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第4話

十八時四十分。今日の授業も終わった。俺はあと帰るだけだったがスマホを見るとサクからメッセージが届いていた。 『今日空いていたらご飯行きませんか』 俺は心の中でガッツポーズをし喜んでいた。何回かやり取りをし、俺の授業終わりに大学の正門前で合流することになり、俺は正門へ向かっていた。 「あ!先輩」 サクがこちらに気付くとぶんぶんと手を振っているのが見える。小走りで近づき 「お待たせ。待った?」 「いえ。四時に夕刊の配達が終わって、大学戻ってきて図書館でレポート書いてたんで、全然」 「そうか。一年は必修もあってレポート大変だよな。二年もそう変わんないけど」 「そうなんですか…これ以上大変になったら俺無理そうです」 「大丈夫だよ。まだ四月で入ったばかりなんだから。慣れだよ、慣れ」 「そんなもんですかねぇ」 「あ、メシどこ行く?」 「先輩のおすすめってあります?俺まだこのあたり詳しくなくて。よかったら教えてほしいです」 「お!任せておけ。安くて腹いっぱい食える店ならいくつか知ってるぞ。仲間ともよく行くしな」 「わーい!行きましょう」 俺たちは歩いて大学近くの安くてがっつり大盛系の店に行った。そこでサクはオム焼きそば、俺はチャーシュー丼を頼んで食べた。 「あー。おなかいっぱいです」 「サクって見た目細いのに結構食うな」 「もう、見た目で判断しないでください。これでも食欲は普通の健康男児並みです。それに新聞配達だって重いですから体力勝負なんですよ」 「そうだよな。ごめんごめん」 「そういえばこの後どうします?」 「んー、そうだな。今は…十九時五十分か。サクは明日早くないのか?」 「明日も配達あるので夜十時くらいには寝ます」 「そしたらもう帰るか」 「…本音を言うと、もうちょっとだけ一緒にいたいです」 サクが俺のTシャツの裾をつかんで俺に近づいた。俺はドキドキしてふと思いついたことを口にした。 「そ、そうか。…あ、近くの本屋行く?漫画見たくて」 「…行きましょ!」 サクはそれを見透かしているかのように微笑んでいた。 定食屋から歩いて五分くらいのところにある本屋に来た。俺は追いかけている漫画の最新刊があるか探した。結果、まだ入荷していないようだった。そのことをサクに告げると 「ちょっと俺も見ていいですか」 というので一緒にサクが見たいコーナーへと移動した。それは心理学のコーナーだった。 「新しく本買わなくても、教科書いっぱいあるんじゃないの」 「俺将来スクールカウンセラーになりたいんです。そのために事例をたくさん知っておきたくて」 そういうサクは『実践!事例で学ぶこどものための認知行動療法』という本を手に取っていた。パラパラとページをめくり中を確認したサクは本を棚に戻した。 「オッケーです。満足しました。帰りましょう」 「本、買わなくていいの?」 「俺バイト代家に入れたりしてほとんどお金ないんで欲しい本は大学の図書館にリクエストします」 「…俺、その本買ってやろうか」 「そんな、いいですよ。先輩」 「いいよ。今日サクに会えた感謝を込めて。俺からサクへのプレゼント」 俺は本棚から先ほどの本を取ってレジへと向かった。そのあと俺たちは店を出て入り口わきによけて立ち、俺はサクへ買った本を手渡した。 「はい、どうぞ」 「…昨日会ったばかりのやつに、なんかすみません」 「いいんだよ。俺が買いたかっただけだから」 「……っ、先輩。ありがとうございます」 そういうサクは本を両手で大事そうに抱きしめた。 「どういたしまして。勉強頑張れよ」 「はい!頑張ります!」 サクのきらきらした目を見ていると俺まで心が明るくなった。 「じゃあ大学戻るか。サクは原付で帰るんだよな」 「はい、そうです。先輩は歩き?」 「そうだな。マンションはここより大学寄りだから大学まで一緒に行くよ」 「わかりました」 そういって二人で大学へ向かった。しばらく無言で歩いているとサクが口を開いた。 「あの…」 「ん?どうした」 口ごもるサクの手は少し震えていた。 「…先輩がよかったら、なんですけど」 「うん」 「俺と…付き合って、くれませんか」 「……お?」 俺は一瞬頭が真っ白になった。なにせ俺はアルファではあるが極度のヘタレで年齢イコール彼女いない歴の童貞だったから、これはとてつもない青天の霹靂だった。 「ダメ…ですか……?」 サクは上目使いであの潤んだきらめく瞳で俺を見つめてきた。ちなみにサクは身長一六〇センチくらい、俺は身長一八〇センチあり身長差のせいで彼が俺を見つめる姿勢が自然と上目遣いになるのだが。そんなことを考えていたが俺はすぐに彼の震える手を両手で握った。 「ダメじゃない」 「…と、いうことは」 「付き合おう」 それを聞いたとたん彼はぱあっと顔が明るくなった。 「…嬉しい!嬉しいです」 「……俺も。初…彼氏?」 「え?そうなんですか?先輩モテそうなのに」 「う、まぁ…いろいろと、な」 「嬉しい!俺が先輩のハジメテなんですね」 「ちょ、その言い方はなんか…」 「間違ってます?」 「……間違ってない」 「…ふふん」 サクの表情は誇らしげだった。こうして俺たちは付き合うことになった。

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