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第5話

四月二十五日 「なぁサク、ISSって知ってる?」 俺は今日大学授業で出てきたワードをサクに投げかけてみた。 「ああ、知ってますよ。国際宇宙ステーションのことですよね」 サクは使ったマグカップを流しで洗いながらさも当然かのように答えた。おお、さすが星に興味のある人間だ。 「そうそう。実はそれ今日どの方角のどのくらいの高度で、何時に見れるかネットで見れるんだぜ」 俺はどや顔で自信満々に言ってみた。 「え!そうなんですか?調べてみましょうよ」 サクは興味津々のようで、身を乗り出して俺のスマホをのぞき込んできた。俺はその期待に応えようとインターネットでISSの今夜の場所を調べ始めた。 「ええと…、今日は…。あ!あと八分後に東南東の方角の低い空に見えるぞ!」 「えぇ!見ましょう、見ましょう」 俺たちはベランダへ出て星のように横に動く衛星を二人で眺めた。 「あれですか?」 「うん、あれあれ」 「あ、消えちゃった」 「地球から見える範囲の軌道から外れると見えなくなるんだよ」 「そうなんですか。ISSではいろんな人が頑張って研究しているんでしょうね」 「そうだね。ロマンあるよね」 「そうですね。…あ、聞いてもいいですか」 「なに?」 「先輩ってなんで宇宙物理学を専攻したんですか?」 「簡単に言ったら宇宙にロマンを感じたからかな」 「こう言ってなんですがなんだか身もふたもない回答ですね」 「あはは、そうだね。昔、今通ってるのとは別の大学なんだけどそこの文化祭に行ったんだよね。中学生くらいの時かな。そこに天文サークルがあってサークルの人が作ったオリジナルのプラネタリウムがあったり星の写真が飾られていたりして、とってもきれいだなって思ったんだよ。それがまず星や宇宙に興味を持ったきっかけかな。そのあと中学高校で数学が面白いなって思い始めて、何かに活かせないかなと考えていたら天文学がいいんじゃないかなと思うようになって。将来は天文台か星や宇宙にかかわる研究や仕事をしたいと思っているよ」 「そうだったんですか。先輩の人生もなんだかロマンありますね」 「なにそれ、あはは」 「俺たちが出会えたのもロマンなんじゃないですか?」 「そうかもね」 五月五日 午後三時 「先輩!今日は謎解きで遊びましょう」 「謎解き?なんだそれ」 サクがやる気満々といったように突然言い出した。 「ふふーん。俺最近ハマってるんですよ。なぞなぞみたいなもんです。とっても楽しいですよ!」 サクはほこらしげな、なんだかワクワクしているような顔をしている。 「へぇ…ならやってみるか」 俺の言葉を聞くや否やサクはバッグから赤い封筒をさっと取り出した。 「なんだ、その封筒は」 俺はその封筒の見た目が少し不気味に感じた。 「これが第一の封筒なんです。この中の謎が解けたらキーワードがわかって、それをインターネットの専用サイトに入力します。すると第二の封筒を開けって指示がおそらく出て、次の謎に進めるんです」 とサクはさらさらと俺に説明した。俺はなるほどと思いながら 「ふーん。サクは前にもやったことあるのか?」 と聞いてみた。するとサクは 「そうですね、たまに遊びます。一人でも遊べるものいっぱいあるので。あと解けるとすっきりするんですよ」 といった。それを聞いた俺は 「そうか。これからは俺も一緒に遊んでいいか?」 とサクに尋ねてみた。サクは嬉しそうに 「もちろんです。一緒に遊んでください!」 と言った。サクのお尻のあたりに犬のようなしっぽがぶんぶん揺れている幻が見えた気がした。サクは今日も笑顔が可愛らしかった。 五月五日 午後八時 謎解きでたっぷり遊んだ後二人で宅配のピザを食べ、先輩はお酒を飲みながら謎解きの続きをしていた。だが先輩はだんだん眠くなり、ついには机に倒れるように眠ってしまった。あーあ、先輩寝ちゃった。お酒あんまり強くないのかなぁ。 「うーん、むにゃむにゃ。サクぅ…」 あはは、俺のこと呼んでくれてる…。 「夢でも見てるんですか?…毛布かけますね」 俺は近くにあった毛布をふわっと先輩にかけるとその毛布から先輩のにおいがした。俺は毛布越しに先輩の背中に覆いかぶさるようにして先輩を後ろから抱きしめた。 「…いつになったらまた抱いてくれるんですか、先輩」 目を見て言えないこの気持ち。いつになったら先輩に伝えられるのだろう。俺はため息を一つ、小さく吐いた。 五月十三日 「先輩、今日はカレーを作りましょう」 今日もサクはうちにいる。夕飯を一緒に食べるためにたまに二人で料理もするようになった。 「カレーか、いいな。サクは何辛が好みなんだ?」 と聞くとサクは間髪入れずに 「え?何言ってるんですか。甘口に決まってます」 ときっぱりと言われた。 「おお、そうなのか。俺はわりと辛口が好みで」 俺の言葉を遮るように 「甘口にします」 とサクは同じ言葉を言った。俺はもう一度提案するように 「…間をとって中辛とかは?」 と言ってみたが 「駄目です。甘口です」 きっぱりと断られてしまった。ならばと 「ルーを二つ買って半分ずつ入れるとか」 とも提案してみたが 「駄目です」 同じ結果だった。 五月二十六日 「今日はうちでレポート書くのか」 サクが俺のマンションに入るなり、すぐにノートパソコンを開け書類を机の上に広げた。 「すみません。まだ課題が終わらなくて、先輩のマンションで続きをやろうと思って」 真面目なことは良きことかな。俺はそう思い 「いいぞ。もし俺が教えられることなら何でも教えるからな」 と先輩面をしてみた。するとサクは 「ありがとうございます。先輩のマンションいい匂いするし、なんだか雰囲気が落ち着くんですよね」 となんとも嬉しいことを言ってくれた。 「実は俺アロマとか好きでさ。今はカモミールのアロマを垂らしてるぞ」 「この香りアロマだったんですね。先輩、可愛いところもあるんですね」 「かわっ…、可愛いか?」 「ふふっ…。その困ってる表情もとてもかわいいですよ」 今日もサクは俺をからかいながら楽しそうな表情を浮かべていた。 五月三十一日 「先輩、北極星って見つけられますか」 サクはベランダに出て夜空を眺めていた。 「わかるよ。北極星は見つけるコツがあって」 俺もベランダへと出た。 「北の空を見て、ひしゃくの形に並んだ七つの星でできた北斗七星をまず見つけるんだ」 サクはじーっと空の星を眺め 「んーと…あ!ありました」 無事見つけたようだった。 「そしたら、ひしゃくのところから五倍離れたところに北極星がある。他の見つけ方は、Wの形をしたカシオペヤ座が北西の空にあるから、Wの真ん中から五倍に北のほうへ進むと見つけられるぞ」 「ありがとうございます。次からは自分で見つけられますね」 「そういえばさ、なんであの日天文台に来てたの?」 「あぁ、俺バイトで新聞配達してるとき、まだ家を出るときは空が暗くて星が見えるんですよ。だから星のことわかるようになったら楽しいかなぁと思って勉強しに行ってました」 「そうだったのか。星のことなら俺いろいろ詳しいからこれからも聞いてよ。俺もサクに教えたいし」 「はい!楽しみにしてますね、先輩」 そのあとはベランダで二人で星座を探したりして星空を楽しんだ。

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