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第15話

「我々が仕えるべき相手は、あの誇り高き獅子王なのだ!」 「それを、戴冠式も終えていないただのガキがデカイ顔してのさばりおって!」 機会は突然やってきた。古株の重臣が廻廊に三人並んで出てきた。 聞えよがしに悪口を云いふらしながら城の中をうろつく。 そうすれば血の気の多いリヴェラたちが眼の前に現すだろうという見え見えの魂胆だ。 奴らが執務室を通過するときにその声はでかくなっていった。 「無能のクセに態度だけはでかいデカイ生意気な餓鬼だ!!」 「若造どもが。儂の眼の黒いうちは好きにはさせまい!!」 「あんな小僧を王に据えるようでは、この国も終わりだな!!」 君主を侮辱する数々の暴言。 あまりにも酷くて聞くに堪ええれないものだった。 リヴェラは毒づく。「聞き捨てならないな。本当に襲撃してやろうか」 「分からせてやった方がいいんじゃないのか」 同じく気の短いライラが同意しながら動き出そうとすると、後ろで気弱なサフがあたふたと二人を止めようとする。 やめて、と小さく聞こえるが無視して、どうしても憤りが治まらなくて、とうとう出てゆくことになる。 「デカい顔をしているのはお前らの方だろうが」 罠だと知りつつもリヴェラとライラは我慢できなくなって、彼らの前に躍り出た。 「調子に乗んなよ、じじい共が」 「この若造が__________________________________」 宿敵を前に全力で襲い掛かってくる。ヤケになったじじい程厄介なモノはない。 だが問題はその後にあった。 「ええっ。出てくるなってあれ程口をすっぱくして云ったのに、どういうことです!!」 グロウの逆鱗に触れてしまい、リヴェラ達はこっぴどく叱られる。 「こんな軽率な行動を取るなんて。あなた方は下っ端の鉄砲玉じゃないんですよ。ご自分の立場をもっと自覚して下さい」 重臣たちはすでに仕留めて牢屋にぶち込んでおいたが、問題はグロウに見つかって説教を受けていて雷が鳴りやまないことだ。三人全員正座をさせられていている。 「すみません先生、僕がふたりを止められなくて」 「仕方ないだろ。血が騒いじゃってさー」 「ここが潜伏先だってバレバレだしな」 謝るサフに悪びれないライラ、開き直るリヴェラ。 連帯責任で、三人の反省しない態度に苛立ち、凄まじい形相でグロウに睨まれる。 う~ん、怒らせてしまったようだ。 「えー、いいコトしたって全然褒めてくれないんだなー先生は」 「無事だったからよかったものの、捕まってしまったら元も子もないでしょう。自分たちの 立場をよく自覚してくださいね。って、ちゃんと云いましたよね」 「……はい、ごめんなさい」 サフがシュン、と申し訳なさそうな顔をするのだが 「先生の云う通りにしていたら、いつまで経ってもこの騒動が終わらないんじゃないかな?」 リヴェラがそう云うと、ライラも「そうだ、そうだ」と、頷き、同意する。 「……もういいです。もうこれ以上あなた方に付きあっていられません」 「先生……」 「もう知らないです。私の忠告も聞けないのなら、あなた方だけでどうぞ好き勝手にやってて下さい」 「ちょっと、待って下さい先生!」 引き上げて去って行くグロウの後ろ姿を見て、三人は茫然とする。 すぐに後を追おうとして走ろうとするが、できなかった。足が痺れすぎていて。 正座した足を崩して立ち上がると、すっ転んでしまい、もうとっくにグロウの姿など消えていた。 三人とも呆然とする。 「……どうしよう。愛想つかされちゃったね」 「仕方がないか。俺らが無茶したんだから」 「俺たち三人だけでもやれるってことを証明すればいいんじゃないか?」 __________あいつら仲たがいしたらしいぞ。 ____頭脳(ブレーン)であるグロウが抜けた。 護りは手薄になっていると噂を聞きつけ、奇襲してきた重臣らが後を絶えなかった。 そのたびにリヴェラ、ライラ、サフの三人と待ち構えていた騎士団員とで力を合わせて返り討ちにした。 信じられないくらいの急展開にとんとん拍子で片付いていった。 「____________やった、やったぞ!!」 ひとり残らず捕らえたあと、歓声が沸いていた。 