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四年前 04 サーヴァント(※)
ノクトは手を伸ばし、リュンクスの頬に触れようとする。
その手を避けようとして体をねじる。思い通りに体が動かない。シャラリと金属音が響いた。リュンクスの両手両足を拘束している鎖の音だ。
ベッドがたわみ、ざらりとしたシーツの感触が素肌を撫でる。
妙に寒くて心もとないと思ったら、素っ裸になっていた。
全身裸で鎖に縛られるなんて、これはどんな罰ゲームなのだろうか。
「ノクト先輩、これはどういう事ですか?」
せめてもの反抗でキッと睨み付けると、ノクトは嬉しそうに嗤う。
「いいね。まるで力を秘めた原石だ。堕としがいがある」
「!」
ノクトは冷たい指先で、すっとリュンクスの首筋をなぞった。
その途端、体の中から熱が沸き上がる。
「う……ぁ」
それは、今まで感じたことのない感覚だった。
「君はこれから、私のサーヴァントになるんだよ」
「サーヴァント……?」
「おやおや。おうちで教えてもらわなかったのかな? 年長者の言うことは、よく聞くものだよ」
言いながらノクトはかがみこんで、リュンクスの素肌を確かめるように胸から腹にかけて手を滑らせた。気持ち悪いとリュンクスの理性は拒否して逃げようとするのだが、体は「もっと撫でられたい」と欲している。
「サーヴァントって……支配される?」
入学式の後に先生が何か言っていた、リュンクスの認識はその程度だった。マスター、サーヴァント、ノーマルと聞いても、自分がどれに当たるかなど、すぐに考えられなかった。ただ塔の魔術師には色々な風習があるのだな、と他人事のように聞き流していただけ。
まさか、こんなに早く、入学して数日の内に自分の身に降りかかってくるなんて。
「そうだよ。おめでとう、君はサーヴァントに選ばれた」
ノクトの言葉は到底受け入れられない。
それでもリュンクスは努めて冷静に「どうしてこうなったんだろう」と思考を巡らせた。
「新入生歓迎会の時、俺に薬を飲ませたのは、先輩ですか……?」
「私じゃないよ。あれは新入生歓迎会の恒例行事で、暗黙の了解だ。サーヴァントの素質がある子だけしか、効果が出ないんだよ。新入生歓迎会で、サーヴァント対象を洗い出して、上級生のマスターに情報共有するんだ」
学校ぐるみでやっているんだよ。だから、助けは来ない。
ノクトは、そう言ってリュンクスの希望を折ってきた。
もがいてみるが、体に巻き付いた銀の鎖は容易に外れない。
「っ、こんな学校、まともじゃないッ!」
人の意志を無視して薬を盛り、拘束するなど、良識ある大人のすることか。
リュンクスの憤りを、ノクトは鼻で笑った。
「可愛いね。まだ正義や良心が人を守ると信じてるんだ? この世界にそんなものは無いよ。それを知る事が魔術師への第一歩かな」
◇◇
体の奥で熱の塊が暴れている。
下腹部がうずいて、リュンクスは身をよじった。寝台は狭く、冷たい鎖で両手首は封じられて頭の上だ。逃げる場所はどこにもない。
ノクトが使った薬は、男性のサーヴァントを覚醒させるために用いられるものだ。
精通したばかりの少年は性に未熟で、普通にやったのでは躰を繋げられない。この薬は魔術を含んでいて、他人のセックスの記憶を流し込まれたような効果を与える。それも、女性の受け身の側の記憶だ。
リュンクスは生まれて初めての感覚に、混乱していた。
「それが雌の衝動だよ。ここに」
上から伸し掛かったノクトが、足を開かせて内股を軽くなぞった。指先が菊門のふちに触れる。
「!」
「お尻の穴に、太くて熱いものを挿し込んで欲しくないかな?」
「うるさい!」
リュンクスは耳を塞ぎたかった。
淫らな衝動と必死に戦う。
だが、ノクトが後穴に指を差し入れてくると、無視できない快感が襲ってきた。
「やだっ、止めてくれよっ! 嫌だ!」
全身で拒否するリュンクス。
泣きながら嫌々と首を横に振る少年を見下ろし、ノクトは苦笑する。
