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40. 暗雲
「強さを誇示して、何になる?」
表情を硬くして、詰るようにシファが問う。どこか非難めいた響きがあった。
「争いが飛び火して人々が巻き込まれ、悲惨な道をゆく。つつましやかな人々の暮らしが脆くも壊され、必死に育てた作物も家畜も家も財産も、大切なひとさえも容易くいなくなる。そんなことはとても耐えられない」
なにゆえに急にこんなことを問うのだろうか。
なぜ俺が八つ当たりするように云われないといけないんだと、腹立たしくリヴェラは思うのだったが、実際自分も国を治める立場であるのだ。
シファにとっては俺も気に入らないそういういった君主のひとりなのかもしれない。
王位を継ぐときに散々不甲斐ないと重臣たちに罵られたのだ。
至らないことに於いては結局、変わらないのかもしれないと人知れずリヴェラは吐息をつく。
__________強さなど、何の意味もないものか……。
このときはじめてシファとの間に心の隔たりを感じた。
すれ違うということは案外切ないものだな。
強さはひとを傷つけることではなく、守るために必要になるものなのだ。
いつか分かればいい。分かるときがくるだろう、いつか……。
シファが私室に戻ると、妹たちから手紙が届いていた。
ちょうど彼女たちの事をリヴェラと話をしていたところだ。
これも虫の知らせというものなのか。
妹たちとはマメに手紙のやりとりが続いていて、久方ぶりに届いた手紙をシファは読みはじめる。
拝啓、親愛なる兄様へ。
アズカヴァルの生活には慣れましたか?
私たちは日々、巫女修行や乗馬に勤しみ楽しく暮らしているものの、兄様がいない毎日はさみしく張り合いがないものです。
久々に兄様の顔を見たいし、退屈を持て余しているので、近々そっちに行こうと思います。
そろそろ攻め込んでいくつもり(笑)、と締めくくってあった。
ふっ、と思わずシファは吹き出しそうになるのを堪えた。
仲のいい妹のことを思わない日はない。嬉しい報せに心が躍る。
楽しみだな、とシファは心待ちにする。
もうすぐ嵐が到来する。そんな予感がしてくる。
喜ばしいこともあれば、水面下で物事が進行してあちこちで不穏な風向きもある。
その日の夕焼けはまるで燃えるように赤い空だった。赤は血の色や戦火を連想させるから、
空が紅く染まればそれは破滅による序曲だと、とある吟遊詩人が謡った。
四姉妹に云わせてみれば「ダレだよ、ソレ。名を名乗れよ」ということだった。
彼女たちは匿名性を嫌う。吟遊詩人は有名な歌い手もいたが詠み人の知らない歌もたくさん存在する。
存在そのものが根も葉もない無責任な噂の類と同じようなモノで、「あんなものに踊らされるなんてどうかしているよー」と、姉妹は情緒もへったくれもないことをよく云っていた。
あるところでは、とある男たちが風に乗って聞きつけた噂話に花を咲かせていた。
賑やかな酒場で、酒のつまみに仕入れた話で一息つく。
________________どうやら近々、リゼルハイドのマールテン国王が退位するらしい。
________________なに、本当か?
__________________それでは誰が王位を継承するんだ。姫が四人いたそうだが……。
_________________ああ、それが。四人いっぺんに即位するらしい!
__________________ええええええええええっっ!!
それは随分奇特な展開になりそうだ。
ときとして強すぎる光は濃い影を生み出すことがある。
暗雲が立ち込め、波乱の幕開けはすぐそこまで来ていた。
● ● ●
アズカヴァルとリゼルハイドの国境付近にアズカヴァルの軍の駐屯地がある。
だだっ広い見渡す限りの草原の僻地。天幕を張り、国の様子を窺う監査員が在中している。
ある朝、ただならぬ気配を感じた監査員が不審に思い、眼を凝らす。
リゼルハイドの国境より、蹄の音がけたたましく聞こえてくる。
土埃を立てて、群れが近づいてくる。
馬が百……二百……いや、もっといる。
数え切れないほどの大群がアズカヴァルへと押し寄せてくる。
荒野に夥しい数の馬の大群に埋め尽くされる。
なんだこれは……まさかこれは、奇襲か!?
「た、大変だ!!」
血相を変え、大慌てで指揮官に報告に向かおうと走り出す。
事態を察し、大急ぎで駆けゆく。
とんでもない事態に遭遇している。ともすれば、歴史的な一大場面に立ち合おうとしているその瞬間かもしれない。ありえないことが起ころうとしている。これから。
ドクドクと動悸が止まない。
__________________もしかして、リゼルハイドは我が国アズカヴァルに戦争を仕掛けてきたのかもしれない……!!
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