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からかい 2話
それからもフィサは懲りずにシグマへ近づいていた。
「シグマさーん、今日の予定って──」
近づきながら、フィサは確信に変わりつつある感覚を抱く。
(やっぱり……シグマさんは、僕といるときだけ……表情が揺れる)
あの声、あの逃げ方。
思い出すたび、胸がざわつく。
気づけば今日も、ふわりと距離を詰めていた。
「シグマさ〜ん、聞いてます?今日の予定は──」
「……フィサ様。近いです。離れなさい。」
「え〜?でもシグマさん、困った顔して──」
言葉の途中。
空気が変わった。
影が走る。
シグマの腕が閃く。
ドンッ!!!
壁への衝突音が部屋に響く。
フィサは壁に押し留められ、目を見開いた。
近い。
息が触れ合うほどの距離。
シグマの金の瞳は揺れ、熱を帯びていた。
「……フィサ様。」
普段の静けさを装いながら、
押し殺しきれない震えが混じっている。
「その距離感……あまり、私を刺激しないでください……。」
「え……」
視線が逸れ、また戻る。
囁くように落とされた。
「このまま……取って喰ってしまっても……」
その瞬間、
ゴッ!!
シグマは己の頭を、壁に打ち付けた。
姿勢は維持したまま、理性を取り戻すために。
「……っ、失礼……致しました……!」
図らずもこぼれた言葉に自分で驚き、
慌てて距離を取ったのだ。
「シ、シグマさん……?」
フィサは真っ赤になり、息を呑む。
シグマは呼吸を整えながら短く告げる。
「……申し訳ございません。
本日は……これで失礼します。」
逃げるように退室していった。
扉が閉まった瞬間──
フィサの胸に残ったのは、
やりすぎた後悔と、シグマの囁きが離れない熱だった。
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