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からかい 3話
廊下の奥。
シグマは珍しく足音を乱していた。
指先が震え、喉は乾き、
いつもなら気にも留めないネクタイの結び目まで気になる。
(……完全に、私が距離感を見失っている……)
呼吸を整えながら、執務室の扉を叩く。
「……ルヴェーグ様。」
顔を上げた主が、怪訝そうに眉をひそめる。
「どうした? そんな顔をして。」
「……ルヴェーグ様……。
自らのパートナーの手綱も握っておられないのですか……」
「は?」
ルヴェーグは半ば呆れたようにシグマを見る。
「……シグマ。何をされた?」
言いたくないが、逃れられない。
「……フィサ様が……本日も……距離が……」
「距離が?」
「……刺激的すぎまして……」
沈黙。
ルヴェーグが状況を想像する時間。
そして深いため息。
「フィサのやつ……」
愛情も呆れも入り混じった声で言い、
椅子から立ち上がった。
「わかったよ、シグマ。」
上着の裾を整え、静かに息を吸う。
「今から悪い子に“お仕置き”をしてくる。」
「……っ、ルヴェーグ様……!」
「人払いを頼んだ。」
「……承知しました。」
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