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重い愛(R-18)

 まだ肌寒い二月の冷たい風がひたすらに走るオレの頬を撫でる。全力で街中を駆け抜けていく中で心拍数が上がっている今となってはその冷えた風もすこし心地良い。  いよいよ目的地が見えて来ると少し足取りを緩める。どうか居ます様にと祈りを込めて思い出の公園に踏み込むとやはりいつものベンチに秋が居た。 「秋」 「……智也さん」  ベンチの目の前に立ち、考え事をしていたらしい秋の名を呼ぶと慌ててオレを見る。その目は見た事のない位悲しみを滲ませていた。 「すみません、俺……」 「秋!」  あの現場を目撃してしまった自分が悪いと思っていそうですらある秋の肩を掴んで揺さ振る。するとぽつぽつと喋り始めた。 「……っ、今日、日数調整で休みになって。もしかしたら智也さんに会えるかもって、GPS使ってスタジオの近くに行ったんです」 「GPS……?なにそれ」 「智也さんのバッグにタグこっそり入れてて。今思えばこんな事したの凄く後悔してますし、普通にヤバイ男ですよね俺……」 「……成程これか。取り合えず問い詰めるのは後回し」  バッグのポケットを探ると見覚えのないGPSタグが入っていた事に気付く。何故秋があの場所に居たのか、その理由は分かったが今重要なのはそこではない。少しばかり秋の狂気染みた行動に怖気付きはしたがそれも含めて秋だと思えば多少は許せた。 「声掛けようとしたら男の人と居て……あんな……嫉妬で狂いそうになって咄嗟に逃げました……すみません」 「何で秋が謝るんだよ……」  肩から手を放してベンチの横に座る。GPSの件は後々問いただすとしてまず誤解を解かなくてはいけないし、自分の過去の清算もする時が来たのかもしれない。覚悟を決めて口を開いた。 「気になってるだろうから言うけどあの男、俺が初めてセックスした相手」 「……」 「オレってさ……子どもの頃からずっと孤独で、大人になってあの男に会ってそういう事覚えて。あとはご存じの通りの遊び人の完成。でも、秋と出会ってからオレも変わったんだよ」 「俺とですか……?」  秋が少しだけ顔を上げた。それでもまだ悲しみの滲んだ表情は変わらない。秋にはこんな顔させたくなかったのに、と胸が痛む。 「人を愛するってこんな苦しくて切なくて、でも嬉しくて暖かいんだなって知った」 「それは俺もです……だって、ずっと想い続けてましたから」 「で、だけど……あの男とは今はもう何もないから。あれもあの男の悪ふざけ」 「……本当、ですか?本当に何も、ない?」  秋が急に手を握って来たがその手は震えていて、そっと指を絡ませて強く繋ぎ直した。やっと通った日溜まりの様な秋の手に少しだけ気持ちが安らぐ。 「オレさ、もう秋にしか触られたくないし触れたくない。信じられない?」 「信じたいです……でもやっぱり嫉妬でおかしくなりそうな俺も居て、わかんなくて」 「嫉妬すればいいよ、秋の感情全部受け止めるから」 「智也さんは、良い子の俺が好きなんだと思ってました」 「良い子じゃない秋も好きだけど?」 「俺、智也さんのこと全部俺の物にしたいんです。好き過ぎて訳分かんなくなってGPS仕込んだりして狂う位……こんな俺は悪い子ですか」  繋いだ手を引かれて強く抱き締められる。震える声で秋が口にする言葉をひとつひとつ拾い上げて抱き締め返すとより温もりが伝う。 「一途通り越して激重」 「智也さんにだけです」 「うん、知ってる」 「嫉妬もするし束縛だってしたいし俺の事だけ見てて欲しいです」  ここが公園であるとか、そういう事はもう気にもならなかった。