2 / 3

第2話

久しぶりにおばあちゃんの家に来た。僕は小さい頃病気がちで保育園や学校を休むことが多く友達もいなかった。そのことを心配してか、人形作家のおばあちゃんは僕に友達の代わりにと人形を作ってくれた。おばあちゃんの作風はどちらかというと本物寄りで、当時小学一年生だった僕のお兄ちゃんとして身長百三十センチメートルの人間に近い男の子のお人形を作ってくれた。その時はごっこあそびをしたり、おばあちゃんも一緒にままごとをしたりしていた。しかしだんだんと僕も成長し体も以前より丈夫になり、ままごとのような遊びよりも野球やサッカー、ドッジボールのような活発な遊びの楽しさを知った。中学生になった頃には部活や塾などもあっておばあちゃんの家にはなかなか行かなくなった。高校生になった今、僕は身長百七十センチメートルほどになり、野球部に入り練習や筋トレによってそれなりに筋肉も付いた。そんなわけだが、つい先日おばあちゃんが亡くなった。病気でもなんでもなく寿命で、八十七歳の大往生。葬式も滞りなく終わり、一息ついて、近所の人や親戚は帰宅し僕達家族は一泊して明日帰る。夜ご飯を食べてお風呂に入って、あとは寝るばかりになった頃、僕は昔を思い出して、おばあちゃんが作ってくれたあの人形はどこだと家族に聞いたら 「知らないけど、蔵があるからそこにあるんじゃない?」 と言われ蔵にやってきた。まだ蒸し暑さの残る夏の終わり、タオルは一応持ってきた。おばあちゃんの家にあったランタンを持ち、蔵の扉を開けた。少し古いにおいがした。でも僕はこのにおいは嫌いじゃない。博物館や美術館も好きだし、古い物にも良い物、素晴らしい物が沢山あるから。僕は、昔おばあちゃんが僕を寝かしつけるときに歌っていた『きらきら星』を口ずさみながら、じっとりとした暗闇の中、頼りないランタンであたりを照らして気持ちを鼓舞しながら探索していたら、見つけた。これだ。大きな木箱に張り紙があり『昭へ 想』と書いてあった。想(そう)は確かおばあちゃんが名付けたこの人形の名前だ。昔を懐かしみながら、大きな木箱の蓋を外した。中にはかつての『お兄ちゃん』がいた。髪は珍しく白髪で目はオレンジ色のガラス玉がはめられている。確か当時の戦隊物の、僕の好きだったキャラクターに似せて作ってくれたんじゃあなかったかなぁ…。おばあちゃんのことを思い出し涙がじんわりと出てきた。 そんなことを思いながらそっと人形の肌に触れてみる。当たり前だが人形の肌は冷たく指先に鉱石のような肌触りの良い感触が伝わってきた。なんとなく、きもちいいなぁと思いつつ、人形を見つめた。 「想お兄ちゃん」 おぼろげな記憶だが、そう呼んでいたような気がする。昔、僕の心の隙間を埋めてくれていた存在。 するとその時、わずかに人形が動いた…気がした。 「…え?」 もう一度よく見てもそんなことはなく、ふぅ、と一つため息をつくと、すっとその場に立ち上がった。そろそろ帰ろうかとランタンを手に取った時、後ろから誰かに抱きしめられた。 「えっ、だ、だれ…?」 誰もいるはずがないこの空間で、僕を抱きしめるのは誰?そっと、ゆっくりと振り返るとそれは知らない人…ではなく、さっきの人形だった。疑問はたくさんあるが違和感がまず一つ。あたたかい。体温がある。 「……ひさしぶり、昭。おっきくなったね………」 「そ、想お兄ちゃん…な、の……?」 話しかけられた。人形に。いやまず、なぜ粘土の人形が動いている?おかしいだろ、化け物か?僕は頭がおかしくなって幻を見ているのだろうか。頭がハテナでいっぱいになっていると、さらに強く抱きしめられ、僕の背中に人形の頭が預けられた。重みを感じる。想お兄ちゃんの顔は見えない。 「昭…久し振りに会えて嬉しい」 「う、うん……」 色々と受け入れられていない部分はあるが、僕はおおむね嬉しかった。だって想お兄ちゃんと話せる日が来るなんて信じられなかったから。僕をあの寂しい日々から救ってくれたのは紛れもない真実だったから。早まる鼓動を押さえつけて、想お兄ちゃんの言葉に耳を傾ける。 「僕、ずっと我慢してたことがあって…」 「え?そうなの?…それって、なぁに」 もしも夢だとしても、想お兄ちゃんが困っていることがあるならば助けてあげたい。僕は彼に助けてもらったから。人形は、静かに答えた。 「…昭のことを、僕は愛しているんだ」 そういうや否や、想は顔を上げ、昭の頭に手を伸ばしぐいっと顔を寄せ、唇を合わせた。昭は呆然としていた。はて、アイシテイル……??なんだっけ?それは。疑問に疑問がぶつかり合い、混乱していると、想は昭のズボンをずりさげ下着の中へと手を差し込んだ。 「あっ!えっ、ちょ、ま……んぅ…ふ」 昭はびっくりしたが再び想に唇をふさがれ、さらに彼は舌をねじ込んできた。求めるように想は、昭の舌に自分の舌を絡ませようとしてくる。右手は昭の肉棒を優しく握りながら。優しく肉棒をさすり、まるで小さい子をよしよしと撫でるように根元をこする。 「ひぐっ、あっ…、あ、」 快楽と、疑問と、混乱と、ドキドキで頭がどうにかなりそうだった。

ともだちにシェアしよう!