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第6話

六月七日 「先輩、これ」 「なんだ」 俺はサクに白紙の紙切れを渡された。 「ふっふーん、謎解きです。メッセージを解読してみてください」 サクは以前も見たことのあるどや顔をしている。 「なんだぁ?白紙じゃないか」 「そんなことありませんよ。よーく見てください」 と言われ俺はメモをよく、じーっと見てみる。 …うーん。よく見るとうっすら文字が書かれているように見えなくもない。だが全く読めない。 そのまま三十分後。 「先輩、そろそろヒントほしいですか?」 サクがにやにやしながら言ってきた。 俺は半泣きで 「ヒントください!」 とお願いした。するとサクは 「ヒントは、『冷やす』です。 と言い、はじめはわからなかったがひとつ思いついたことがあった。そして俺は冷凍庫にメモを入れた。 十五分後。そろそろ頃合いかと思い俺は冷凍庫からメモを取りだした。すると思った通りメモは摩擦熱で消えるペンで書かれており、冷やしたことによって文字が浮き出てきていた。おそらく文字を消すときはドライヤーか何かを使ったのだろう。さてさて…何が書かれているのか。俺は文字を読むと『遊園地いきたい』とメモには書かれていた。サクを見てみると手を後ろのほうに組んで、横にうつむきながらもじもじしていた。 六月十二日 「わーい!先輩と遊園地行けるなんて嬉しいです」 今日はサクと近くの遊園地に来た。サクはとても嬉しそうである。 「この間、遊園地行くの初めてだって言ってたよな」 「そうです。俺の家、シングル家庭だからなかなか親と遊びに行くとかできなくて。俺、今日をすっごい楽しみにしてきたんです!」 サクはそう言うとそわそわと体を動かし何の乗り物に乗ろうかと看板を眺めている。 「まず何から乗ろうか」 「もちろん!ジェットコースターです」 今日は一日サクに付き合おう、と決めた俺だった。 ジェットコースタ―を連続で二回乗ったあと、コーヒーカップ、お化け屋敷、ぐるぐると三六〇度回る車、アスレチックコーナーなどを存分に楽しみ、フードコーナーでフランクフルトやフライドポテトを食べ、最後に観覧車にやって来た。 「ついに観覧車です!」 「サク、ほんと今日はずっと楽しそうだったな。まるで小学生みたい」 「そうです!気持ちは小学生と同じですよ。だって、ずっと来たかったところに来れたんですから。…それに先輩と一緒だから、もっと嬉しいんです」 それを聞いて俺も嬉しくなった。 「サク…。俺も今日はとっても楽しかったよ。ありがとう」 「こちらこそです。こんな楽しい時間をありがとうございました。俺、今とっても幸せです」 そういうサクの笑顔はとてもとても、愛らしかった。 六月二十日 「あー。今日はご飯何にしようか」 今は夕方五時。大学の授業終わり、俺は夕飯を何にするか悩んでいた。 「先輩ってたこ焼き機持ってます?」 サクが突然そんなことを聞いてきた。俺は記憶を巡らせ確か押入れの奥に買ったあとしまい込んでいたのを思い出した。 「あ、あるぞ。一回やってみたいなーと思って買ったんだけど、まだ出したことない」 というとサクは 「よし!今日はたこパしましょう!」 と軽やかに提案してきた。 「おぉ。なんだか楽しそうだな。何入れる?やっぱたことチーズと…」 「キムチに、納豆に、漬物に…」 「渋いな」 「あ、ホットケーキミックスも焼いて鈴カステラなんてどうですか?」 「うまそう!家帰る前にスーパー寄って、材料買いに行こうな」 「はい!」 今日の夕飯も楽しみだ。 六月三十日 「サク、今日は映画を見よう」 今日は俺から提案してみた。 「…いいですよ。なんにします?」 なんだかサクの反応が今日は鈍いように感じた。 「俺、気になってる映画があって」 「……じゃあ、それにしましょう」 俺はスマホをテレビにつないで映画を見始めた。しばらくして俺は気になるシーンがあり、サクに話しかけた。 「なぁ、サク。これって…。あ」 ふと横にいるサクを見ると静かにすやすやと寝息を立てていた。疲れてるんだな。いつも朝早くからバイト頑張って、俺にも付き合ってくれて。ありがとうな。俺はサクの頭をポンポンと触り、頬をつんつんとつつき、サクの手を軽く握った。ほわっとあたたかい。恋人ってこんな感じなのかな。初めてのことだからよくわからないけれど。幸せかどうかで言ったら、幸せ。嬉しいかどうかでいったら嬉しい。好きかどうかで言ったら…正直わからない。