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第4話

治療室で別れを告げて以来、バイルは一度もシャルルの見舞いに訪れなかった。 研究院では、彼が研究室に籠りきりで出てこないという噂が広がり、同僚たちも困惑と心配を隠せずにいた。 数日後。ほぼ回復したシャルルが研究院に戻ってきた。 歩き方こそ安定しているものの、その表情には怒りの色があった。 「シャルルさん……? 大丈夫なのか……?」 「もう歩いて平気なんですか……?」 研究員たちの声をすべて無視し、シャルルはそのままバイルの研究室へ向かった。 ためらいは一切ない。 扉の前に立つと、何の予告もなく── バンッ。 扉が勢いよく開いた。 「うわぁ! ……え、シャルルくん……?」 驚くバイルに対し、シャルルは無言で歩み寄る。 そして、思い切りその前髪を掴み上げた。 部屋の外で見ていた研究員たちは血の気が引いたが、 シャルルの口から放たれたのは怒りに震える声だった。 「先生!!! 何勝手に一方的に言い捨ててくれてるんですか!!!」 「……いや、だって……」 「『だって』じゃないですよ!!  分かりますか!? 反論したいのに声が出なかった俺の気持ちが!!!!」 「……それは……すまない……」 バイルは眉を下げ、バツの悪そうに視線を落とした。 シャルルは大きく息を吐き、荒れ果てた部屋を見回す。 「……全く。そうでなくても、先生の部屋の掃除を誰がしてくれるって言うんです?」 「……それは……」 「大体、先生が勝手に気にしてるだけなんですよ。  今回ああなったのは先生のせいじゃなく、俺の注意不足もあります。  俺は、先生だから助手を申し出たんです。  最初にも言いましたよね?」 シャルルはまっすぐにバイルを見つめた。 「俺は……先生の元だから、学びたいんですよ……!」 バイルの肩が小さく揺れる。 「……そうか。そう言ってくれるのは……本当に嬉しいよ。  でも、私は君の才能の芽を摘みかねない人間だ。  私の元にいるべきじゃないんだ……」 その言葉に、シャルルは苛立ちを隠さずに言い返した。 「……っ、先生のわからず屋!」 部屋の外から研究員たちがビクッとするのが分かる。 シャルルは宣言するように言った。 「いいです。決めました。  また、あんたが折れるまでここに居座ってやる。  あんたは意図せずして俺をそばに置くことになるんです。」 「……そ、そんな……」 「先生は“そばに置かない”とは言いましたけど、  “来るな”とは言ってません。」 バイルはしばらく口を開いたり閉じたりしていたが、 最後に深く息を吐いた。 「……はぁ。私の負けだ。  ……これからも、よろしくね。シャルルくん。」 シャルルはようやく表情を緩めた。 「はい。こちらこそ。」

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