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第16話
眼が眩むほどの閃光。放出する光は、まるで巨大な噴水のよう。
発生源はここだ。
巨大な円形に複雑な紋様が描かれた図形がある_________________魔法陣の中央。
召喚された茶色の短髪にチェックのネルシャツにデニムといういでたちの青年は尻餅をついた姿勢のまま固まっていた。
休日で本屋にでも行こうとしたらこうだ。
有無も言わさぬ呈で突然のアクシデントに見舞われた。
________________は?どこだ、ここは?
ここはおそらく日本ではなく外国のようだ。
どこかの西洋風の大きなお城が背景に聳え立つ。どこまでも見渡せる広大な庭園。
錫杖を持つ神官や王様、臣下、騎士たちが勢揃いで自分をとり囲んでいる。
何だか異世界を設定したアニメやゲームの世界みたいだ。
コスプレか?
「やっと成功いたしました!伝説の救世主である聖女を召喚しました!」
やったーと万歳三唱する人々は沸き立つ。
召喚の儀式は大々的に行われる。莫大な費用が投資され、国の未来がかかってる。
王をはじめ国の要人が数多集結している。
「聖女様。______________ようこそ、我が国アズカヴァルへ」
司教冠と白い祭服を身に纏っている壮年の司祭が両手を拡げ、歓迎する。
______________聖女様と呼ばれているのか?俺が聖女様だって?
召喚された青年は当惑する。状況が、まだよく呑み込めない。
聖女の召喚に成功して、熱に呑みこまれたように歓喜する。周囲は興奮の渦の中だ。
その日、アズカヴァルでは大大大一大イベントが開催されていた。
歓声に湧き、浮き立つ周囲とはよそに、この人物だけは冷静でいつもの態度を崩さなかった。
本日の主役と云えば聖女ともうひとり………。
「聖女が男っておかしいだろ。なぜ毎回男なんだ。女子がいいって云っているよな」
「はい、その件に関しては聖女としての力があれば、男子でも差支えないですよ。何より丈夫で体力があるから男子の方が好都合ではありませんか?」
黒髪の短髪に黄金色の睛を有する十八歳の若きアズカヴァルの国王。
リヴェラはわかりやすく正装していた。
本人は気が進まないながらも儀式だから仕方ないと説得されて王冠にマントを纏い、手には王錫を持っていた。
王錫は分かりやすく王だと、位と権力を誇示するための物である。
今日もムスリと仏頂面をしていて、すごぶる機嫌が悪い。
リヴェラは司祭に苛立ちながらつっかかる。
「貴様、本気で云っているのか!」
「ええ、本気ですとも」
司祭はこっそり耳打ちする。
「他国では往々にして国を救ってくれる聖女はお妃候補とセットに挙げられます。いかがですか?」
「そんな会ったこともない奴と誰が結婚したがるんだよ。こいつだって嫌だろう!?」
が、聖女と呼ばれた青年はじっとこちらを窺い、熱い視線を注いでいる。
リヴェラはぎょっとした。
______________あ、嫌じゃないのか!?
聖女、いや青年は聞き耳を立てる。向こうで何やらモメている様子だ。
なになに、聖女と王様を結婚させたい?
孤独な王が、または王子が異世界から来た乙女に心を開き、惹かれてゆく。
よくある話(ルート)だ。いいじゃないか。一世一代の芝居を打とう。
聖女によくある話といえば、ああそうだ!と思い立つ。
人生詰んでます。お先真っ暗が定番だ。できるだけ深刻そうな顔をしろ。
同情心や庇護力を利用して心を掴め。
「継母や義理の姉に虐げられているんです。知らないうちに悪役令嬢と呼ばれているんです。
その上ブラック企業に勤めてました。前世の記憶もあります。ついでに婚約者からは婚約破棄されてしまいました」
思いつく限りの異世界あるあるを並べてみた。云っていることがめちゃくちゃだ。
乙女ゲームのヒロインといえば儚げなシンデレラ的な食の細い、または満足に与えられなかったという設定が定石だ。
それなのに彼の普段の食生活といったら____________
一、 二限目に購買パンと家の弁当で早弁して、昼は学食で二人前平らげる。身体の半分以上は胃袋かと思えるほどの食欲。間食にスナック菓子一袋。
部活帰りはラーメン、丼もの。家に帰って夕飯もちゃんと食う。
……以上のことを踏まえれば、一般的な聖女像とは相反することがよく分かる。
とにかく食欲旺盛な成長期の男子には無理がありすぎる虚偽の設定なのだ。
小鳥のエサ程度(アサイーボウル)ぐらいしか食わないような、か弱い女子と何を張り合えと云うのだ。
「お前、何を云っているんだ……?」
聖女があまりにも滅茶苦茶なことを云うので理解に苦しみ、リヴェラは眉をひそめた。
「云っていることがちぐはぐだ。もしかして頭でも打ったのか?」
「……いや。打ってないし、ヘンでしょうか俺っ?」
「ヘンだろうが、どう見ても……」
リヴェラは渋い表情を浮かべた。
同情させたい攻撃はどうやらあまり効いていないようだ。そうだ、これはどうだろう。
私、元の世界に帰りたいんですっ。一刻も早く元の世界に戻してください!!
