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第7章 優しさとためらいの境界線
指、震えてたな。
昼休み、五目焼きそばを食べながら、林さんの指先を思い出していた。カタカタと、か細く、でも確かに震えていた。その指先は、やがてキュッと握り込まれていた。
そんな様子に応えたくなってしまった。
「行きましょう」
返事をした途端に、腕時計がいつの間にか3分進んでいることに気づいた時みたいな心持ちがした。
……林さんは、少し高めでほんのりと寂しそうな声をしている。
彼が微笑むと、心の柔らかいところに触れられるような気持ちになる。それと同時に、香澄さんの笑顔が脳裏に揺れて、ざわざわと苦しくなる。
彼を遠ざけたいとまでは思わない。でも、今以上近づこうとも思えなかった。
洗濯物を仕舞ってから、引き出しの中のクッキー缶を開ける。香澄さんが俺に残した、空色の封筒。ゆっくりと取り出して、そっと眺める。そして、撫でる。少しだけざらついた手触り。
喉の奥がギュッと痛む。封筒をクッキー缶に仕舞う。コト、と音を立てて、封筒が元の場所に収まる。
カーテンを閉めようと思った。
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