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第15章 向き合うのがいちばん怖い

 目が覚めたら10時だった。12時間寝ていたことになる。ハイボールの酔いはすっかり醒めていた。  スマホのロック画面を見て、反射的に閉じてしまう。もう一度そろそろと通知を見る。林さんから、LINEが来ていた。 『今日会えませんか?』  ざあっと、頭に強く風が吹いた。しばらくその文字を見つめてから、 『どこにしますか?』  それだけ打つのに、やけに時間がかかってしまった。送信ボタンを押してからも、しばらくその画面をぼんやりと見つめていた。  その時、スマホに通知が流れてきて、肩を跳ねさせてしまう。 『スーパーの近くの公園で、今からでも大丈夫ですか?』   『行きます』  まるで大事な書類に判を押すかのように、送信ボタンを押していた。  風は少し冷たいくらいだった。地面に金木犀の花びらが落ちている。林さんはまだ来ていなかった。ベンチもあるけれど、立って待っていた。    遠くに人影が見えた。林さんだ。俺に気づいたのだろう、小走りで近寄ってくる様子に思わず息を呑む。指先に力が入ってしまう。 「急に呼び出してすみません」  落ち着いた声だった。 「体調、崩されてなかったですか?」  自然にそんな言葉が出てきて、でも今日はいつものようにぞわぞわとはしなかった。  林さんが少し目を見開く。柔らかなところに、つうっと針が刺さったみたいな心地がした。視線が泳いでしまう。 「……今は、大丈夫です」  今は、ということは、一時期は崩していたのだろうか。考えているうちに、林さんが口を開いた。 「あの、すみません。あちこち誘ったの……ご迷惑でしたよね……?」  言葉が出てこない。息がうまくできない。   「……僕は……、あなたと話せるのが、嬉しくて……。出かけるのも、楽しくて……」  林さんの指先が震えている。泣きそうな顔で、笑っている。  ピアスに触れる。触れたことに気づいて、すぐに手を離す。 「俺は、あなたにそんなふうに思ってもらえる人じゃ、ないんです」  何も取り繕えない。目をギュッと閉じて、指先を硬く握って。そうじゃないと、俺は。 「……忘れられない人が、いるんです」  気が遠くなりそうだった。手のひらに爪を食い込ませることで、なんとかここにとどまっていられた。 「もう、この世にはいないんです」  渦巻く胸とは裏腹に、声は静かになっていく。足先が冷たい。 「1年、経つんです」  息がうまく吸えない。  言葉が、出せなくなった。

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