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44. 春の嵐
あいつ、妹との手紙のやりとりで何てこと書いてやがるんだ。と呆れつつ、
自分たちのことを赤裸々に書いてあることに関してリヴェラは苦い表情を浮かべた。
「私たちができることって、こんなことしかないから……」
「みんな……。でも、それって……」
妹たちが自分の為に必死で何かしようとしてくれる気持ちは、シファにとっては
正直嬉しいというよりは戸惑いに近い。
だけど、これって……。高価なものを渡す代わりに仲良くしてくれって、云っているようなものだ。何だか物で人の気持ちを買うみたいな気がして、いやだとシファは思う。
と、ここまで静かに傍観していたリヴェラはシファの心中を察してか、口を開く。
「お気持ちは有難いのだが、いただくわけにはいかない」
「えー、せっかく用意したのに?」
「見当違いにも程がある。このような物があってもなくても、あなた方の兄君を手厚く扱うつもりだし、この先も末永く付き合ってゆく所存だ。約束しよう」
「リヴェラ様……」
思いがけない言葉が聞けてシファは驚いて眼を大きく見開き、瞠目する。
じーんと、胸の奥から嬉しさが込み上げてくる。
シファとリヴェラを交互に見比べ、「ふーん」というようにその場面を見遣りながら、そこでようやく姉妹たちはシファの心情を汲み取る。
「ねぇ、兄様。これは賄賂 でもなんでもないのよ」
「えっ、そうなのか?」
「世間一般では、よそのお家にお邪魔するときには手土産を渡すのが常識なのよ」
「えっ、ええっ。知らなかった」
「兄様は世間知らず過ぎるのだわ」
「神学校に長くいたからかしら」
「神官として世俗からも隔離した生活が長かったせいで常識だとかマナーに疎 いのよね」
「教会の後援者も手土産を持ってこられるでしょう?」
「そ、そうだけど」
「お世話になるのに手ぶらなんてありえないわー」
もっともなことを妹たちに散々云われて、シファはシュンと落ち込む。
世の中の常識だと云われてしまえば、それまでだ。
いいように云われて自分は配慮に欠ける人間だと目の当たりしてしまい、気落ちしてしまう。
「と、いうことでここにあるモノを全部貰ってください」
「それに、要らないって云っても」
「持ってきちゃったからー」
「これを全部リゼルハイドまで連れて帰るのも大変だよー」
「そうは云ってもなー」
ドタドタと走り回る家畜を前にして、どうしたものかと考え込む。
う~む、と唸り難色を示すリヴェラに対して姉妹たちは機転を利かせる。
「そうだ、これを預かってもらうってことにすればいいんだよ!」
「うん、そういうことなら問題はないと思う……」
そうだ、そうだと、妹たちに押され、それならいいでしょう?と問われ、「まぁ、それなら……」と、リヴェラは渋々了承するが、結局貰う事と同じことになる。
リヴェラが了承してくれたことに途端に表情を輝かせ、シファの妹たちは大喜びする。
「やったー!!」
「これだけのたくさんの家畜がいるんだ。みんなに振舞うのもいいだろうな……」
リヴェラが機転をきかせてぼそっと呟いたひとことに、彼女たちがぱっと顔を輝かせる。
「やったー。じゃあ、後でジンギスカンをして食べましょうよー」
きゃっきゃっ、きゃっきゃと大はしゃぎながらその場を去ろうとしたときにガッシャーン、というひと際大きな音が響き渡った。
「きゃああああっっ___________________」
せっかくリゼルハイドから運んだ大きな花瓶を四姉妹のひとりが躓 いて割っていた。
起こってしまったことに呆然としてしまい、「ああ、ああ……」と使者たちが顔を真っ青にして狼狽 える。「なんてこと!?」と驚愕に声を荒げる姉妹。
せっかく遠路はるばる割れずに運んできたのにこんなところで駄目にしてしまった。
地面に破片が散らばって、事態の凄惨さを物語っている。
リヴェラに向って「すみません!すみません!」と騒然となって姉妹たちが平謝りする。
「大丈夫、大丈夫だから」と、リヴェラが慌ててフォーローする。
元々、彼女たち___________リゼルハイドの物だったので、自分がどうこう云うつもりもなく、姉妹たちの身の安全が優先だ。リヴェラは心配して彼女らに声を掛けた。
「大丈夫だったか、破片で怪我しなかったか?」
「うん、平気―」
姫たちは幸い無傷だったが美術品としても価値の高い壺を割ってしまい、大損害だと別の意味で周囲が驚愕するような大惨事に見舞われた。
「うわー、大変なことになった」
「ああっ、国宝級の壺だったのに……!」
「破片をくっつけて復元できないだろうか……」
「いや、無理に決まっているだろう」
しっちゃかめっちゃかになっていて、片付けに勤しみ大わらわになる。
騒がしい一日になり、予想外の贈り物と賓客の訪問にアズカヴァルの王城が賑やかになった。
何だか、春の嵐が到来したような気配がした。
「……なーんだ。手紙では冷たいとか、つれないとか書いていたくせに」
「意外と親しそうだったし、いい雰囲気だったんじゃないの?」
「何か距離が近くなっているような気がする」
「よかったよねー」
当初懸念していた兄のシファとリヴェラの関係だが、四姉妹が見る限り思ったよりも順調そうで、関係は良好と見た。
ふたりがうまくいっているようだと安心したのだった。
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