けれど一緒にいて楽しいってことは、これが好きって気持ちなのかな、と思った。 七月五日 「…今日は満月ですね」 サクは窓の向こうの月を眺めていた。 「そうだな。どおりで夜でも空が明るいわけだ」 今日は月の光でそのぶん星は見えにくかった。 「俺、一度月に行ってみたいです」 突然サクがそんなことを言い出した。 「はは、宇宙飛行士にでもなるのか?」 「そういうわけじゃないですけど…。一度でいいから月の裏側を実際にこの目で見てみたいです」 サクは月を眺めながらしみじみとつぶやいた。 「確か意外と月の裏側ってクレーターがあってでこぼこしてるんだよな」 「そうらしいですね…。月はずっとこちらを見ていて、きれいな部分しか見せてくれないんですね」 「俺らには裏側を見せないように、かもね」 「ふふっ。やっぱり先輩と話していると面白いです」 サクは月から来た使者のようにうっすらと微笑み目を細める。 「そうか?俺は普通に話してるつもりなんだけどなぁ」 サクは昔話のように月へ帰る、なんてことにはならないよなと俺は自分に言い聞かせるように、心の中でそう思った。 七月十日 「アイスでも買いに行くか」 まだ六月なのに暑くて夜でも気温が下がらない。夜中に二人でコンビニへでかけた。 「先輩はどれにします?」 サクは様々なアイスを見比べながら吟味している。 「俺、このチョコバーにする。これちょっと高級感あってうまいんだよなぁ」 俺はお気に入りのアイスを手に取った。するとサクは 「俺はこのガリンガリンのアイスにします」 と青色のアイスキャンディーをかごに入れた。 「おー、うまいよな、それ。夏に食べるとさらにおいしく感じる」 「それわかります!バリバリ食べるのがいいんですよね」 会計を済ませ店を出た。夜はたまに通る車のヘッドライトと頼りない街灯くらいしか光がなかった。二人で暗闇の中、星明りがちかちかと照らす帰り道を歩きながら食べるアイスはいつも以上にとてもおいしく感じた。 七月十二日 「先輩、今日は映画館で話題のホラー映画を見に行きましょう」 「えぇ…。うん、サクが見たいなら…。いいよ…」 俺はホラーが大の苦手だったがサクと一緒なら見れるかも、と思い映画館に行くことにした。 「よーし、張り切っていきましょー!」 かたやサクは最高にノリノリのテンションだった。 そして二時間後。 「ああああああ、怖かった…」 正直ションベンちびりそうだった…。サクはそんな俺のことなんてお構いなしに 「あそこの幽霊の動き面白かったですね!笑っちゃいました。ね?先輩」 とニコニコと笑顔で話しかけてくる。 「お前超余裕だな。怖いの平気なの?」 「そうですねー、わりと」 「そうか…。お前今日って俺のマンション来る?」 俺はつい聞いてしまった。サクは不思議そうに 「行こうと思ってましたけど…。なんでそんなことわざわざ聞くんですか?」 と聞いてきた。だって…。 「…一緒に隣で寝てほしいから」 サクはそれを聞いてプッと吹き出した。 「あははっ、よっぽど怖かったんですね。どうせベットは一つしかないんですし一緒に寝ましょう」 それを聞いて俺は安心した。 「よかった…」 サクは俺をからかうように 「もしかしてトイレも一人でいけなかったり?」 と聞いてきた。 「それは…大丈夫、たぶん」 うん。たぶん大丈夫…のはず。 「ふふふ。先輩ってやっぱり面白いです」 「面白がるなよ…」 映画もたまにはいいな、と思った一日だった。 七月十五日 大学の授業終わりサクと図書館で待ち合わせた後、二人でマンションに行く直前だった。 「あ、雨だ」 とサクがつぶやく。図書館を出ようとした瞬間ざーっと雨が降り始めた。 「傘持ってきてないや」 「俺折りたたみ傘あるけど、一緒入ってよ」 俺はバッグから傘を取り出す。最近傘が壊れて、間に合わせで買った安い折り畳み傘をバッグの中に入れっぱなしにしていた。 「いいんですか」 「だって濡れたりして、風邪ひいちゃったら困る」 と俺が言うと 「そしたら先輩に看病してもらいます」 とサクは面白いことを言った。 「あのなぁ…、それだとバイトにも行けないだろ。そもそも大学休むことになるし」 「あ、そうでした。どっちもできれば休みたくないです」 「そうだろ。ほら、こっち来い」 俺は傘をばっと開きサクを手招きをする。 「…おじゃまします」 サクはおずおずと俺の隣に入る。俺はサクの肩をそっと自分側へ寄せた。雨の日も悪くないなと思った。

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