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20. 聖女がやってきた!! 5

異世界から現代の日本に葵は戻された。 明日は中間テストがある。自宅の勉強机でテスト勉強の最中。 アズカヴァルでのことを思い出して、物思いに耽っていた。 二日間の出来事はまるで夢のようだった。本当に夢だったのかもしれない。 ぼーっとしてしまい、勉強にも身が入らない。 異世界転移かぁ。 俺のやっているスマホゲームの世界にそっくりだな。 世界観といい、キャラクターといい、なにもかもが。 バトルをやって課金すれば、するだけ強くなって_____________ってことは!! _________________いいことを思いついた!! 課金すればいいんだ。なぜ気付かなかったんだろう。 クレジットカード決済。だめだ、十八歳以上だけど学生の身では今はまだカードが作れない。 キャリア決済。だめだ、親が月々のスマホ代を払っているから。 ゲームで課金したってバレたら殺されかねない。 プリペイドカード決済。これだ……! テストが終わってから速攻コンビニエンスストアでギフトカードを買ってすぐに課金した。 これで大丈夫だ。 一週間後。葵は意気揚々とアズカヴァルに帰ってきた。 前に来たときと同じ服装、チェックのネルシャツとデニムのいでたちだった。 近所のコンビニエンスストアに行くように、ついそこまで立ち寄ったというような気軽さだ。 王城の庭園にて。召喚魔法の儀式も何もなく、葵自身の能力によってアズカヴァルに舞い戻ったことに誰も彼もが驚いていた。 「おい、お前、どうやってここに来た!?」 「なんかさー、戻りたいって強く念じたら自然にさぁ、できるようになったんだよ」 「なんだよそれ……」 あんなに大勢の者が苦労して召喚に関わったというのに、それが自力で? 只者ではない。やっぱり、コイツは聖女だったんだ。 リヴェラは認めたくはないが事実を噛み締める。 葵は相変わらずへらへらとしながら問い掛ける。 「俺のいない間、何か変わった事とかないか?」 「まだ一週間しか経っていないんだぞ、あるわけないだろ」 「一週間?あれっ、そんなハズはないんだけど……」 指を折りながら計算してみるが、合わないというように葵は首を傾げる。 どうも腑に落ちないらしい。 しばらく考え込んで、まぁいいかと、あっさり思考を変える。 「それよりさー俺がいなくて寂しかったんじゃない?」 「何寝ぼけたことを云っている。たった一週間前だろ」 それに、お前の事なんて何とも思っていないと、リヴェラが云おうとすると 「俺もずっとリヴェラのことを考えていた」 その人懐っこい顔で、ずいっと迫るように葵はリヴェラに接近する。 一瞬、リヴェラは気圧されるように後退った。やっぱり慣れない、この距離感には。 「誰が、お前のことなんか……」 リヴェラが呟くと、葵はその人好きする顔で苦笑する。 「なんだ違うのか、でもいいや」と開き直ってから。すぐに気持ちを切り替える。 「____________リヴェラ、俺と対戦してくれ」 「この前、やって負けただろ。何度やっても同じだ。諦めろ」 「いいから、闘ってくれよ。今度は負けねぇからさ」 やけに自信満々で、「今度こそは勝てる」と言い張る。 えらく調子がいい奴だ。いつもそうだけど。 帰って来て早々、またしつこい奴だ。 このままつっぱねて断っていたとしてもしつこくて埒が明かないと踏んで 「しようがないな。受けてはやるけど、闘って負けたら今度こそ諦めろ」 「うん、わかった」 へらっと葵が笑う。 __________云ってみるモンだな、やっぱり。 根負けして渋々承知してくれた。リヴェラは押しに弱いのかもしれない。 勝てる。今回こそは絶対に勝てる。かつてないほどの自信が漲ってくる。 根拠のない自信ではなく、なぜならとっておきのアイテムがあるからだ。 リヴェラは仏頂面で佇む。葵の秘策などには気付かずに。 ああ早く、試したい、と葵はウズウズしていた。 戦いはすぐに開始された。 「じゃあ、いくよ」 そう云うと葵の掌から蒼い炎が吹き上がり、勢いよく迸る。 眼の醒めるような鮮やかな色彩を放つそれは、まるで生き物のように蠢き、リヴェラを攻撃する。 こいつ魔法が使えるのか、と驚く。 一週間前まで錫杖を借りてやっとのことで戦っていたのに、いつの間にこんなに高度な攻撃魔法を使えるようになった!? 慌ててリヴェラは掌から光の球を放出した。攻撃が一歩遅れてしまう。 