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第12話 前編・無の領域
気持ちの良い朝を迎え、
朝靄の残る庭先で、
春は今日も蓮の指導の下、力の習得に励んでいた。
ひんやりと澄んだ空気が肺に満ち、
小鳥のさえずりが耳に心地よい。
「瞑想はできるか? まずは十分でいい」
蓮の落ち着いた声が響く。
「瞑想……って、頭の中を空っぽにするっていうあれ、ですか?」
「そうだ。思考せず、無の状態を作り出す。
感覚を研ぎ澄ませるために必要な過程だ」
「……やってみます」
春は小さく息を整え、静かに瞳を閉じた。
――頭の中を、空にする。
――空にする。
――空に……。
……あれ?
これって、すでに空になっていないような。
そもそも、「何も考えない」って、どういう状態なんだろう。
考えないようにすればするほど、
思考は次々と浮かんでは消えていく。
彼方のこと。
蓮のこと。
朝食で食べた焼きのりのこと。
夕ご飯のおかずを何にするかなど。
そんな、どうでもいい雑念までが浮かんできた。
次第に春の眉間に力が入る。
雑念が浮かべば浮かぶほど、
眉間の皺は深さを増していく。
――と、その時。
「痛いっ!!」
眉間に、びしっと鋭い痛みが走る。
(またデコピンされた!?)
春は勢いよく目を開け、
目の前の蓮を恨めしそうに睨みつけると、
思いつく限りの文句を並べ立てた。
そんな春を正面から見つめると、
蓮は、まるで何事もなかったかのように話題を変えた。
「白鷺の力は、完璧に視認できるようになったのか?」
その言葉に、春の表情がぱっと明るくなる。
「はい!
自分の意志で、いつでも視認できるようになりました!」
満面の笑みでそう告げる春に、
蓮は一瞬、言葉を失った。
そして、誰に向けるでもなく、
低く呟く。
「……自らの意志で、か」
理解が速いだけではない。
春は、教えた以上のことを習得してしまう。
それは蓮の想定を遥かに超えていた。
しばし逡巡したのち、蓮が口を開く。
「瞑想は、いつでもできるようにしておけ。
先に、力の使い方を教える」
その言葉に春は、
次の段階に進める期待に、胸を高まらせた。
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