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第11話

これはいったい何の文章なのだろうか。ところどころ日本語だったりアルファベットになっている。もしかしたら、もともとはなにかの詩なのだろうか?文章の中で『オリオンは高くうたひ』がきちんと日本語のままだと思いスマホでその言葉を検索をした。すると『宮澤賢治』の『星めぐりの歌』というのがヒットした。どうやらこの文章は星めぐりの歌の虫食いで、アルファベットと数字がそれぞれの場所に埋め込まれた状態になっている。俺は持ってきたバッグからシャーペンを取り出しメモに書き込みをはじめた。しばらくしてすべての文字がわかり、次のメッセージが浮かんできた。 『だいすき。あなたを あいしています。』 これはもしかしたら、サクからのメッセージなのだろうか。だとするとあの原稿用紙のストーリーもサクが書いた話なのだろうか。謎のもうひとつの空白は、当てはめると『あきもとこ』の『けしき いいところ』になった。俺はスマホで『あきもとこ』を検索した。すると、秋元湖という湖がヒットした。観光情報サイトによると朝日がきれいに見えることで有名な場所らしい。そこはここから車で二時間半くらいの距離だった。『けしき いいところ』とはなんだろうと俺は考えた。色々と考えながらスマホで秋元湖の観光情報サイトをつらつらと眺めていると、秋元湖には展望台が存在することがわかった。…もしかしたらサクは『秋元湖展望台』へと向かったのかもしれない。しかしなぜそこなのか。…考えても答えは出ない。とにかく俺はそこへ向かうことにした。時刻は十七時五分。俺は急いで車を走らせた。 秋元湖に到着した。車は近くの空き地に停め、降りて辺りを見渡したが街灯などはなく暗闇だけが一面に広がっていた。俺はスマホのライトをつけて展望台を目指して歩いた。まずは看板を探し、ひっそりと小さな木でできた看板を発見した。森の中へと入っていくと、しばらく道が続いており、ときたま人が来るような想像ができた。暗い中スマホのライトを頼りに坂道を気を付けて上ると、徒歩十分ほどで展望台へと着いた。そこは小高いようなものではなく湖の西側の周りに沿って東向きにまっすぐに開けている場所だった。湖に向かってベンチが一つポツンと設置してあり、そこに俺の探していた人物が座っていた。 「サク!」 彼は俺の声を聞いてびくっと肩を震わせると、ゆっくりとこちらを振り向いた。彼は泣いており、目の周りを赤くはらしていた。涙袋は水分を含んでぷっくりと膨らんでいる。俺は彼にずんずんと近付く。とうとう彼の前に俺が来た時彼は目をぎゅっとつむって、体を硬直させ、まるで怒られる前の子供のようなそぶりを見せた。俺はそんな彼を優しく抱きしめた。 「……先輩?」 「……ここにいてくれて、本当によかった」 「……う、うぅ」 彼は我慢していたらしい涙をこらえきれずに大粒の涙を流した。俺は彼をさらにぎゅっと、強く抱きしめた。 「せ、んぱ、いぃ……」 「サク、探したぞ」 「……ごめんなさい」 「あの謎解きはお前が作ったのか?」 「……そう、です。本当は先輩にサプライズ用で作ってたもの、なんだけど」 「……どうしてここなんだ?」 「…元々来たかったところだから。星がきれいってきいた」 そういうと彼は自分の顔を俺の胸にうずめた。俺は空を見上げた。見ると空は満天の星空だった。 「……きれいだな、空」 「……ほんとは二人で一緒に来て、二人で星空眺めたかった」 「なんでこんなところにまで、たった一人で来たんだ」 「……言いたくない、です」 「……」 「…一人で考えたかったの」 「…なにかあったのか?」 「……言いたくない、ようなことがあったんです」 「…そうか」 「……先輩、痛いです」 「あ、ごめん」 俺はつい力の入っってしまった両手を緩めた。サクは自分の両手を俺の背中に回して、ぎゅっと力をこめて抱きしめてきた。 「ここにきて、一人で考えて、考えて、考えて」 「うん」 「もしも先輩が迎えに来てくれなかったら、って考えると、ぞっとして、とても不安で」 「ちゃんと来たじゃないか」 「もしも。…絶対に来てくれるって、信じきれなかったから……」 「……っ、そうか」 「先輩が俺のこと、ほんとに大事に思ってくれてるのか、ずっと、わからなくて」 「すっごく、すっごく大事だよ」 「…でもあくまで、友達で」 「友達じゃない。恋人だ」 「なら……。恋人なら、なんでしてくれないの」 「え?」 「本当に俺たちは恋人同士なの?愛し合っているの?表面上の付き合いだけじゃないの?」 「サク、何を言ってるんだ」 「……俺、すっごい不安だったんだ。先輩と出会ったあの日から、なーんも、何もしてなくて」 「……その、体の関係、とか?」 「…うん。そういうことも、キスさえも」 「……」 「言葉だけじゃ、態度だけじゃ、俺不安で」 「……お前を不安にさせてごめん。俺のせいだ」 「……先輩のせいだけじゃないけどさ。ちょっと、いや、すっごく嫌なことがあったのも原因」 「でも根本は俺のせいだろ」 「……それで、俺、汚くて」 「どこが汚いの?サクはとってもきれいだよ」 俺はサクの頭をなでた。サクの髪はさらさらしていて指どおりがよくて気持ちよかった。 「俺、今、汚いの」 「汚くなんかないよ」 「……確かめたかった。先輩が俺のところに本当に来てくれるか、迎えに来てくれるか、心配してくれるのか、先輩を試したんだ。……俺のほうこそ、ごめんなさい」 「…俺もここに来るまで不安だったけど、ここにきて、サクがいて、すごく安心した」 「……」 「また会えてよかった。サクが無事でいてくれてよかった」 「……ごめんなさい」 サクは再び大声で泣き始めた。俺はもう一度サクの頭を撫でた。 「……大丈夫、大丈夫だよ」 「うっ、うぅ…」 サクの目からは涙がぽろぽろこぼれてきて止まらないようだった。 「サク。いったん泣いて、落ち着いて、大丈夫になったらさ、その、さっきの嫌なことっていうのも、俺に話してくれる?」 「……」 「サクが嫌だったら話さなくてもいい」 「……俺が汚くても、先輩は俺のこと、受け入れてくれる?」 「どんなサクも全部サクだよ。俺はサクを受け入れる」 「……なら、今、話す」 サクは顔をあげた。俺の服はサクの流した涙でしっとりと濡れていた。サクは鼻も目の周りも赤く、ずびっと鼻をすすった。何回かゆっくりと深呼吸した後、彼は覚悟を決めたような顔をして、話し始めた。

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