7 / 12

第7話 返事は保留で

「俺、いつもの」 「買ってくる」 普段は奢らせたりなんかしないけど、俺が最大限譲歩するかわり、國臣をパシらせて奢らせた。 「はい、ビッグマックセット。ポテトにコーラ」 「サンキュ」 ポテトに手を伸ばして、躊躇した。 國臣はバイトしてないから、國臣の金は親の金、なんだよな。 うーむ。 やっぱり払うか? いやいやでも…… 俺がポテトを摘まんだまま悩んでいると、國臣はクスクス笑う。 「……んだよ」 「……いや、何考えてるんだか凄くわかりやすいなー、と思って。今、やっぱり払おうかと思っただろ?」 「……うるさい」 払うのはやめて、ポテトを口に入れる。 「……ほんと、そういうところも……好きだよ」 「おまっ……!!」 思わずガタリ、と椅子の音を立てて身をひけば、俺の声は思ったより大きかったらしく客の何人かがこちらを見た。 苦笑いで誤魔化しつつ、小さくなってこそこそと國臣に話し掛ける。 「今コーラ飲んでたら、お前の顔に吹き掛けてたぞ」 「……それは、ご褒美?」 駄目だ。 俺に告ってタガが外れたのか、國臣は俺への好意を隠そうともしない。 じゃあ、やっぱり昼休みのアレはなんだったんだ? 「あのさ、お前……あの子と付き合うんじゃないの?」 「……あの子……?」 「告られてだろーが」 「……ああ、あのヤリマン」 「……」 「……女と付き合えば、希翔がまた友達に戻ってくれるって言ってたのを、あの時思い出してさ」 「はぁ?」 「希翔が傍にいないとか、やっぱり俺には無理そうだったから」 「……あのさ、誰でも良いから女と付き合えなんて、俺は言ってないぞ? 誰か好きな女の子をつくって──」 「希翔」 俺の言葉を、國臣が遮った。 「俺が好きなのは、希翔だって言ったよね? 女だろうが、男だろうが……俺にとっては、希翔じゃないなら他の誰でも一緒なんだよ」 「……で、でも、好きでもない女と付き合うなんて、彼女に悪いとは……」 「あの女だって、別に俺じゃなくても平気な部類だから。それでまた希翔と一緒にいられるなら、俺にとっては簡単な話なんだよ」 「そんな……お前、誰か好きな人がいるのに、好きでもない女と付き合えるの?」 俺がそう言うと、國臣は、顔を歪めた。 両肘をテーブルにのせて、一瞬でぐいっと距離を詰められる。 俺の目の前に、國臣の端正な顔が現れた。 「……俺の好きな人が、俺を選んでくれるなら、勿論そんな必要ないんだけどね」 あと十センチ程で、キス出来そうな距離。 俺は慌てて身体を起こして、距離を取った。 「そんな……そんな事、言われて、も」 でも、今のは俺の失言だ。 國臣は、相手が俺であるという事を除けば、単に好きな人の傍にいたいから、相手の言った通りに行動してるだけ……むしろ、俺が國臣の気持ちを理解しようとしてない訳で。 「……俺と付き合ってくれるの? 希翔」 俺は黙って、首を横に振った。 正直、恋人が男とか想像出来ない。 「なら、せめて言った事は守って欲しいな。俺は女と付き合うから、友達でいさせて」 「……」 「じゃあ、話はこれでおしまい。ほら、コーラ飲まないと氷溶けちゃうよ」 「……保留、で」 後で思い返しても、あの時の俺はどういう思考回路をしていたんだか、わからない。ただ、好きでもない女と、國臣が無理して付き合う状況は嫌だった。 それも、自分のせいで。 とはいえ、俺が好きだという事を隠そうともしない國臣と、このまままた親友に戻れるかといえば、NOだった。 どうしたって、意識してしまう。 ──一度、真剣に考えみよう。 恐らく、そう思ったんだと思う。 「……保留? それって、どういう……」 「國臣との事、男ってだけで真面目に考えてなかった、けど。それは國臣に対して真摯な態度ではなかったなって思って……」 俯いてコーラを飲んだけど、國臣の雰囲気がガラリと変わったのがわかった。 喜びに溢れた、空気。 そういうのも直ぐにわかるから、親友って厄介だ。 國臣は今、俺がこれから言う発言を、期待して待っているのだ。 「だから、付き合えるかどうかはわからない、けど……國臣の事、そういう目で見られそうかどうか、一度真剣に考えてみるから……保留にしてくれ」 「……嬉しい。嬉しすぎて、今すぐ抱き締めたいけど……我慢する」 「それは、流石にそうして」 二人で、笑い合った。 たった三日しか経ってないのに、久しぶりな気がした。

ともだちにシェアしよう!