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26. めくるめく日々 2

______________________うわぁぁぁぁぁぁ!! 気持ちの悪い起こされ方をしてしまった。 無防備にもほどがある。と自分自身の落ち度にも嫌気がさした。 キスもそうだけど、あろうことか、あいつは寝ている俺の頬や足を髪の毛先でくすぐって遊んでいた。ぞっとする。 寝ているときにいつもあんな風に好き放題させていたのかと思うと鳥肌が止まらない。 あれからシファとものすごく喧嘩をしてしまい、ワナワナとまだ怒りが収まらない。 「朝から何てことをするんだ」と怒ると、「いつもしているからいいじゃないですか、何をそんなに怒るんですか」と、のんびり云われて、余計に腹が立ってしまって云い合いが続き、だいぶ長引いた。 ________________やばい、間に合わないかもしれない。 着替えもそこそこに遅刻しそうだと慌ててリヴェラは廻廊を駆ける。 ちょうどそこへ、オレンジ色の髪の近衛騎士のサフが通りかかる。 「あ、サフ。おはよう」 「おはよう、リヴェラ」 往来の真ん中で、ばったりと出くわした二人は並んで会話する。 「こんな時間までゆっくりとしていたなんて、めずらしいね」 「ちょっと、いろいろあって……」 リヴェラは気まずく言葉を濁す。シファのことを幼馴染ふたりには進んで話さない。 シファと喧嘩していたからだなんて口が裂けても云えない。 気恥ずかしいし、自分の醜態を晒すことにもなるからだ。 シファが姫ではなく王子であることはもう周知の事実だ。だが誰も何も云ってこない。世継ぎを設けることができれば性別なんてどっちだっていいのだろうか。 「サフこそ、どうしたんだ?こんなにゆっくりして」 「ちょっと寝坊しちゃってさ、朝ごはん食べ損ねちゃった。ははっ」 元々、小食なので朝食を抜くことはよくあることだとサフは笑い飛ばす。 リヴェラも今朝、朝食を食べ損ねた。後で何か食べておこうかと考える。 くそー、シファとの云い合いがなければ時間の余裕もあって今頃とっくに済ませていたのと、先程の苛立ちを蒸し返していた。 自然と眉が吊り上がり、リヴェラの表情が引き攣ったものになっていた。 「どうしたのリヴェラ?こわい顔をして」怪訝そうにサフに尋ねられて、リヴェラは「何でもない!!」と慌てて云い繕う。 まずい。不機嫌なことを顔に出てしまっていたし、恐がらせてしまったようだ。 あいつとの痴話喧嘩のせいだ。 幼馴染には関係のない私的な事情を持ち込まないようにしないといけない。 「でも、めずらしいよね、リヴェラ」と、サフが重ねてそう繰り返す。 「えっ、何が?」 「いつもはもっと早く執務室に着いている頃だけど、良かった。以前によく眠れないって云っていたけど、最近はよく眠れているみたいだね」 「そうだっけ?」 そういえば、以前は夜更け近くでも眠れず、もっとダラダラ起きていたような気がする。 連日、行為の後、へとへとになって気を喪っているのだけど、昨日だって疲れて爆睡してしまった。結果的に健康的な生活を送っていることになるのか、これは? 「ねぇ、リヴェラ。首のところ……」 「あっ……」 薔薇の花びらの跡のように散らされた鬱血の痕。シファにつけられた印だ。 指摘されてリヴェラは慌てて首筋を手で隠す。もう見つかってしまったけれど。 サフが察して顔を赤くした。 昔からサフはそのテの話が疎かったので、純粋で初心な反応だった。 幼馴染に知られてしまった。 きっと、こいつらヤリまくっているんだろうな。と思われているんだろうな。(そうだけど) 今度から痕付けんなって、キツく云っておかないと……。 夕べの生々しい情交の余韻というか、名残りを感じさせる_________首の痕を見られたことで微妙な空気になり、この後どうしたらいいものか。 どこか気まずさが漂う空間で、突然後方から声が掛かる。黒髪の近衛騎士であり、もうひとりの見知った幼馴染で親友であるライラの姿があった。 