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第13話 金のロケット
――――蓮が帰ったあと、
春は再び庭先で鍛錬に没頭していた。
息を整え、意識を集中していく。
今では、集中すると同時に
体を覆う靄を形成できるまでになっていた。
確かな手ごたえに高揚感が抑えられない。
夕日が傾き、空が茜色に染まり始めたころ、
ようやく一息つこうと、家へ戻ろうと足を向けた、
その時だった。
――チカチカと、何かが光っている。
視界の端で、微かな光が揺れた。
気のせいかと思いながらも、無視できずに歩み寄ると、
そこには、草の上に落ちた小さな金のロケットがあった。
夕映えを受けて、繊細な文様がきらりと輝く。
(……蓮さんの、忘れ物?)
胸の奥が、わずかに跳ねる。
拾い上げると、ひんやりとした金属の感触が指先に伝わった。
――開くつもりは、なかった。
ただ返すために、
それだけのはずだった。
けれど、留め具の突起に指が触れた瞬間、
まるで意思を持っていたかのように、
ロケットは、音もなく開いてしまう。
中に収められていたものを見た瞬間、
春の思考は、完全に停止した。
そこには、一枚の写真が入っていた。
男性とも、女性ともつかない、
中性的で、息を呑むほど整った顔立ちの美しい人。
透き通るように白い肌。
少し伏せられた睫毛。
そして、どこか壊れてしまいそうなほど、儚い微笑み。
こちらを見つめるその瞳には、
静かな優しさと、
言葉にできない哀しみが滲んでいるように見えた。
どうしてか、
胸の奥が、ひどくざわつく。
ドクン。
ドクン、と。
心臓の音が、やけに大きく響いた。
視線を逸らさなければいけないと、
頭ではわかっているのに、
どうしても、目が離せない。
(……蓮さんの……大切な人?)
その考えが浮かんだ瞬間、
胸の内側を、鋭い痛みが貫いた。
――なんで?
問いかけても、答えは出てこない。
ただ、
喉の奥が熱くなり、
わけのわからない絶望感が押し寄せてくる
自分でも理解できない感情に呑み込まれ、
気づけば、
ロケットを握りしめたまま、家を飛び出していた。
(早く……返さないと)
(これは……きっと、とても大事な物だから)
息が切れるのも構わず、
別荘へ続く道を、無我夢中で駆けていく。
胸の内で渦巻く感情に振り回され、
春は、周囲への警戒をすっかり怠っていた。
――それに気づいたときには、もう手遅れで。
『……はる』
直接耳に届いたわけではない。
それでも、確かに――
頭の中に、声が響いた。
はっと顔を上げる。
視線の先、
宙に浮かぶようにして、
彼方が、そこにいた。
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