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19. 聖女がやってきた!! 4
「まどろっこしいことはなしで、どうすればきみと付き合えるか。どうしたらきみとキスできるか、その先のこともって、そんなことばっかり考えている」
「出逢ったばかりなのにこんな戯言を云う。どうかしている、お前は」
「うん、俺もそう思う」
にこっと葵が笑う。
どこか憎めないような愛嬌があって、リヴェラは怒る気も失せる。
____________親睦を深め、相手を知れば愛も育ちましょう。
宰相のグロウや司祭がよく云っている言葉だ。
それしかないだろうと、まず思う。性急すぎるのだ。
「もっと時間が経てば相手の事を知って好きになるとか、そんな保証はないよね」
「何が云いたい?」
「好きだと思った時に、相手も好きになってくれたらいいなって思う。早いも遅いもないよ」
「強引な理論だな。馬鹿々々しい」
リヴェラは呆れつつ、ふっと視線を逸らす。
葵はその視線を追いかけてまっすぐな眼差しで伝える。
「きみが好きだ。本気で好きなんだ。きみが欲しい」
告白すると、あろうことかそのままリヴェラに口づけしようとしてきた。
眼を閉じた葵の顔が間近に近づいてくる。
「わっ、わわっ、いい加減にしろ!」
慌ててリヴェラは両手で葵の口を遮りながらガードする。
絆されてはいけない。
そう自分に云い聞かせながらきっぱりと云い切る。
「待て、俺の気持ちを蔑ろにするな。俺はお前のことを何とも思っていない!」
「うーん、そうだよね。いきなりなのが嫌なのかな?」
こいつは俺の云っていることなんか聞いちゃいない。
リヴェラは溜息をつく。
「そういうことじゃないだろ。俺が云いたいのは……」
段階を踏めって云っているんだよ。とリヴェラは内心思ったが、いらぬ刺激をしてしまいそうで、それすらも伝えることは危ういという気がして憚 られる。
「……なに、どうしたの?」
「いや、なんでもない……」
急にリヴェラが押し黙る。
しばらく苦い顔をしていると、葵が明るい調子で訊ねてくる。
「じゃあ、俺にチャンスをくれないか。例えばゲームで勝ったらキスしてくれるとか。何か勝負して勝ったら云う事聞いてくれるとか。あ、きみの得意な物なら何でもいいよ」
「剣か魔法だな」
葵の提案に思わずリヴェラが、ぼそっと呟いてしまう。
しまったと思ったときにはもう遅かった。
「そう?剣か魔法かどっちかっていったら、俺は魔法の方ができそうな気がする。魔法で勝ったら俺の云うことを何でも聞いてよ」
「勝てるわけないだろ、俺に」
「そんなのやってみないとわからないだろ、俺と戦うのが嫌なの?きみ強いんだよね?」
挑発されている気がする。だが、この挑発に乗ってはならない。
絶対に後で面倒なことに巻き込まれてしまう。
また嫌な、最悪な展開があるかもしれないから、用心しておいた方がいいに越したことはない。
「お前とは戦わない。絶対に……」
「なんで?自信があるんだよね。負けるのが恐いの、俺に?」
じりじりとにじり寄るように葵が迫る。
圧がすごいと、リヴェラが思わず、たじろぐ。
「そんなわけないだろ……誰がお前なんかに!」
「じゃあ、決まりだね」
にっこりと葵が微笑む。しまった!と思ったがもう遅い。
ああ、もう引き返せない。そんな空気になってしまっていた。
「ああもう分かったよ!」
半ば、やけくそ気味に叫ぶ。
「決闘すればいいんだろ!戦ってやるよ、お前と。勝ったら何でも好きにしてやるよ」
「いいんだね。やったー。ありがとう」
「ありがとうって、勝ったつもりでいるのかよ。絶対に俺が勝つんだからな」
「うん、分かっているよ」
思わず誘いに乗ってしまった。要は勝てばいいんだ。俺が勝つんだから問題ない。
リヴェラは自分に無理矢理そう云い聞かせる。
このパターン以前にあったよなと思いつつも、のぼせあがった頭のこいつにはこのくらい厳しく現実を突きつけてやった方がいい。そう思った。
「うわっ、待って!」
戦いを挑んだものの全くのノープランだった。
城の庭園にて決闘が始まって、すぐに葵は窮地に立たされていた。
リヴェラの放った閃光を避けながら葵は思い出す。
「あっそうだ、俺って魔法使えないんだっけ。いっけねー」
何て楽天的なんだろう。
うっかりどころではない初歩的な失念に気付かず、戦いを挑んでいたとは。
「えっと、どーすればいいんだろ、コレ」
完全に詰んだ。でも何とかしなければいけないと焦る。
そこで、見兼ねて司祭がやってきて聖具を差し出す。
