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第17話

王錫の杖の持ち手がエナメル細工。 トップには王冠を象り、大粒のイエローダイヤが埋め込まれている。 無色透明なダイヤと比べると価値は劣るが、とてつもなく高額であることには変わりがない。 「モノの価値が分からないと恐ろしいことになるな」 サフの幼馴染である、同じく近衛騎士のライラが呆れてそう漏らす。 「あ、ごめんな。俺そういうのわけわかんなくて」 あたふたする葵を見兼ねて、また司祭が飛んできて助け船を出す。 「これではなく、聖女様には私供も持つ錫杖を使いこなしていただくことになります」 王の王錫を拝借したにもかかわらず、咎めない。 司祭は聖女という立場の人間にはあくまで尊重し、丁重に接する。 「えっ、でも俺できませんよ、そんなこと」 「できますよ。いずれ」 にっこり笑って断言する。どこにそんな根拠があるのやら。 「そうだ、魔法陣って誰が書いたの?」 「飛び抜けて強い術者がいるというわけではございません。伝承されている図形を神官五人が力を合わせて再現したものなのです」 「ふーん。どうやって、リレー形式?全員同時に?」 「面白いことを仰いますな。魔力を篭めながら神官五人がいっせいに杖を使い、地面に直に図形や文字を描くのです。効力があれば、それらが光を帯びながら力を増し続け魔方陣が完成します。_________________そして、最後に呪文を詠唱したのは私です」 そうか、よく見る漫画や小説ではひとりでやってるイメージあったけど、そんなに大人数でやるものなんだな。 ひょっとして五人でやっと一人前ってことなのか。 なんか思ったけど、色々な意味で大丈夫なんだろうか。 国が危機的状況に瀕しているときに救世主として召喚されるのが聖女なんだそうだ。 ということは、俺はこの国を救わなくちゃならない? 何かすっごい期待されているみたいだし、それってやっばいんじゃないのか。 あーあ。せっかく異世界に来たんだから、街に行きたいって云ったらダメだって断られた。 俺が逃亡するとでも思ったんだろうか。まぁ、またの機会にしよう。 大勢の人間を従えるようにして移動する。 大名行列とはこのことだろうか。ぞろぞろと廻廊を練り歩き、先を行く。 王宮内の長い廻廊。石造りの支柱。 天井が高く吹き抜けになっていて、歴史的建造物だといわれていた大学のオープンキャンパスで見たものとは比べものにもならないくらい荘厳な造りだ。 きょろきょろと辺りを見回しながら葵は議会室へと連れて行かれた。 よくテレビで見るような国会中継のように半円形に座席が並ぶ。 王宮のいかにもお偉方の面構えをした重臣らが揃う。 とりあえずは説明会みたいなものか。 協議がはじまる。テーマはこの国の行く末のこと。 この世界に来たばかりの右も左も分からないひよっこを連れてきて、何しようてんだ。 葵はといえば、借りてきた猫のようにおとなしく座っているだけ。 具体的にさっぱり分からない。右から左へ会話を聞き流すだけ。 それが終わると、聖女である葵にアズカヴァルの国のことを詳しく教えるために講義が開始される。 アズアヴァル国の歴史からはじまり、歴代の王の偉業とつづく。 重要な人物は……ヴァイス・ヴァン・アズカヴァルがどうのこうのって云ってたなぁ。 ヴァンヴァンうっせぇ名前だなぁ。あの王様の父さんか。偉い人だったらしい。 とにかく戦場では負け知らずの英雄だったとかでもてはやされたらしい。 元々戦争で領土を拡大してきた大国だったそうだが、今は平和な世の中になってしまって 産業に強くなかったら無意味になって生き残れないとかなんとかで、アズカヴァル国は国力が低下しているのだ。 なんだ、昔の栄光が忘れられずに弱小国に成り下がったっていうことか。 う~ん、どうしたものか。 せっかくこの国に召喚されたんだ。 何とかしてやりたいって思うけど、自分にもできることはないだろうか。 