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第8話 受験生であるべき
「甲~斐~! 見てたよぉ♪ 受験生なのに、デートとかそれ以上しちゃうのかなぁ?」
翌日。
中野が國臣に絡み、ドキリとする。
いや、デートとかそれ以上なんて、付き合ってもないのにしないって!!
……あ、付き合ってないのにそれ以上の方はされたけど。
「……なんの話だ」
「昨日、渡・り・廊・下・で? しらばっくれちゃって~! OKしてたじゃん」
あ、そっちか。
びびった、中野がマックで覗き見してたのかと思ったああ!!
「……別れた」
「へ~♪ ……へ? 別れた?? もう??」
中野が愕然とした顔をする。
そういう俺も、軽く驚いた。
いつの間に??
「何で? ヤってからでも良くない?」
「……付き合う必要なくなったから」
「付き合う必要??」
「中野! ちょっと数学わかんないとこあるんだけど!!」
俺は慌てて中野の注意を他に向けようと話し掛ける。
「おはよー、藤森。俺、数学藤森より成績悪いんだけど? 仲直りしたなら、甲斐に聞けよー」
「あ、そ、そうだな。そいやなんで仲直りした事知ってんの?」
「そらお前、甲斐の機嫌がめっちゃ良いからさー」
「……?」
「彼女が出来たから機嫌良いんかと思ったけど、彼女と別れても機嫌良いなら藤森と仲直りしたとしか考えられないじゃん」
「……成る程」
「希翔。何処がわからないの?」
國臣が、滅茶苦茶優しく俺に聞いてくる。
そんな甘ったるい視線を投げるな、中野にバレるぞ!!
「~~っっ!!」
俺がわたわたしていると、中野はズバリ言ってきた。
「お~、俺の時と反応が随分違うじゃん。甲斐は本当に藤森が好きだなぁ~♪」
「……ああ、好きだけど」
しーん、と。
教室が静まり返った。
俺が青ざめた瞬間、どっと爆笑が起きる。
「甲斐には冗談通じないんだから、中野が悪い!!」
「おい藤森、甲斐が告ったぞ!!」
「ちょっとやめなよ、男子~」
國臣の真意を知っているのは俺だけで、誰も本気で取り合う奴はいなくてホッとする。
「……」
いつもなら、「俺も愛してるぜ!」くらい言ったかもしれない。
だけど、國臣の気持ちを知ってしまったからには、軽々しく言えなかった。
でも……そっか、別れたのか。
何故かその事実を知って、胸の奥のモヤモヤが晴れていく気がした。
昨日、マックでの俺達の会話には続きがある。
そう、一部を除いて誰もが愛だとか恋だとかをおざなりにしなければならない時期がやって来るのだ。
それは間違いなく俺らも同じな訳で。
「俺達、受験生だよな?」
「……そうだね」
「だからさ、ひとまず目先の事、大事にしない?」
「そうだね、デートとか……したいけど、長く一緒にいる為には同じ大学受かって貰わないとね」
「なんでお前は受かる前提なんだよ。まぁ、その通りなんだけど」
「じゃあ、カテキョのない日に俺と会って、勉強するのは」
「……お前の部屋以外なら良いぞ。や、お前の部屋以外というより、公の場な!? 図書館とか」
國臣は、嬉しそうにこくりと頷く。
うがー!!
今まで全く気付かなかったけど、國臣ってこんなに俺の事好きオーラ出してたんだなぁ……まぁ、男なんだから気付かなくて当たり前って事で。
しかし、知ってからそういう目で見ると色々ヤバイ。
「じゃあ、明日は学校で勉強して行こうか」
「……ん」
ん?
なんだよ、俺と長い時間一緒にいられるから、いいんじゃないの??
場所も面倒ないし、わからない問題あったら先生にすぐ聞けるし名案だと思ったんだが。
よく分からないけど、國臣の反応は悪かった。
翌日。
「何、藤森も甲斐も帰らないのー?」
俺の席の前の机をくるりと回して、向かい合わせでくっつけた國臣に向かって、中野が声を掛ける。
「ああ、甲斐と勉強してから帰ろうと思って」
「へー! いいね、俺も一緒して良いか?」
「勿 ろ……ん……」
俺がいつもの調子で返事をすると、國臣の表情が少し暗くなっていく。
「何? お前ら勉強してくって? 明日やるなら俺も混ぜてー」
他の奴らも便乗し出したので、俺は慌てて両手を振りながら「あ、明日はカテキョの日だからやらないんだ、悪い」と返事する。
結局、二人でやる予定だった勉強会は、気付けば三人増えて五人になっていた。
勉強を始めれば國臣はいつも通りだったけど、恐らくデートがわりの勉強会だと考えていたのだろうから、ガッカリさせたに違いない。
その日は下校時間のお知らせが流れるところまで皆で参考書を広げながらウンウン唸りつつ勉強して解散した。
「じゃあなー」
「帰り気ぃつけてな」
「また明日~」
学校からの帰り道、國臣と俺と中野は途中まで同じ電車の方向で、一人がチャリ通で、もう一人は電車だけど逆方面だ。
「やっぱり甲斐に教わると勉強捗るわ! なぁ藤森」
「だな」
中野が「またやろーぜ!」と言うのに、甲斐は「ああ」と普通に言うので、安堵する。
良かった、そんなに落ち込んだ様子はない。
……まぁ、今までも皆でつるむのは当たり前だったから、今更なのかな?
そんな事を考えていたら、「あれ? 甲斐、降りないの?」中野が國臣に聞く。
「……ちょっと、寄るところがあって」
「ふーん。あ、俺次だから。また明日な!」
「おう」
國臣は最寄り駅を通過し、中野はその次の駅で降りて行った。
「何処に寄るんだ? 本屋?」
俺が何気なく聞くと、國臣は小さな声で返事をした。
「……今日、二人きりになれなかったから……」
「……」
うわー!! うわー!! うわー!!
やっぱり國臣は気にしていたようだ。
「わ、悪かったよ」
「……いや、別に。希翔のせいじゃないし、楽しかったは楽しかったから」
「そう? なら良いけど」
結局、國臣は俺の最寄り駅まで付き合って、家まで送るというのだけは丁重にお断りして反対車線のホームに行かせた。
國臣は、何か言いたそうな顔をしつつも、駅のホームから幸せそうに微笑みながら手を振った。
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