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第22話 よみがえり

直哉は、浅い眠りの底にいた。 意識は半ば覚醒しているのに、 重たい瞼を持ち上げる気力だけが、どうしても湧いてこない。 ――このまま、永遠に目覚めなければいい。 そんなことを考えた、その時だった。 ふいに、頬に温もりが触れた。 それが誰かの指先だと気づくまで、そう時間はかからない。 蓮が、こんなことをするはずがない。 医師だろうか――いや、この時間帯、別荘には蓮と私しかいないはずだ。 「直哉さん……」 小鳥が囀るような、かすかな声が耳に届く。 聞き慣れた、懐かしい声。 その瞬間、 直哉の心臓が、異常なほど大きく脈を打った。 (……あり得ない) ついに幻聴まで聞こえるようになったのか。 「……直哉さん」 もう一度、名を呼ばれる。 囁くように、優しく。 直哉の身体が、小刻みに震えはじめる。 心臓が、打ち狂った早鐘のように鳴り響いた。 頬に残る温もりも、 耳に届く声も―― あまりにも生々しく、リアルだった。 目を開けるのが、恐ろしい。 もし、目を開けて―― それが幻だったと知ってしまったら。 果たして私は、正気でいられるだろうか。 「直哉さん、起きてるでしょう?」 くすくすと楽しそうな笑い声。 頭を、そっと撫でられる。 それは、彼方が好んでしていた仕草だった。 ――もう、限界だった。 意を決して目を開けた、 その先で直哉が目にしたものは――。 「……かな、た……?」 直哉の瞳が、ゆっくりと見開かれていく。 喉から漏れたのは、声にならない声だった。 「かなた……彼方なのか……?」 縋るように手を伸ばす。 その指先は、かすかに震えていた。 彼方は、優しく微笑みながら、 その手を静かに取る。 「そうだよ、直哉さん。 僕だよ」 直哉の掌に、温もりが広がった。 ――永遠に失ったはずの、確かな温もり。 刹那、 直哉は彼方を力いっぱい抱きしめた。 「彼方……本当に?  本当に……?」 彼方の肩に顔を埋め、 直哉は堪えきれず、むせび泣く。 彼方はその様子を愛おしそうに見つめ、 直哉の震える背中に腕を回すと 強く、そして優しく抱きしめ返した。 「……ただいま、直哉さん」 「おかえり……  おかえり、彼方……  会いたかった……本当に、会いたかったんだ……」 窓辺から差し込む夕日が、 部屋を眩しいほどのオレンジ色に染め上げる。 その空間には、 長いあいだ 直哉の嗚咽だけが静かに響き渡っていた。 ――どれほど、そうしていただろう。 赤くなった直哉の目元に、彼方の指がそっと触れる。 静寂に包まれた穏やかな時間の中で、 直哉は、なおも彼方を抱きしめ続けていた。 「直哉さん、これじゃあ動けないよ?」 そう言われても、 直哉は額を彼方の肩口に押しつけ、 抱きしめる腕に、さらに力を込める。 二度と離すまいとするかのように。 「……ずっと、こうしていればいい」 駄々をこねる子どものようなその仕草に、 彼方は小さく笑みをこぼした。 「直哉さん、約束、覚えてる? 精霊祭に連れて行ってくれるって。 二人で行こうって、約束したよね」 直哉は、無言のまま小さく頷く。 「僕、すごく楽しみにしてたんだ。 一緒に行こうよ、直哉さん」 彼方は直哉の両頬を、愛おしむように掌で包み込む。 まだ涙に濡れた瞳に、そっと口づけを落とした。 鼻と鼻が触れるほど近くで見つめ合い、 やがて、どちらからともなく唇を重ねる。 何度も、何度も。 まるで、互いの存在を確かめ合うかのように――

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