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28. 制御と駆け引き

ヴァイス国王は至宝である王妃を人前に出すことを嫌った。 城の中でもその姿を見たものはわずか。 世話係の数人の侍女だけで、公務で人前に出るときでさえ影武者を立てていたくらいだ。 嫉妬深い性分なのだろうし、国王は自らの宝を独占したかったのだろう。 彼女の存在は秘密裡にされ、極めて謎に包まれていた。 生前ルルエラは殆どリヴェラと接することがなかった。 病に倒れ臥せっていたから。あるいは子供嫌いだった。などの理由があるだろうが、親子らしい接触はおろか子供の世話は乳母や世話係に任せっきりで、実の母親といえど会ったことも言葉を交わしたことも数えるほどしかない。 高貴な身分の女性は自分の手で子育てをしない。(……というけれど、それにしたって酷すぎるとルルエラはリヴェラの乳母から叱責されたらしい) そのことを寂しいと思いつつも、当然のことだとリヴェラは受け止めていた。 乳母も教育係もやさしくていい人たちだったので、殆ど会うことがない母親よりもよっぽど近しくて親しみやすくて、それこそ家族のように接していたからその気持ちは紛れた。 それに幼馴染であるライラとサフもいて、リヴェラは母親のぬくもりを知らずとも充分だった。 ● ● ● 「お帰りなさい、リヴェラ様」 「えっ、ええっ、シファ……!」 今日の仕事をすべてやり遂げて帰ってくるなり私室の扉を開けると、待ち構えていたシファに抱き上げられてリヴェラは戸惑う。 リヴェラが身軽なのか、シファに腕力があるからなのかどちらなのか分からない。 軽々とそうする。そのままベッドに直行しそうだ。 まずいぞ、これは。この流れでいくといつものパターンになってしまう。 リヴェラが焦ると、抱き上げたままキスしようとシファは顔を近づける。 その整った美貌が睫毛を伏せて接近することに、ドキドキしつつも自重しようと心に決める。 「……やめろ」 慌ててリヴェラは両手を自分の口元に当てて阻止する。 にもかかわらず、その手をずらしてシファはリヴェラに強引に口づける。 「~~~~~~~~~~~」 予想外の行動に眼をぎゅっと閉じて、リヴェラは声にならない悲鳴を上げた。 「待て!!」 急に唇を離し、リヴェラが声を上げる。 まさか拒まれるとは思っていなかったのだろう。「え?」という分かりかねない顔をシファがした。犬がそうされるようにお預けを食らい、眼を瞬かせる。 「駄目だ!!」 「え、なぜですか?」 「今日こそは云おうと思っていた。やっぱりこんな爛れた生活おかしすぎる。 来る日も来る日もお前と身体を重ねて、ズルズルのめり込んでいってどうかしているって自分でも嫌になるし、次の日に支障をきたすし、よくないと思うんだ」 一息に云って、はーはーと息を吐き出す。 連日、連夜の痴態。それこそ、わけが分からなくなるくらいの激しい情交が続き、このままいくと自分のヒトとしての尊厳が危ぶまれる。 ここで理性を留めて軌道修正をしないといけない。 いつも誘いに乗ってホイホイやっていたのに、ここに来て拒むなんてそんなに珍しいことなのか?シファは穴が空くほどリヴェラの顔をじぃっと見つめている。 「支障をきたす?むしろ逆なのではないのでしょうか」 「えっ、そんなことはないっ」 「以前は不眠症でよく眠れていないと聞いておりました。私との夜の時間を過ごすようになってからは最近はよくおやすみになられていてよかったのではないでしょうか?」 にっこりと、それこそ聖女や女神がするような善良で神々しい笑みを浮かべた。 聖職者の笑顔なんて絶対に信用しない方がいい。 何度もこいつのうさんくさい笑顔に騙されていて気付いたことだった。 確かにシファやサフの云う通り、行為後に疲れてヘトヘトになって熟睡できるようになったけれど、そんな恥ずかしいことを面と向かって云えるわけもない。 だからって、このまま素直に抱かれていろということなのか? 嫌だ、こいつの思う壺じゃないか。リヴェラは気まずく視線を逸らす。 「頼むから……しばらく、やめにしてくれないか」 「え、でもリヴェラ様は子供が十人欲しいんですよね?」 「それを云えば、いつでもヤれると思うなよ!!」 口に出すだけでも恥ずかしすぎる台詞を大声で云わなければならないこの屈辱。 __________くそー、こんなこと云いたくないのに! シファはいつになくニヤニヤしている。 「今日じゃなくてもいいだろう?」 「え、いつならいいんですか、明日ですか?明後日ですか?」 銀色の美しい色を湛えた睛が惑わすように見つめてきて、リヴェラの決心をぐらつかせる。 整い過ぎた容貌を持つゆえに、抗いがたい欲求を撥ね退けることは困難だ。 涼し気な眼差しでリヴェラの心を弄んでいるようである。 シファは自覚しているのだろうか、そのことに。 「しばらく!しばらくいいだろう。冷却期間を置こう。お互いに自由な時間を過ごして、身体を休ませて、そうすればまた新鮮な気持ちで過ごせるだろう、これから」

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