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第16章 抱きしめてもいいですか

「……忘れられない人が、いるんです」  後頭部をガンと殴られたみたいな気がした。  心音が、嫌な音をたてる。 「もう、この世にはいないんです」  言葉が出てこない。目の前の筒井さんは、顔を逸らせて、目を硬く閉じて、やっとここに立っているみたいな感じがした。   「俺は、あなたには、ふさわしくない」  息が止まった。  気がつくと、筒井さんを抱きしめていた。 「はいそうですか、なんて、思えるわけないじゃないですか」  顔が熱い。頭がギュッと締め付けられているみたいな感覚。  筒井さんの震えが伝わってきて、僕は背中をゆっくりさすった。 「あなたが……、その人を忘れられなくても、それでも僕は……、筒井さんのそばにいたい」  背に熱いものがぱたぱたと落ちてくる。筒井さんが、しゃくりあげる。 「……っ、ほんとに……? こんな俺でも……?」  声を出すと、僕も泣いてしまいそうで、彼を抱きしめる腕を少しだけ強くした。  筒井さんの腕が僕の背にまわってくる。  涙が止まるまで、僕は背中をさすり続けた。

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