って懇願するんだ。
すると、「えっ、なぜ?」となるはずだ。
予想外の言動で相手を振り回せば、興味を持つに違いない。
よしっ。これでいこう。
「あのっ、元の世界に帰りたいんですっ」
「手続きして早く帰ってもらえ。何かの手違いで呼ばれたんだろ。すまないな」
と、早々に帰そうとする。
「え、こんなはずじゃ。いやだ……帰りたくない」
「今、帰りたいって云ったろ!」
さっきから聖女のちぐはぐな言動に苛々するリヴェラ。
作戦はことごとく上手くいかない。そうだよなー・こんなデタラメ通用しないよなー。
思いながら「やっぱし無理か」と、ぼそっと聖女が呟くとリヴェラの耳に届いてしまう。
「何が無理なんだ。お前さっきから訳の分からんことをごちゃごちゃと!」
やばい、激ギレしている。
「まぁまぁ、落ち着いてください」
リヴェラが機嫌を損ねるたびに横から司祭がやってきてフォーローする。
「聖女様は混乱されておられるだけだと思いますよ。どうぞ、お手柔らかに」
「どうだか。なかなか肝が据わってそうな奴だけどなー」
じろりと、聖女の方を睨みながら嫌味を漏らしつつ、リヴェラが嘆息する。
「あ、あの。なんか、ごめんな……!」
なぜか聖女は謝ってしまう。空回りしてしょうがない。
____________う……ん、どうしたらいいんだろう、俺は?
リヴェラは不遜な態度で腕組しながら、ふーん、と聖女のいでたちを
頭のてっぺんから爪先までジロジロと値踏みするように眺める。
______________どう見ても男だよな……。
それに着ている物から見て、おそらく平民。
アズカヴァルでも近隣諸国でも見ないデザインのものだ。
こんな服を着ている奴はいなかった。
大陸全体でもいなさそうだ。というと、やっぱり異世界の人間なんだろうか……?
「そうだ、お前、名を何という?」
「葵 です」とおずおずと聖女は答える。聖女、いや青年なんだけど。
気が付けばここへ来て、だいぶ時間が経ってからやっと名前を聞かれたのだった。
「あの、きみ……じゃなかった。あなたの名前は?」
「リヴェラ・ライト・アズカヴァルだ。アズカヴァルの国王だ」
さっきから偉そうにしているから、そうだろうと思っていたけど、本人の口から聞かされると自分と同じくらいの年齢の子がなぁ、と実感させられる。
黒髪に黄金色の睛。黄金色の眼はめずらしくて人目を惹く。
これぞ、ファンタジーにありがちな孤高の王様のといった容貌だろう。
身に纏っているものだって王冠にマント。あつらえられた上等な衣服。
ぱっと見ただけで分かる。かなり身分の高い人物だろうと。
と。ふと、葵はリヴェラの手に持っていた王錫に眼が止まる。
「あ、これ。コンサートやライブのときに振るスティックにちょうどいいや。貸して」
王錫を奪い取ると、リヴェラはあっけにとられた顔をしていた。
「でっかい飴玉みたいのが嵌っている。ずいぶんとデコ使用だな。どこにスイッチがあるんだろ。あれっ。あれっ」
それらしきボタンを探しながらカチカチ押していると、そこで近衛騎士であるオレンジ色の髪をしたサフに涙目で、奪い返される。
「やめて下さい。おもちゃでもお菓子でもないです。壊れてしまいますっ……!」
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