夏樹との再会で改めて秋じゃないとダメなんだと思い知らされて感情も何もかもが揺さ振られる。秋のさらさらな黒髪を撫でて一瞬だけ口付けた。 「いいよ、オレの全部秋にあげる。だから秋の全部オレに頂戴?」 「……俺、滅茶苦茶強欲ですよ」 「秋になら求められるのも悪くないかも」 「智也さんの人生を俺に下さい。一生大切にするんで」  秋からの思い掛けない言葉に目を丸くする。プロポーズとも取れる言葉を確かに今、秋は言った。ちゃんと向き合うと至って真剣な眼差しで射抜かれそうな程に真っ直ぐ見詰められていて本気さが伺える。 「プロポーズみたいじゃん」 「ダメですか?」 「んーノーコメント」 「またそれですかぁ……」  分かりやすく犬が項垂れる様にがっかりする秋が可愛らしくて、でも答えを出すのは今では無いと頷きそうになる自分を抑えて秋の頭を撫で回した。  幾ら昼間と言えど寒空の下にずっと居た秋がくしゃみをしたのを見兼ねてオレの家に二人で帰って脱衣所に秋をそのまま放り込み、ダウンジャケットと服を脱がせて熱いシャワーの栓を捻った。流石に着たまま濡れるのはまずいかと自分も服を脱いでバスルームへと二人で入る。 「と、智也さんそんな、昼から大胆過ぎますっ」 「誰もヤるなんて言ってないけどねー?はい椅子座って目閉じて」 「ふぁい」 「ん、良い子」  出来るだけ顔に掛からない様にシャワーで髪を濡らし、一度シャワースタンドにそれを戻してからシャンプーボトルをプッシュして中身を手に取る。きっと染めた事も無いだろう艶々の黒髪にシャンプーを塗り付けてから泡立てると気分が良い程ふわふわときめ細やかな泡になりつい心が弾む。  シャワーヘッドを再び取り丁寧に泡を流してやると今度はコンディショナーのボトルに手を伸ばした。髪に満遍なく塗り広げてからまた洗い落とす。さて身体の方はどうするかと悩みながら取り合えず全身にシャワーを掛けてやりボディーソープを含ませたスポンジを泡立てる。 「もう目開けて良いですか?」 「いいよ、身体も洗う?」 「洗ってくれるんですか!?あ、でもちょっと流石に智也さんにべたべた触られたら自信ないと言いますか……」 「ああ、勃起しちゃうって?」 「……はい」 「ヌいてやるから安心しな」  茶化してケラケラと笑いながらボディースポンジを秋の身体に滑らせていく。意外と鍛えられた男らしい身体はごつ過ぎず細すぎずという丁度良さがある。いよいよ下半身を洗おうかという所で秋が顔を茹蛸にしていてああ、と察した。構わず足まで洗い上げてシャワーで流すと一度栓を止めて椅子に座っている秋の股座に潜り込みしっかり勃起している性器を指で弾いてやればぺちりと薄く腹筋の割れた腹に当たる。 「ともやさん……っ」 「ハイハイ」  握り込むとまずは手で軽く扱き、すぐに顔を寄せて先端に口付け裏筋を舐ると秋の腰が跳ねた。それに気を良くして可能な限り咥え込み口で扱き上げると秋の吐息が漏れる。含み切れない部分を手で弄びじゅるじゅると音を立てて亀頭にしゃぶり付く。  睾丸がせり上がり始めるとそこを手で揉み込み、鈴口を舌先で抉って射精を促すとすぐに口を放し、その瞬間放たれた精液が頬にべったりと滴った。 「ぅあ!す、すみませ……智也さんの顔にっ」 「わざとだけど?」 「はい!?」 「内心嫉妬深ーい秋くんにオレの初めてをひとつあげようかなって。顔射されんのは初めてだから」  なんて事無い顔で頬に掛けられた精液を手で拭い再びシャワーの栓を捻ってテキパキと洗い流す。呆気に取られている秋が面白くてまた悪戯心が疼きそうになるがぐっと堪えて、今度は自分がシャワーを浴びるべくバスルームから秋を放り出した。

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