まずい、油断していた。 ごうごうと燃え盛る蒼い炎はリヴェラの放った光球を呑みこみ、さらにリヴェラ自身も覆い尽くそうとしていた。 そのとてつもない力に圧倒される。 衣服や肌を直接焼くわけではないが、灼熱の炎で焼き尽くされるような熱さとピリピリとした痛みが襲う。眼をぎゅっと閉じて、苦悶するリヴェラを見て多少は良心が揺らぐのだが。 「う~ん、さすがに丸焼けになるのはかわいそうだから、これならどうだ!」 炎を蹴散らすように、自ら放った魔法を相殺するように葵は新たな魔法を放った。 「まだ、こっちの方がいいよね」 突風が吹き荒れ、リヴェラを纏っていた炎は搔き消される。 その代わりに、炎の熱さからは解放されたが、今度は風圧攻めだ。 「……わわっ!」 髪や衣服が強風に煽られる。 リヴェラは吹き飛ばされないようにバリアを張って、持ち堪える。 力の加減を知らない葵は思うがままに風を操る。 どちらにしろリヴェラにとっては厳しい状況には変わりがない。 _____________なんだこれ、全く歯が立たない……! さらには強い風が巻き起こり、リヴェラは地面に頽れる。 ろくに攻撃もできないまま、リヴェラは敗北した。 まるで別人かと思うほどの変わりようだ。たった一週間で何がそうさせたのだろうか。 「やった、勝った!!」 喜びをあらわに葵はガッツポーズをする。 リヴェラは、といえば。よろよろと、やっとのことで起き上がり、ショックにうち震える。 _____________そんな馬鹿な。俺が負けた。こいつに!? 信じられない思いでリヴェラは呆然と立ち尽くす。 それとは対照的に、両手を挙げてやった、やったと浮かれて喜び続ける葵。 「お前、何をした?どうやって急に強くなった?」 「へへっ、ゲームで課金したんだ」 スマホの画面を見せる。 課金した魔法のアイテムは蒼炎の魔法と疾風の幻術。 プレミアだから、しめて三千円。高価だな。いや、安いもんか。勝てたんだから。 「えっ、ええっ、これが。どうやって、魔法を買う?買ったのか?」 驚きで口をぱくぱくと開けながらリヴェラは現実を受け入れらずにいる。 「武器とか装備とか何でも揃うし、購入可能なんだ」 「ええええええ______________________________」 こんなよく分からん画面を見せられ、挙句に自分の貞操の値段は三千円なのだと知らされる。 この驚きは言葉では云い表せなかった。 「あー、でも俺。『聖女』って云われるよりも『勇者』って呼ばれたかったなー」 知るか!と思うくらい、どーでもいいことを云われる。 「いつかこの世界を冒険するのもいいかもなー」 葵は夢を語りながら遠くを見つめる。 彼は生粋のファンタジー好き、ゲーム好きだった。 「パーティーを組んで仲間たちと冒険に行くのもいいし、ひとりで旅するのもいいと思うんだよなー。とにかく広い世界を見てみたいんだ」 夢は広がる。 完全にひとりの世界に浸ってから、しばらくして。 自分の置かれている立場を熟知しながら溜息をつきつつ、リヴェラに視線を戻す。 「と、その前に俺は俺の役割を果たさなくちゃならないのかなー」 ____________な、なんだこいつは急に。 葵と眼が合ってハッとする。本能が察知する。 やばい。逃げるのなら今だったかもしれない。リヴェラがそう思ったときはもう遅かった。 「じゃあ、行こうか」 手を延ばし、リヴェラの身体を抱き寄せるとそのまま抱え込まれる。 上機嫌で浮かれ、葵はリヴェラをお姫様抱っこする。 「わ______________やめろ、下ろせ!」 うわっ、またこのパターンかと、学習能力のない自分を呪うばかりだった。 そのままリヴェラは連れ去られることとなった。 「……?」 と、そこで、少し離れた場所からその場面を見ていた人物がいた。 ちょうどその場に通りかかったシファが、首を傾げる。 実は、シファは異世界から聖女を召喚したことを知らない。 その一連の事情も去ることながら。 聖女は側妃になるかもしれない存在だ。王妃になる予定のシファからの要らぬ嫉妬を避けるため隠され、遠ざけられていたからなのだった。 神官の研修やなんやと理由をつけてしばらく森に篭り、合宿をさせられていた。 そのことに何の疑問も持たずに。 シファの視線に気付かずにリヴェラを抱えた葵は有頂天になりながら王城へと向かう。 リヴェラが嫌がり、激しく抵抗を見せるのにも構わずに。

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