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初めての夜 2話
夜が明け、淡い光がカーテン越しに差し込んでいた。
ルヴェーグはいつもと同じ時間に目を覚ましたが、
腕の中に感じる温もりに、思わずまぶたを再び落とした。
抱き寄せた腕の先には、静かに眠るフィサがいる。
寝息は浅く、胸元が小さく上下している。
昨晩の余韻がまだ残っているのか、頬は少し赤い。
ルヴェーグはその髪を指でそっと梳いた。
「……フィサ。君は、本当に……愛おしい。」
囁くように言い、額へ優しい口づけを落とした──
そのとき。
コン、コン。
控えめなノックの音が、朝の静寂を揺らした。
「フィサ様、ルヴェーグ様。おはようございます。」
「……あぁ、シグマか。入っていい。」
返事とともにドアが開く。
シグマは部屋に一歩入った瞬間、鼻先で空気を嗅ぎ取り、
ほんのわずかに眉をしかめた。
「……随分と強烈な香ですね。
昨晩は……さぞ捗ったことでしょう。」
皮肉というより、呆れと諦めと、
どこか楽しんでいるような声音だった。
ルヴェーグは一瞬だけ昨夜のフィサを思い返し──
僅かに口元を上げた。
「……まあな。」
「……はぁ。まったく。
では、部屋の換気をいたしますので、少々お待ちを。」
シグマが窓へ向かいながら軽くため息をついたそのとき、
ルヴェーグの腕の中で、小さなうめき声が聞こえた。
「……う……おはよ……レーベ……」
「おはよう、フィサ。
無理に起きなくていいよ。」
そう言いながらもフィサは頑張って身体を起こそうとし──
「……っ、う……っ!?
ちょっと……う、動けないかも……」
肩を震わせ、再びベッドへ沈み込む。
ルヴェーグは困ったように笑いながらも、
どこか誇らしげにフィサの背をさすった。
その様子を横目で見たシグマは、
いつもの鉄仮面でありながら、
完全に呆れた気配を隠そうともしていない。
「……フィサ様。
本日の朝食はこちらへお持ちいたしましょうか?」
「……お、おねがいします……」
「承知しました。」
シグマは静かに部屋を出ていった。
ふたりきりになると、
フィサはルヴェーグの表情をちらりと伺い──
途端に昨晩の“あの顔”を思い出してしまったらしい。
頬は一瞬で茹だったように赤くなり、
目元まで熱が広がる。
そんなフィサを見ながら、ルヴェーグは口角を上げた。
「どうした? 僕の顔に何かついてる?」
「レ、レーベの……意地悪……っ!」
ぷくっと頬を膨らませるフィサ。
だが、それがまた可愛くて仕方ない。
ルヴェーグはその反応に、
再び胸の奥に熱を抱えた。
「……フィサ。」
声のトーンが少しだけ低くなる。
「今回は……僕が、リードをしようか?」
「っ……あ、朝ですよ……!?
ちょ、レーベ……!?
あ、朝ごはん……まだ、なのに……っ!」
「大丈夫。」
ルヴェーグは耳元で甘く囁く。
「シグマには……伝えておこう。」
フィサの肩がびくりと跳ねる。
その瞬間──
扉の向こうで食器の音がかすかに揺れた気がしたが……
気のせいかもしれなかった。
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