「どうしよう……泣かれると、余計に苛めたくなるじゃないか」
初めては優しくしてあげたいのにね、とノクトが呟いたのを、リュンクスは聞いていなかった。
なおも逃げようともがくリュンクスを押さえ付け、ノクトは固い蕾に指の先を押し入れる。
まだサーヴァントとして目覚めていないので、自然に濡れないし、受け入れる体ではない。
ノクトは魔力も使って、強引にこじ開けようとした。
「おや? 嬉しい誤算だ。魔力の相性が良いね」
冷たい水のような感覚が通り過ぎた後、かぁっと発熱するように体温が上がる。リュンクスはその心地良い感覚に戸惑った。
「何……?」
「大丈夫だよ。普通の人間と違って、妖精の血を引く私達は、魔力の交換で互いを理解する。今、君は私を受け入れたんだ」
言葉を介して時間を掛けないと、人同士は親しくなれない。
だが魔術師同士は、魔力を交換することで、本能的に相手と仲良くできるか即時に分かってしまう。便利で厄介な性質だった。
リュンクスは、その事を知らなかった。
天井を見上げてぽかんとしている。
可哀想に、とノクトは嗤う。どれだけ乱暴をしても、この後輩の少年はノクトを嫌わないだろう。今、その事がノクトには分かってしまった。
「嫌なのは最初だけだからね。もう少し我慢して」
「っ、触らないで、それ、変になる……ぁ!」
指を抜き差しすると、刺激でリュンクスはのけぞって甘いあえぎ声を上げた。段々、正気を失っている。
体を繋げてしまえば、こちらのものだ。
ノクトは追い込みを掛けることにした。
後穴をほぐすのもそこそこに、挿入の準備を始める。
雰囲気で何をされるか察したのだろう。
リュンクスの抵抗が激しくなった。
全身でノクトを押しのけようとする。
「鎖よ」
ノクトが呪文を口ずさむと、銀の鎖が勝手に動いて、リュンクスの四肢を縛り上げる。
抵抗されると、押さえ付けたくなる。
めったに無い加虐的な気分になって、ノクトは手荒にリュンクスの体をひっくり返し、四つん這いにさせた。
この少年を獣のように犯したいという、残虐な衝動が湧いてくる。
「お願いだから、止めて……!」
一度、繋がったら、もう逃げられない。
本能的にその事を勘付いているリュンクスは、必死に「嫌だ」と最後の抵抗をする。
ノクトは、止めるつもりはなかった。
「ぅああああっ!」
悲鳴を上げるリュンクスを、強引に己の凶器で貫く。
同時に魔術の呪文を唄い上げる。
相手の魔力の流れを変え、属性を確定し、サーヴァントに堕とす魔術だ。
リュンクスの体をしっかり押さえ込み、魔術を流し込む。
痛みと衝撃に嗚咽を漏らしていた少年の様子が、変わり始める。
「……ああ、繋がったね」
ノクトは荒い息を吐く。額から垂れた汗がシーツにしたたった。自身も性交と魔術の使用で消耗していたが、ゆるゆると立ち上る快感に笑みを浮かべる。
二人の間に力の道が繋がり、今、ノクトの感覚は相手のリュンクスの中へ広がっていく。
支配者であるノクトは、リュンクスの精神の手綱を握る。
「これで、君は私のものだ」
いつの間にか、リュンクスはとろけた表情になり、恍惚としていた。
無理やり挿入された痛みと圧迫感は消え失せ、じわじわと幸福感に満たされていく。
自身を律するもの全てを手放して良いのだ。マスターに全てを明け渡し、快楽に溺れる。
それはサーヴァントとしての覚醒だった。
「これは、もう必要ないね」
ノクトは呪文を唱えて、銀の鎖を外した。
柔らかい黒髪を梳いてやると、リュンクスは猫のように手にすり寄ってくる。
「ふふ、可愛いな。自分で初めてサーヴァントにした子は、特別だっていうけど、本当にそうだ」
大人しくなったリュンクスを大事に抱え込む。
しばらくすれば正気に戻るだろうが、正気に戻っても、この後輩はもうノクトの虜だ。
絶対に千切れない、見えない鎖で繋いだのだから。
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