「あっ、リヴェラにサフ。まだこんなところにいたのか、そろそろ授業始まりそうだぜ。早く行こうぜ」 「ライラこそ、まだ執務室に着いてなかつたの?」 驚きつつ、自分だってそうだろうと指摘されながら、ライラも合流して先を急いだ。 「三人揃って遅刻しそうだな」 「だなっ?」 午后からは執務室で勉強会がある。遅れるとグロウの機嫌が悪くなるからだ。   窓から入る日差しが強く、ぽかぽか陽気で暖かい。午后の陽気に誘われるように思わずぼーっとしてしまう。頬杖をついたまま、うっつら、うっつらと船を漕ぎ始める。 執務室にて。三人は碌に身が入らず、うわの空で授業を受けていた。 「ちょっと、聞いていますか?」 肩まであるグレイの髪に銀縁の眼鏡を掛けた宰相であり、教育係であるグロウがテキストを開きながら注意すると、あっ、まずいと慌ててリヴェラたちは表情を引き締めた。 「……は、ハイ」と三人は急いで返事をする。 「三人も揃いに揃って、何ですか。最近、ちょっと弛んでいるんじゃありませんか?」 ごめんなさい、とサフは申し訳なさそうに頭を下げる。 弛んでいるのは何も最近に限ったことではないはずだ。と、ライラとリヴェラの二人は同時に同じことを思った。 「罰として、宿題を増やしましょう」 「え_______________________っっ」 「そんな殺生な」「ヤメて下さい」「それはヒド過ぎます」 三人同時に声を張り上げる。 剣の鍛練や公務で充分忙しいし、これ以上宿題を増やされては(自主)勉強ができなくなるから困りますと必死の説得が功を奏して何とかやめて貰えた。 (自主)勉強などしないだろうが、剣の鍛練や公務で忙しいことは事実のようだ。 やれやれ、とグロウは溜息をつく。 「あなた方は勉学に励める環境がどれほど貴重でありがたいものだということが分かっておられないのですね」 「だってさー、楽しくないじゃん、勉強」 「楽しいとか楽しくないとかじゃないんですよ。役に立つんですよ。いずれかは」 「えー、いつだよソレ」 駄々を捏ねるライラに云い聞かせるようにグロウは語りはじめる。 「誰にでも平等に学べるわけではないのです。教育を受けることができるのは貴族や王族の身分の高い限られた特権階級によるもの。平民だと大金持ちの商人が自分の子供に稀に教育を受けさせることはありますけど、一般に学習するには経済的にひどく困難なものなのです。__________私の場合は町の図書館に通いつめ、勉学に励んだものです」 リヴェラたちがはじめて聞くグロウ自身の過去の話だった。 「私は平民出であり、貧しい身の上でした。子供の頃から働きに出て、同じような境遇の仲間と身を寄せ合い共に暮らしました。日々、食べるためにお金を稼ぎ、必死に生きるだけで精一杯で、貧しさから抜け出すにはどうしたらいいのか考えていました」 その上……と、グロウの言葉が続く。 「自分ひとりだけではなく、仲間にも楽をさせて養って裕福な暮らしがしたい。若かりし頃はそんな夢と理想に燃えていました。そして、いずれは爵位も得たいと考え、働きながら町にある図書館に通いつめ、気付けば貴族の後ろ盾がつき、王宮勤めにまで登り詰めたのです」 グロウの転機は下級貴族の屋敷に奉公へ出ていた頃である。 庭仕事や清掃などの雑用をこなしていた彼に、空いた時間に子息の勉強を見てほしいと主人に頼み込まれたことだ。 下級貴族なので金銭的に家庭教師を雇う余裕もない。 そこで、使用人であるグロウに眼を付けた。 勤勉で図書館に通い詰めていたグロウはまだ子供だから授業料は小遣い程度で済む。 グロウは喜んでその申し出を引き受けた。 評判が評判を呼び、他の貴族からも自分の子供の勉強を見てほしいと頼まれ、自分より年上の子供にも教えるようになっていった。 そして、神童がいると噂を聞きつけた王宮の人間にスカウトされるといった具合だった。

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