ずっしりとした金属の重量が感じられ、シャラシャラと音が鳴る。
「錫杖をお貸ししましょう。前の使ってた持ち主の魔力が残っています。これがあれば魔法の使えない人間でも多少は使えるハズです」
「サンキュー、助かる」
司祭の援護に感謝しつつ、錫杖を振る。
「わっ、何か出た!すっげー」
微力だが、カセットガスの残りガス程度の魔法が噴き出て感動する。
何度も試しにやって、どんどん強くなっていくが、まだまだだ。
リヴェラと対等に戦えそうな威力は到底ない。
なんかここで、かっこいい呪文とか唱えればいいのかな。
「よしっ、『旋風 の嘶 き』……!」
さっきよりも強い威力が放出する。だが……。
思い切って恥ずかしい名前をつけた技だったのに、リヴェラの片手であっさりと跳ね返されてしまう。
ぐっわっ、と放たれた光の球でダメージを食らい、葵は悶絶した。
吹き飛ばされそうになって、錫を掴みながら地面に突き立てて必死で踏ん張る。
ぐぐぐ、と押されるような感覚に必死で耐えながら、何とか持ち堪える。
「容赦ねぇな。ちょっとは手加減してくれてもよさそうなモンなのになー」
「馬鹿か。こっちだって真剣にやってんだよ」
「ああ、負けたら云うことを何でも聞いてくれるって約束したからか。うん分かった」
仕方がない。いざとなったときに泣き落としは通用しそうにないだろうな。
気合を入れて頑張ってみるか。
まだまだこれからだと錫杖を大きく振るってみる。シャラシャラと心地の良い音が鳴り響く。
よし、今度はうまくいきそうな気がする。
リヴェラに向けて錫杖を振りかざすと、すぐに反撃される。
「やっぱしダメか。いけると思ったんだけどなー」
でも、すかさず気分を切り替え戦う。
悪戦苦闘しながら、楽しい!と心の底から思える。
生き生きと睛を耀かせながら葵が奮闘する姿を見て、司祭は満足そうに微笑む。
あれは魔法の使えない人間でも使える錫杖だと云ったが、誰でも使いこなせないシロモノなのだ。ある特別な存在を除いては。
やはりあのお方は聖女様だと確信して安堵する。
それに、限りない伸びしろを感じる。これからの成長が楽しみだ。
手当たり次第というように錫杖を振り回し、攻撃をしかける。戦い方がズブの素人だ。
ろくにダメージを与えられるほどの攻撃力もないくせに、転んでも転んでも起き上がるしぶとさがあった。
リヴェラはモタモタ時間を掛けることは好きではないので、一撃で決着をつけることにする。
カッと掌から閃光を放ち、葵は吹き飛ばされる。
派手に衝撃を食らって、バタリと地面にその身を打ち付けた。
これでようやく終わった。
力の差は歴然で、最初から勝負にならなかった。まぁ当然か。
さて。と、埃を落とすようにパンパンと手を払う。
「おーい、大丈夫か」
リヴェラが間延びした声で呼びかけると、むくり、と葵はすぐに起き上がる。
手加減してやったこともあり、葵に大きな怪我もなく、泥にまみれる程度で済んだ。
「やっぱりかなわないや。きみは強い」
笑顔で負ける奴には碌な奴はいない。リヴェラの経験から導き出した法則だ。
● ● ●
「聖女様、もう帰ってしまわれるのですね……」
「うん、ちょっと野暮用があってね」
突然のことだったが、葵はすぐに向こうの世界に帰省してしまうことになった。
まだ二日しか経っていないので、そのまま残っている魔法陣がまだ効力があるという。
すぐに元の世界に戻すことも可能だと云われた。
来たときと同じように召喚の儀が行われたメンバーが勢揃いし、盛大に送還式が行われる。
王城の広大な庭園に巨大な円形の魔法陣が記されている。
神官たちが呪文を唱え、すさまじい光源が浮かび上がる。
「明日学校だから帰らなきゃな。中間テストもあるし、みんなありがとう」
どうしても帰らなければならない。
学生の身でテストを受けなかったら追試とか、補習とか、最悪親が学校に呼び出されるかもしれない。
「あと半年で卒業だから、ちゃんと単位取らなきゃな。じゃあな」
みうみるうちに魔法陣の光が増し、いっそう強くなってゆく。
そうやって、別れが訪れる。突然に。
あっさりとしたものだった。
必ず戻ってくると云い残し、見送りに来た王城の人々に手を振りながら葵は魔法陣の光の渦へと消えて行った。
土日の休みはすぐに過ぎ去る。たった二日間の滞在だった。
「あーあ、行ってしまわれましたねー」
王の両隣に近衛騎士のふたりがついている。
残念そうにサフが云うとリヴェラは呆れ果てていた。
「何しに来たんだよ、あいつは」
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