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第8話
原稿用紙はよく学校で作文を書くときに使われるような四百字詰めの原稿用紙で、どうやら物語が綴られているようだった。俺はざあっと軽くななめ読みしてみた。大体のストーリーは男女二人が謎を解いて宝物を探すという冒険物のようだった。
そしてその原稿用紙と一緒に入っていた不思議な紙は以前サクと一緒に遊んだ謎解きに近いようなものに見えた。しかし、原稿用紙に書かれているストーリーに出てくる謎とは別物のようである。…なんだこれ?今更だが、玄関を少し開けて外を見てみたものの誰もいなかった。一体誰が、何のためにこの封筒を俺の家の郵便受けに入れたのだろう。疑問は大いに残るが、これを郵便受けに入れた人物は俺にこの謎を解いてほしいのではないか、と少し思った。それならば、と俺は出かけるまで少し時間があったので、その謎を解いてみることにした。
さて、次のグループに当てはまる数字のみ塗りつぶせ、か。おそらく四角ごとにグループ分けされているのだろう。そしてこのグループには見覚えがある。この謎の答えは想像するに1~9のうちのどれかになるはずだから、宇宙や星が好きな俺にとって答えは簡単である。答えは1等星と2等星、つまり『1』と『2』である。俺は謎の指示通り1と2の数字のみをシャーペンで塗りつぶした。すると出てきた答えは『イエ』であった。イエ?どこの?と思ったが時計を見るともう家を出る時刻の八時半になろうとしていた。今日は九時から一限の講義がある日だ。とりあえず俺は原稿用紙と謎解きの紙を封筒に戻し、それをバッグにしまって大学へ行くことにした。
午前中の講義を終えた後、俺は食堂へ向かった。いつもなら先にサクが食堂前にいてその日どうするかを決める流れだった。しかし今日はサクがいつものところにおらず俺はサクにメッセージを送りしばらく待ってみたがメッセージに既読すら付かなかった。仕方なく俺は食堂の中へ入り仲間が座っているテーブルに近づいた。
「あれ、ノゾムじゃん。いつものサクちゃんは?」
宮内が俺に声をかける。
「…なんか今日いなかった。ライムも既読つかない」
「へー、めずらし。なんでだろうね」
「お休みとか?」
一緒にいる奥羽も不思議そうな顔をしている。
「そういえば俺、今日二限サクちゃんと同じ授業の『統計学Ⅰ』だったけどサクちゃん教室いなかったかも」
と宮内が言うと
「マジ?」
俺は少し不安感を抱いた。
「まじ」
「え、どうしよう」
俺は心臓がどきどきしていた。
「うーん。あとでサクちゃんちに行ってみるとか?ここからそんな遠くないんでしょ」
宮内にしては悪くない提案である。
「うん。俺、今から行ってくる」
俺は踵をかえすように食堂の出口へと向かう。
「ノゾム!昼飯は?」
と大声で奥羽に言われると
「それよりサクのほうが大事」
とより大声で返事をした。俺は食堂を出てすぐ徒歩五分のマンションに戻り、車に乗り込んでエンジンをかけた。
サクの家についた。車は道路の邪魔にならないところに停車した。サクの家はアパートの三階だ。俺は細い階段をのぼり、玄関チャイムを鳴らした。するとサクの母親が出てきた。サクの母親とは以前サクの家に遊びに行ったときにあったことがある。サクとよくにているが、サクよりも線が細く体もより華奢できちんとご飯を食べているのか心配になるような姿をしている。
「あら…ノゾム君じゃない。どうしたの?」
サクの母親は驚いたような表情をしていた。
「こんにちは。突然すみません。あの…サクノスケ君は今日ご在宅ですか?大学で見かけなかったもので具合でも悪いのかと」
「あら、サクノスケは今朝大学へ行きましたよ。ただ…」
「ただ?」
そういう母親の表情は少し暗かった。
「昨日の夜、あの子なかなか帰ってこなくて夜中の二時頃家に帰ってきたんですよ。新聞配達があるから支度をしてそのままバイトに行って。朝六時頃バイトが終わって一度家に帰ってきて、朝ご飯を食べて。そのあと朝八時頃に大学へ行きました。その時これを」
そう言って母親は玄関のシューズボックスの上に置いていたA4の茶封筒を手に取り、俺に見せた。
「ノゾム君がもしかしたら家に来るかもしれないからその時に渡してくれって、あの子が。直接渡せばいいのに」
母親が持っているその茶封筒は朝自宅のポストに入っていた茶封筒ととてもよく似ていた。
「中を見てもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」
母親は俺に茶封筒を手渡した。
「…ありがとうございます」
俺は封筒を受け取り中身を確認した。その中には先ほどのような原稿用紙は無く一枚の紙が入っているだけだった。
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