。  ● ● ● 執務室の前は敵対する重臣たちに見つかりづらくするために執務室には目隠しがわりに魔法でシールドが張られている。 イスやテーブルを大量に積み上げてバリケードが築かれていて、ところどころ脚を抜き取ってある。武器にするためにできるだけ集めて使えるようにしておいてあるからだ。 少しでも武器をかき集めるために涙ぐましい苦労をしているものの、年寄り相手に剣を使うことができない。魔法も使えない。 おそらくテーブルやイスの脚は威嚇用に使うことになるだろう。 執務室はリヴェラと近衛騎士のライラ、サフ、教師のグロウの四人が潜伏している場所である。 黒髪で短髪の気の強いライラ。オレンジ色の髪で控えめな性格のサフ。 幼馴染で兄弟のような存在のふたりだ。 肩に掛かるグレーの髪に銀縁眼鏡の教師、グロウ。 このメンバーで、例によって細長いテーブルに生徒である三人が席に着いて、執務室の中ではいつもどうりに授業が行われている。 窓際の硝子越しに青天の空が広がり、太陽の光が燦々と降り注ぐ。 ぽかぽかして暖かい日差し。 洗濯物でも干せば、きっとカラッと干せて気持ちがいいだろう。いい天気だなぁ。 こんな天気のいい日はじっとしてはいられない。と思い立ちライラは挙手する。 「先生!お外に遊びに行きたいです」 「だめです、終わってからにしてください」 教師のグロウは苛々しながら授業を続ける。 この抗争が終わってからという意味ではなく、授業が終わってからという意味である。 この三人は平日、半日授業を受ける決まりになっているからだ。 「外でドンパンやってる中で、とても外に出られるような状況じゃないよ」 サフがライラを窘める。大人しそうな風貌だが幼馴染には遠慮なく云いたいことを云う。 実際、騎士団員の連中が重臣たちを捕らえるために戦っている最中だ。 執務室の窓越しに武器を討ちあう派手な音が鳴り響いている。 「先生、今、非常時なんですよ!」とライラが声を上げる。 「ハイハイ知っていますよ。それがどうかしましたか?」 「何の権限があって俺たちがこんなことをしなきゃなんないんですか。だって、今大変なことになっているじゃないですか」 「抗争中につき。他のことに時間が割かれない分、勉強がはかどっていいと思います」 「はかどらねーよ!」 「あなた方は要領が悪く、オツムが足りないので、人の三倍勉強に励まないといけないって、いつも口を酸っぱくして云っているじゃないですか」 毎度、人権を侵害するようなヒドイ云いようだ。事実なのだから何を云っても許されると思うのだろうか。 「いつ何時襲撃されるか分かんねーから、誰も彼もみんな神経を尖らせているし、寝れていないし、授業なんか集中できないし、こんなことやっている場合じゃねーよ」 「やらなきゃいけないんですよ」 「なぜですか」 「さぁ?ばかだからじゃないんですか_________________」 云った!云ってしまった!この人は! 「ただでさえテキストが遅れているのに、これ以上遅れをとるわけには参りません」 「えー」 「葬儀にかまけてどれほどの予定が押して流れたと思っているんですか。どさくさに紛れてサボれると思ったら大間違いですよ!」 「ちょっとぐらいいいじゃないかー。先生のケチー」 「ハイハイ、ケチで結構。その代わりちゃんとやってくださいね」 「人でなしー鬼―悪魔―鬼畜」 「何とでも云って下さい」 先生は心を鬼にして云っているのか、元々心が鬼なのかよく分からない。 それにライラも面と向かってばかって云われているのにショックを受けないなんて、なんてハートが強いんだろう。サフは妙なことで感心してしまう。 「僕からしてみれば、ふたりともどっちもイカレているよ」 「葬儀よりもクーデターよりも、先生にとっては授業の方が大事なんだろうな」 サフとリヴェラのひそひそ話は、聞こえたら確実に殺されそうなそれだ。 「ちょっと、そこのふたり私語は厳禁です。何か云いましたか?」 「な、何でもありません……!」 「そうです、気のせいです!!」 地獄耳のグロウに不意にそう問われて、ふたりは慌てて声を張り上げたのだった。 「向こうは平均年齢六十歳以上で、こっちは平均年齢二十歳ぐらいかな」 「あっちは武官と文官の割合が半々で、さらに魔法の使える人間は四分の一くらいの割合か」 「こっちの方が有利かな」 気付けば、授業などそっちのけで作戦会議へと脱線する。 リヴェラ側についている主なメンバーはライラとサフも所属している王立騎士団の面々である。 若さだけが取り柄で、体力も勢いもある。なにせ現役の騎士団なのだから。 古株の重臣である向こうは大臣たちで武力の代わりに知力があるが、年嵩があり体力が及ばない連中だ。 「先生は確か、三十代だったよな」 「すみませんねー平均年齢上げてて」 嫌味を云いながらテキストのページを繰る。確実に機嫌を損ねたようだ。 「そんなこと、どーでもいいから、さっさと進みましょう」 王妃亡き後、入れ替わりに入ってきた教育係のグロウ・ミームは十年ほど前から城の業務に携わっている。 古参が多い中で十年程度の経歴ではまだまだ新参者の域である。 「剣や魔法の使い手が引退しててよかったよな」 「本当に、こればっかりは幸運だったよ」 「重臣たちのチームに彼らがいたら、とんでもないことになっていた」 幸い、平和な世の中になるにつれ、無敵と呼ばれたヴァイス王の武闘派の配下は十年前には引退してもういなかった。 彼らは四十代後半、五十代になっている。 領地や爵位などの褒美を与えられて安泰に暮らしているという。 「いい働きをした臣下に限って王政にしがみついてない。早々にやりきって引退している」 「じじい共、そんなにイヤなら辞めちまえばいいのにって思っていたけど、無能な奴に限って残ってるって事か。キツイなー」 「__________________で、騎士団の連中。大臣のじじいのうち、何人捕まえた?」 「まだひとりも捕まえていないって云ってた」 「幸い、牢屋があるのはこっちサイドの敷地だ」 「捕まったらどうするんですか、あなた方は軽率に動かないで下さい。敵方にしてみれば大将とその護衛になる重要な立場です。くれぐれもお気をつけ願います」 「一番偉い立場だからといって最後においしいところだけ取って、手柄だけ持っていくっていうのもどうも違う気がする。ちょこちょこ顔を出して捕まえて行ってもいいんじゃないのか?」 グロウが注意喚起するが、リヴェラたちは取り合う気もない。 「とりあえず今は騎士団の連中に任せておいて下さい。あなた方は出てこないで下さい」 「頃合いを見て動こうか」 そうだな、とリヴェラの提案に近衛騎士のふたりも頷く。 ひとり残らず捕まえれば、この騒動は終息する。

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