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冬の祝祭

窓の外では、雪がちらちらと舞っていた。 ルヴェーグはその光景に目を向けながら、そっと隣のフィサへ視線を移す。 「ねぇ、フィサ」 優しく名前を呼ぶと、フィサはいつものように小さく首をかしげて笑った。 「どうしました? レーベ」 ルヴェーグは一度言葉を飲み込み、慎重に問いかける。 「……その。君は、何か欲しいものはないかい?」 「欲しいもの……ですか?」 フィサは少し考えるように視線を落とし── やがて頬を赤らめて、恥ずかしそうに呟いた。 「僕は……レーベと一緒にいられるだけで、十分だもん……」 そのあまりにも真っ直ぐな答えに、ルヴェーグの胸はひどく温かく締め付けられた。 「……そう言ってくれるのは、本当に嬉しいよ」 声がわずかに震えたことに、フィサは気づかない。 背後で控えていたシグマが、呆れ半分のため息を落とす。 「……まったく。相変わらずでございますね、お二人は」 二人が同時に振り返ると、シグマは落ち着いた声で続けた。 「フィサ様。ルヴェーグ様はあなたへの贈り物を選びかねておられるのです。 どうか、何か一つ──ご希望をお伝えくださいませ」 フィサは瞬きし、それから照れながら言った。 「じゃ、じゃあ……! レーベと“お出かけ”とか、したい……!」 「お出かけ、か……」 ルヴェーグは目を伏せる。 (“あの日”も、お出かけに誘ったんだったね……) しかし今、フィサはあの頃とは違う、あたたかい眼差しでルヴェーグを見ている。 (……この子の願いには、弱いんだよな……本当に) 「うん、いいよ。行きたいところはある?」 「冬の市とか……どうでしょう! 出店を見ながら歩くんです!」 「冬の市か……。なら変装が必要だね。この服のままでは目立つから」 フィサの目がぱぁっと輝く。 「変装……!なんだかワクワクしますね!」 ルヴェーグは柔らかく微笑んだ。 「せっかくだし、僕の服も……君に選んでもらおうか」 「……えっ!! ぼ、僕が……?」 「もちろん。フィサに選んでもらえるなら、それが一番嬉しいよ」 フィサは抑えきれない喜びで、足元でぴょんと跳ねた。

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