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第9話 公共の場での暴挙 *

その日から、カテキョのない日に皆で勉強するのが通常運転になってしまった。 いや、俺はいいんだけど。 八月も夏休みなんかなく、夏期講習が終わった後も皆で自主学習。 九月に行われる実力判定テストに向けて、皆必死だ。 それが終われば、文化祭。 高校一年生と二年生が中心になって進めてくれるんだけど、最後の息抜き的に三年でも結構真面目に取り組む奴らもいる。 俺はイベント大好きだから、流石に実行委員とかは勘弁だけど、彼女がいる奴らは後夜祭で盛り上がるらしくて、皆が楽しみにしているイベントだ。 ──まぁ、その前にひたすら勉強なんだが。 「実力テストは入試に近い感覚のテストだから、入試本番をイメージして取り組んでね」 「はーい。……って、緊張しろって事ですか?」 俺の家庭教師の迅先生は、クスクス笑った。 現役T大学生の、クールイケメン。 眼鏡が似合ってるのに、オタクとは真逆の男が憧れる男って感じだ。 かくいう俺も、迅先生の私服は自分が服を買う時の参考になんかしちゃったりして。 「問題を解く順番とか、時間配分を考えながらやれって事。やった後は、間違えたところをチェックしてね。そこを重点的に勉強すると、受験対策にもなるし」 「はーい」 「でも、最近凄く頑張ってるね。前は苦手だった長文読解とかも、だいぶスピードが早くなってる」 迅先生に褒められ、嬉しくなる俺。 「最近クラスメイトと勉強会とかしてるんで」 「そうなんだ。一人じゃないと集中できない子もいるけど、受験は周りに人がいる環境だから凄く良いね。メリハリもあるし」 「はい」 その日の勉強も、なんだか凄く理解が深まったような、手応えを感じた。 数日経って、金曜日に帰宅中。 「……あのさ」 「ん?」 中野が怪しむからやめろ、と言って、毎日送りたい、と言い出した國臣を説得し、一週間に1日だけ、と二人で妥協点を導き出した、一緒に帰宅する日。 中野が降りたら、國臣が意を決した様に話し掛けた。 「……明日、図書館で勉強しないか?」 「ん、いいよ。でも、混んでるかもよ」 「……個室、予約してる」 「マジ? まぁ、そこなら集中出来るかもな。学校より近いし何時からとった?」 「終日は駄目だって言われたから、午前中。……一応、九時から十二時まで」 「OK、んじゃ明日は九時からな」 「……ありがとう」 「ん? お、おお」 國臣の嬉しそうな顔を見て、俺は嬉しくも複雑だ。 そりゃ、親友が嬉しそうにしてたら自分の事の様に嬉しくなるのが当たり前だけど……その理由を知ってるから、なんとも言えずに流れる窓の景色を見て、誤魔化した。 *** 「くはーっ、疲れた。もう頭パンク寸前」 俺が机に突っ伏していると、トイレから戻ってきた國臣が「はい、お疲れ」と言って机の上に冷えたコーラの缶をとんとのせた。 もうそろそろ、個室から出なければならない時間だ。 「サンキュ。いくら?」 俺が隣の椅子に置いた鞄の中にある財布を取り出そうとごそごそ漁っていると、國臣の気配を近くに感じて顔をあげる。 「國……んッ」 國臣の顔がめっちゃ近くにあって、俺が声を掛けようと開いた口を塞がれた。 ……國臣の、唇で。 「く、に、ん、はぁっ……」 國臣の舌先が、俺の唇を無理矢理こじ開けて侵入してくる。 國臣の胸板を叩いて抗議したが、その両手首は掴まれ、胸板から引き剥がされた。 椅子に座っていたから、身体を引こうにも背もたれが壁の役割をして、これ以上下がれない。 「ちょ、待っ……ッッ」 口内を蹂躙してくる國臣の舌が、俺の舌を絡め取って、引っ張られた。 じん、と舌から甘い痺れが広がり、くちゃ、くちゃ、と舌の絡まり合う水音が耳を犯す。 股間がズクリと反応してしまって、焦った。 「……希翔……」 國臣はうっとりとした様に長い睫毛を閉じて、俺の口内を貪る。 こいつ、キスも巧いなんて……ムカツクー!! 俺が一生懸命掴まれた腕をブンブン振り回して抵抗の意思を表したところで、國臣がやっと唇を離した。 唾液の糸が、俺たちを繋ぐ。 「キスしていいなんて、言ってねーよ!」 やっと口が自由になって、一番に叫ぶ。 ……廊下に聞こえない様にボリュームを下げたから、物凄く情けない感じだけど。 「……うん、ごめん。希翔見てたら、したくなっちゃった」 「お前、なぁ……」 ニコニコ上機嫌の國臣に脱力し、再び机に突っ伏した。 駄目だ。 これ、いくら怒っても全く悪いと思ってなさそうな感じだ。 まさか、公共の場でこんな暴挙に出るとは、正直思ってなかった。 口を尖らせて「……コーラ、お前の奢りな!」と言うと、國臣は頷いた。 「じゃあ、そろそろ行こうか」 國臣がそう言って俺の腕を引っ張る。 前みたいに、ゾワリとした感じはしない。 しかし、元気になってしまった俺のイチモツは悲鳴を上げた。 小さくても、勃起すればテントを張るくらいは出来る。 「……ちょっと、待って。もう少し落ち着いてから」 「うん? ……え、もしかして……」 國臣が俺のテントに手を伸ばそうとしたから、俺は思い切りその手をひっぱたいた。

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