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夜、シグマの独り言

(わたくし)のような夜の血筋は、長らく“隷属の術”に縛られてきました。 この術は── 契約した主の血が続く限り、 どれほど世代を重ねようと決して逃れられない鎖。 夜の者は人間より遥かに長命ですからね。 主からすれば、生涯使役できる便利な存在だったのでしょう。 ……ですが。 ルヴェーグ様は、こう仰ったのです。 『術を解くかわりに、僕に付き従ってくれないか』 ……耳を疑いましたよ。 そして続けて、こうも言われた。 『父上の書類で読んだんだ。 君は“夜の血”を引いているが……寿命は人間と変わらないらしいね?』 ……まったく、彼のお父上はどうやってその情報を得たのか。 今でも理解できません。 しかし、事実です。 そして──その事実に、ルヴェーグ様は酷く心を痛めておられた。 私は思わず尋ねました。 「……首輪を外したペットは、遠くへ逃げてしまうかもしれない」 すると、ルヴェーグ様は静かに笑った。 『森に逃がすわけじゃないさ。 僕は首輪を外してやるだけだ。 離れてしまうなら……それは僕の責任だろう?』 そして──私の胸を正確に刺すように言い放った。 『……それに君は、森まで逃げることは出来ない。違うかい?』 ……腹立たしい。 腹立たしいのに──否定できませんでした。 あの方は、懐柔した上で首輪を外したのです。 普通なら、首輪を外された獣は二通り。 本来の野生を思い出して牙を剥くか。 あるいは静かに主のもとから去るか。 ……ですが。 懐柔されたペットは逃げません。 逃げる理由が、もうどこにもないのです。 私は…… 自らの意思で──いや、 自らの意思を“そう思わされた”ままに、 この方に付き従う道を選ばされた。 本当に…… あの方には敵わない。   ……おや。 今日も“お客人(襲撃者)”ですか。 よろしい。 懐柔されたペットなりに──番犬の務めを果たすといたしましょう。

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