幼馴染ふたりと騎士団員たちに囲まれ、歓喜にむせぶ。 決着がついたのはクーデターが起こってから、ちょうど一か月後だった。 大勢が互いに讃え合って、これから祝杯をあげようと騒ぎ出す中。 「よく頑張りましたね。あなた方が団結力と結束力が成せる業です。仲間を信じて戦い抜いたことを誇りに思います」 そこにグロウが現れた。拍手しながら皆の功績を讃える。 「先生、どうしてここに?」 信じられないものを見るように眼を見開き、驚くサフ。 リヴェラが代わりに答える。 「俺が先生に頼んでおいたんだ。俺たちに愛想を尽かして見捨てる演技をしてくれって。仲間割れしたって思わせれば、奴らは動くはずだから。おびき出して一斉に仕留めようと思ったんだ。あんまり長引かせるのも嫌だったし、……わかってくれるよな?」 「なーんだ、そうだったのか。云ってくれればよかったのにー。水くさいぞ」 「云ってたら意味がないだろう」 あっけらかんと云い放つライラにリヴェラが呆れた。 「わ~ん、よかった!」 ホッとしたサフはグロウに抱きついて咽び泣いている。 「どんなに攻め込まれてひもじい思いをしても、お風呂に入れなくても、先生に見限られる方が僕には辛かった」 「それもどうかと思うけど」 ライラとリヴェラが顔を見合わせ、苦笑いする。 「泣き虫ですね、相変わらずサフは。でも、あなたは近衛騎士でリヴェラ様をお護りする立場。いずれ泣き虫は卒業しなければなりませんよ」 「……うん、うん。でも今だけはいいよね?」 「仕方ないですね」 グロウはくすりと笑う。グスグスと洟をすすって、ぎゅっとすがりつくサフにグロウは彼のオレンジ色の髪をやさしく撫ぜてやる。 しばらく落ち着くまで泣かせてやった。我ながら甘いな、と思いつつも。 「ヴァイス陛下も、きっと天国からあなたたちの行動を見守っていらっしゃったでしょう。さぞやお喜びになられていかると思いますよ」 騎士団員たちには気遣って喪服を脱いでいいと云ったが、リヴェラとライラ、サフ、グロウの四人は最後まで頑なにヴァイス王への追悼の意をあらわすために黒い喪服のままで過ごしたのだ。 この国では喪に服す期間はひと月であり、戦いが終わったと同時にようやく喪が明ける。 _______________ああ、やっと終わった……。 祝杯の準備に奔走している騎士団員たちの歓声がやけに遠く感じられる。 熱気と高揚感が冷めやらない。 四人は立ち尽くす。感慨深く思い、しばし余韻に浸る。 「ようやく終わりましたね。これで……」 「うん、そうだな。長かったような、短かったような」 「よかったな、本当に」 やりきったという達成感と充実感。 ひと月にも及ぶ重臣らの反乱が終わり、グロウも戻ってきた。 後始末やらなんやら、これからやることは山積みだが、ひとまず区切りがつき、これからようやく始まるという気がする。 そこでグロウはリヴェラに向き直ると跪き、サッと臣下の礼をとる。 「この度はおめでとうございます。殿下いや、もう陛下とお呼びすべきですね。謹んでお祝い申し上げます」 普段、厳格な教師が取った慇懃な態度。 突然の出来事に戸惑うライラとサフに対し、リヴェラはいつもの王子らしく毅然とした態度のままでいる。 「やめてくれ、そういうセリフは戴冠式まで取っておいてくれ」 「_______________御意」 リヴェラの一言に、グロウがひときわ嬉しそうに笑った。 いままでリヴェラたちに寄り添い誠心誠意尽くしてくれた、なくてはならない存在。 教育係にだけしておくのは惜しい有能な人材なので、グロウを宰相に任命した。 グロウは快く引き受け、力の限り尽くすと忠誠を誓った。 その一か月後、リヴェラは即位した。寺院にて王位継承が行われる。 厳かな式だった。参列者が居並ぶ中、大聖堂に祝福の鐘が鳴り響く。 「謹んで、お受けいたします」 法王により王冠を賜り、冠を頭上に戴き、恭しく礼をとる。 ここに新たなアズカヴァルの王が誕生した。 これからが新しい時代の幕開け、そしてこれからが正念場。 覚悟を据え、リヴェラは心のうちで祈った。 願わくば、我に祝福を。世に平安を。民に多幸を。 ________________我が国の繁栄のあらんことを。

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