そうだ、スマホで検索してみよう。 『いい国にする 方法』 なになに、治安がいいこと。経済的に豊かであること。平等であること。 個人の意識をちゃんと持つ。政治的に安定していること。環境が整っていることなどと様々なことが書いてあったけど、なんだか難しすぎてよくわからない。 そうだ、日本国憲法の三原則みたいなモノかぁ。 具体的に何をしたらいいか分からない。さて、と考え込む。 そうだ原始的だけど、『知恵袋』に相談しよう。 はじめまして質問します。俺は突然異世界に召喚されてしまい、聖女になってしまいました。 俺を呼び寄せた国は昔戦争で強かった大国ですが、今はパッとせず国力が低下した国を救うにはどうすればいいでしょうか? >王様に任せておけばよくないですか? >聖女って祈っているだけで何とかなりそう。 >もう一度戦争をしてみては? 等(など)の参考にはなりそうにないものばかりだが、こんな馬鹿げた質問にも付き合ってくれてありがたい限りだ。 (いや、事実だし、大真面目なんだけど) あ、ナントカっていう人口機能に聞けばよかったか? でも、それだと複数の意見が取り入れられない。 変な意地だけど、あれには極力頼りたくない。 机の下からスマホをいじり、ポチポチやっていると声が掛かる。 「聖女様、これは何ですか?」 _______ああ、やべぇ、見つかった。 「見たこともない、こんな物は。異世界の物は変わっておられますね」 怒られるかなと思ったら、そうではなく興味を持って近づいてきたのだった。 「スマホいや、スマートフォンだよ。電話するやつ」 「電話?何ですかそれは?」 「ああ、分かんないか。遠くにいる人間同士がコレ持っていると会話できるんだよ」 「へぇえ~」 関心はあるけれど、まだ半信半疑のようだ。 「いろいろできるんだよ。電話の他に動画見たり、音楽聞いたり、漫画見たり、ゲームしたり、検索でいろいろ調べたり……辞書みたいなモンだな」 「辞書、こんな薄っぺらい板のようなものが?」 「膨大なデーターが内蔵されていて、できるようになっているんだよ」 「へぇー凄いですね」と食いついていた。「万能じゃないですか」 めずらしい物を持っていると、わらわらと周囲の人間たちが寄ってきて、囲みはじめる。 端末を操作して動画や音楽を流すとひときわ驚き、声を上げる。 「魔法か奇術の類でしょうか。どういう仕組みでこのようなことができるのでしょうか?」 「めずらしい物でも何でもないよ。ごく当たり前のことだよ。ひとり一台必ず持っているモンだし」 「えええええ_____________________________本当でしょうか、それは」 「そんなに珍しくて、高額なものが!家一軒買える代物でしょうに、庶民に手が届くのでしょうか!?」 すごい高度な文明を築いていると口々に騒ぎ始め、手放しで感嘆する。 何をそこまで、と。葵は、ちょっと引いてしまう。 まぁ、これを造った人たちは相当な頭脳明晰だろうけれど、これを持って使っている人間が知能が高いかと訊かれれば、そうでもないが。「まぁ、たいしたことないよ」と云っておいた。 その後のコースとしては、聖女様のお顔が見れるだけで騎士たちの士気が高まりますからと案内されて鍛錬場に行って、よく分からん顔見せに連れ出され、教会・寺院と各所に挨拶回り。 ありがちな黒い瘴気が出ているという処(スポット)に連れて行かれ、よく分からんモンスターと戦ってほしいと無茶ぶりを云われ、お約束にしては出来過ぎな聖女あるあるに付き合わされる。 とにかく聖女という仕事は浄化や場の空気を整えるのが基本で、回復魔法、癒しの力などの特別な能力を持っているのだそうだ。 その場にいるだけで清浄化してしまう存在なのだそうだ。 いまだかつて癒し系と呼ばれることのなかった俺が、そんな大層なモノだったなんて。 ……空気清浄機のようなモノか?

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