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第6話 絶賛絶交中
「なぁ藤森、甲斐と喧嘩でもした?」
「……あー? ちょっとな」
俺が甲斐と絶交してから、三日目。
お昼休みにクラスメイトの中野が声を掛けてきた。
まさか、告られてレイプされて振って縁切りました、なんて言えるわけがないので適当にお茶を濁す。
「なー、仲直りしてやれよ」
「なんで俺が」
「だって甲斐、今にも死にそーな顔してんじゃん」
「……」
「甲斐が心開いてるの、藤森だけだし」
「え? 皆と仲良いだろ? 普通に話してるじゃん」
俺は驚いて、中野に向き合った。
「は? マジで言ってんの? 藤森いないと超無口だぜ、あいつ」
「……」
知らなかった。
極力ここ三日、國臣の方は見ない様にしてたし避けまくってたから気付かなかったけど、確かに國臣の声を聞いてない。
「見てみろよ」
中野が指差したので、仕方なくその先にいる國臣を見る。
一番廊下側の席で、片手で頬杖をついて参考書をパラパラ捲っていた。
「ドス黒いオーラ出してんじゃん。皆怖くて話し掛けられねーって。そんなの出来るの、よっぽどの天然か空気が読めない奴……」
「甲斐君!」
その時、よっぽどの天然か空気の読めない女の子が國臣に話し掛けた。
つい、と顔を上げた國臣と視線があったので、慌てて顔を背ける。
……あれ、今國臣に声掛けたのって……この前、俺に告白してきた子、だよな?
「ちょっとお話があるんだけど……一緒に来てくれない?」
「……なに」
「あの、ここじゃちょっと……お願い!」
「……」
國臣は面倒そうに、参考書をパタリと閉じて教室の外に出て行った。
「……今の、伊達と別れたばかりのサッカー部のマネージャーじゃん。何? 今度は甲斐狙いか?」
いや、彼女はちょっと前に俺に告ってたし、それはないだろ。……ないよ、な!?
「面白そ……」
中野はにやーっと笑って席を立つ。
「ちょ、やめとけよ」
俺は中野の腕を引っ張ったが、「藤森も行こうぜ!」と逆に腕を取られて引き摺られた。
「……あれから甲斐君の事が、気になってて。好き、みたいなんだけど」
マジかー。
どうやらその女の子は、惚れっぽい性格のようだ。
誰もいない渡り廊下で、國臣に潤んだ瞳を向けていた。
そして俺達は、渡り廊下に続く手前の廊下で二人して座って隠れていた。
くそダサイ。
けど……ついこの間はあの目で俺を見ていたのになぁ……女子怖ぇ。
「……あんたに興味ない」
「甲斐君に好きな人いるの知ってる!!」
直ぐ様去ろうとした國臣の腕にすがり付き、彼女は涙を浮かべた。
……本気なんだろうか、と思ったら、中野が「すげー演技力」と言ったので、自分が単純で騙されやすい事を思い出す。
……そうだった、女運悪いんだった、俺。
「良いよ、好きな人いても。でも、試しに付き合って!」
「メリットがない」
キッパリ言った國臣に、彼女はとんでもない事を言ってのけた。
「メリット……あるよ? 気持ち良い事、いくらでもして良いし」
ギョッとした俺は、ついそろ~っと廊下から渡り廊下を除き見る。
彼女は後ろを向いていて、どんな表情をしているのか確認出来なかった。
「ヤリマンって、本当なんだなぁ」中野が囁いた。
「そん……」
何か言おうとした國臣と俺の、目が合う。
「!!」
慌てて思わず隠れたけど、絶対バレた。
野次馬認定されてしまった。
「……わかった、良いよ」
「本当!?」
「甲斐が色仕掛けに負けたな!!」
中野はニシシ、と笑って俺を見る。
……なんでだ? 國臣。
俺がいるって気付いたから、付き合う事にしたのか?
それって、当てつけじゃなくて?
俺の胸に、モヤモヤとした気持ちが膨らんでいく。
告白した女の子だって、本気で國臣の事が好きなのかもしれないのに……当てつけで自分と付き合った、なんて知ったらショックだよな!?
「……中野、戻ろ」
「今日のニュースゲットだぜ!」
スキップしながら教室に戻る中野の後を、俺はとぼとぼついて行った。
***
「國臣、帰るぞ」
「……希翔……」
バン! と國臣の机を叩いて、睨み付ける。
……睨んだ筈なのに、國臣が嬉しそうにふわりと綺麗な笑みを浮かべるから、思わず赤面した。
くっそ! イケメンってだけで得するな、お前!!
「マック寄ってこーぜ」
「……ああ」
「お、俺も話聞きたーい!!」
仲間に入ろうとする中野の肩を叩いた。
「悪ぃ、また今度な」
「えー!! あの話するんじゃないの!?」
「仲直りしろって言ったのお前だぞ?」
食い下がる中野に、國臣が「またな」と言って、中野の肩に置いていた俺の腕をそっと外した。
「──っ!」
思わず背中がゾクリとして、腕を振り払う。
「……」
國臣の辛そうな表情が視界に入って、踵を返した。
……そんな顔されたら、俺が悪いみたいじゃん。
レイプした相手に、普通に振る舞うなんて俺には無理だ。
だから……そんな、傷ついた様な顔するんじゃねーよ!!
被害者はこっちなのに!!
「藤森、甲斐、また明日な~」
「おう」
中野やクラスメイトに別れを告げながら、そう言えば、俺が誰か他の奴とスキンシップする度、國臣が割り入ってきてたな……とぼんやり思い出す。
國臣が俺を好きだなんて思っていなかったから、気付かなかった事もあるんだな、と感じた。
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